コロナ禍は、動画ビジネスに未曾有の困難をもたらした。しかし、さまざまな現場がストップしたからこそ、ビデオ会議システムを駆使した斬新なエンターテインメントなど、「未来の萌芽」が生まれている。
コロナ禍は、動画ビジネスに未曾有の困難をもたらした。しかし、さまざまな現場がストップしたからこそ、ビデオ会議システムを駆使した斬新なエンターテインメントなど、「未来の萌芽」が生まれている。
コロナウイルスの感染拡大が加速しはじめた2月以降、さまざまなITサービスの自宅利用率が増加し、動画配信サービスの利用も伸びを見せていた。しかし、これに反比例するかのように、映画館の興行収入は激減。映画館はいま、感染対策をした上での営業再開を果たし、8月から徐々に経営回復の兆しを見せている。しかし、ハリウッド作品の制作延期で空いたスケジュールの穴埋めや、動画配信サービスとの連携など上映作品の選定、上映方法は模索中だ。
また、制作現場でも感染拡大を考慮し、撮影の中断が余儀なくされ、スケジュールや予算に大きな打撃を受けている。外部スタッフに感染者や濃厚接触者が相次ぎ、ロケ地が突如不許可になる自体も起きたという。
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だが、このコロナによる困難のなか、コンテンツを絶やすまいと新たな制作プロジェクトが4月に開始された。完成した作品『きょうのできごと a day in the home』はYouTubeで配信され、大きな話題となった(現在、YouTubeでは非公開だが、Hulu[フールー]で配信中)。これが、株式会社ロボットと、『GO』や『世界の中心で、愛をさけぶ』で知られる行定勲監督がタッグを組んで実施した、完全リモートによるショートフィルムプロジェクトである。
そしてこのプロジェクトに携わったのが、ロボット執行役員、コミュニケーション開発本部で部長を務める加藤雅章氏だ。株式会社ロボットは、映画、テレビ番組、テレビCMなどさまざまな映像ジャンルのコンテンツ制作や、プロモーションを手がける。近年はVR、AR、MR、4K/8K放送、そしてボリューメトリックス(Volumetrics:3つの物理的次元で、視覚表現を形成できるグラフィックディスプレイのこと)といった新技術を取り入れた動画コンテンツも制作している。
同氏は、8月31日に開催したDIGIDAY[日本版]のオンラインイベント、DIGIDAY+TALKSの第2段「不確実な時代と動画ビジネス」に登壇。コロナ禍の動画ビジネス業界における大不況と大活況、そして新しい制作様式について、現場の声とともに語ってもらった。以下は、その様子を収めた動画と簡単なレポートだ。(動画はDIGIDAY+の「プレミアムプラン」ユーザー専用のコンテンツです)。
01:我々が学んだこと
各業界の苦しい状況
- 映画業界:撮影現場は密の最たる現場とされ、ハリウッドでは映画の撮影が中断されている。これを受け、日本の映画館ではハリウッド作品の穴を埋めるべく、複数のスクリーンで同じ作品を上映するなどの対策が求められている。加藤氏によると、平時であれば、上映スケジュールは3年先を見通して組むのが普通だという。「多くの映画館が、スケジュールを思うように組めないのが問題になっている。また、営業再開は換気や席を飛ばすといった『密』を避ける対策を行うことで可能となったものの、収益状況は依然として厳しい」。
- テレビ業界:バラエティ番組は、ソーシャルディスタンスを保った上で撮影が行われている。また、ドラマなどに関しても、リハーサルはフェイスシールド着用で行われるようになった。しかし、それだけ対策をしていても、感染の懸念からロケ地の撮影許可が降りなかったり、外部スタッフに感染者、濃厚接触者が出てしまったりと撮影を中断せざるを得ないこともある。「そうなると、予算やスケジュールに響いてしまうという」と加藤氏。加えてCMは、3.11のときと同様、現在放送されているもののなかでも、密を連想させるものや集客を目的としたものなどは差し替えとなり、制作段階のものはお蔵入りになっているという。
未来の萌芽
- 完全リモート体制の構築:映画の撮影現場が困難な状況にあることを踏まえ、ロボットは、行定監督と完全リモート体制で、ショートフィルム、『きょうのできごと a day in the home』、『いまだったら言える気がする』の2作品を制作した。またロボットでは、打ち合わせなども含め、フルリモートで制作したSansanのCM、ボリューメトリックスによる、いきものがかりのライブ番組、そして10万人を動員した長渕剛の生ライブなどがある。
- 原点回帰する機会にも:加藤氏は、行定監督との一連の作品について、映画祭の企画中にコロナの波に翻弄され、このまま止まっていられないということで「行定監督が役者に声をかけたのがきっかけだった。なかには本当に自宅から参加される方もいたのを覚えている。コンテンツを作るとはどういうことだったか、原点回帰する機会になった」と語る。実際、ナレーションを自宅で吹き込んで、それをデータで送信してもらったり、クライアントとはオンラインで話し合うなど、試行錯誤のなか動画制作を進めていたという。「困難な状況下で思いを実現するにはどうするかという方に、チームのエネルギーが向いていたので、全員でそこに向かって奔走するような感覚があった」。
今後のコンテンツ作りのありかた
- リスクヘッジからスタートする:撮影スケジュールを延ばしたからといって、コロナ禍がいつ収束するかはわからない。加藤氏は「さまざな角度からリスクヘッジをし、それをチーム内でしっかり共有しておかないとスタートできない」と語る。
- 多様化が進む:「映画やドラマ、そしてなど、さまざまなジャンルが実験的な試みを行い、互いに切磋琢磨するような環境が作られている」と加藤氏。たとえば、TikTokなどに投稿される短尺動画に関しても、そこに特化したクリエイターが現れている。こうしたクリエイターの多様化は、コロナ禍によって更に加速するだろうというのが同氏の見立てだ。
また、コンテンツのディストリビューションも、今後多様化していくだろうと同氏。たとえば、今年4月に公開を予定していた映画『劇場』は、7月からミニシアターでの上演と同時に、Amazonのプライムビデオ(Prime Video)で同時配信された。「動画配信サービスの盛況は、業界の若手育成にも繋がるかもしれない」。
02:イベント動画
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※動画再生時間:約57分
Written by 小玉明依
Photo by Shutterstock