「Digiday+ Talk」は、業界のリーダーとディスカッション繰り広げるオンラインイベント。6月25日に開催された第一段では、日本経済新聞社 執行役員 デジタル事業デジタル編成ユニット長を務める飯田展久氏が登場。その時の様子を収めた動画と、簡単なレポートをお送りする。(※動画はDIGIDAY+の「プレミアムプラン」ユーザー専用のコンテンツです)
コンテンツ評価の手法と真摯に向き合うことが、エンゲージメント向上の鍵となる。
この3月から4月にかけて、欧米では新型コロナに関する情報のニーズが高まり、パブリッシャーの有料購読者が急増。現在、増加の波は落ち着きつつあるものの、ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)やアトランティック(The Atlantic)では、いまだかつてないほどの増加率を記録したという。
こうした傾向は、国内でも見られている。日本経済新聞社が運営する日経電子版でも、3月23日より開始した創刊10周年キャンペーンも相まって、この3月から4月にかけて有料会員とアクセス数が大幅に増加。また、欧米のパブリッシャーのあいだでは、コロナ禍で急増した購読者のリテンションをいかに高めるかが課題になっていたが、日経電子版では解約数の抑制だけでなく、エンゲージメントの向上にも成功している。
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「コンテンツの価値をスコア化し、高スコアコンテンツが増えたことが、顧客のエンゲージメント向上の要因のひとつだ」。こう語るのは、日本経済新聞社 執行役員 デジタル事業デジタル編成ユニット長を務める飯田展久氏。同氏は、日経ビジネス(日経BP)編集長や日本経済新聞社のアジア編集総局長などを経験し、2019年より現職に就任した人物だ。
これまで日経電子版では、独自指標「F√V(Frequency:訪問頻度 √ Volume:閲覧コンテンツ本数)」を用いて、有料購読者のエンゲージメントを可視化。その向上に努めてきた。そして直近では、顧客のエンゲージメントだけでなく、多様な数値を掛け合わせた独自指標を開発し、質の高いコンテンツ作りも追求しているという。
飯田氏は、6月25日に開催されたオンラインイベント、DIGIDAY+TALKSの日本版第1段「『有料たりうる』コンテンツを、いかに生み出すか? 〜日経電子版・10周年を支える『オーディエンスエンゲージメント』戦略〜」に登壇。コロナ禍におけるエンゲージメント戦略や、10周年を迎えた日経電子版が今後どこに向かうのか、について語ってもらった。以下は、その様子を収めた動画と簡単なレポートだ。(動画はDIGIDAY+の「プレミアムプラン」ユーザー専用のコンテンツです)。
01:我々が学んだこと
新型コロナ禍中の出来事
- アクセス数、有料購読者の急増:2月後半から、日経電子版のアクセス数が急激に上昇。この3月から4月にかけては、多い日だと例年の約1.5倍のアクセスを記録したという。有料購読者の申し込み数も、例年を上回る水準で増加。背景には、新型コロナに関連するニュースへの読者ニーズが高まった点が挙げられるという。
- 10周年キャンペーンの相乗効果:また、それに加えて日経電子版10周年のキャンペーンの実施が相乗効果を生んだと、飯田氏は分析する。同キャンペーンで実施されたのは、Twitterのプロモトレンド枠の確保や新規コンテンツの展開、そして新社会人をターゲットに実施した春割キャンペーンなどだ。
- エンゲージメント率が向上:国内では現在、緊急事態宣言の解除とともに、新型コロナウイルスに関する情報ニーズは収まりつつある。とすれば、解約数が増えたり、エンゲージメント率が下がったりしてもおかしくない。ところが日経電子版では、解約数の増加が見られないだけでなく、エンゲージメント率も上昇。以前から同サービスでは、有料購読者一人ひとりのエンゲージメントを示す「F√V」という指標を独自で開発し、これによって導き出したスコアに基づいて、有料購読者を5つに分類している。このうちロイヤルティの高い上位3層である、スーパーロイヤル、ロイヤル、ミドルの割合が、2020年春以降、8割を占める勢いで高まっているという。
エンゲージメント戦略
- コンテンツ価値の可視化:インターネットメディアの世界では、これまでコンテンツを評価する際の指標にはPVが用いられてきた。しかし同サービスでは、PV至上主義から脱却し、単純に読まれたという点だけでなく、コンテンツの質を評価するための独自指標が活用されている。アクセス数のほか、有料購読登録の誘発率、加えて開錠率(※)といった指標を踏まえて、有料コンテンツをスコア化している(※日経電子版では無料会員制度も採用しており、この無料会員を「登録会員」と呼んでいる。彼らは、有料コンテンツを月10本まで読むことができる)。
また、コンテンツの価値を可視化することで、「記事の書きっぱなし」を防ぎ、次のコンテンツ作りの糧にするような体制作りにも努めているという。その成果もあってか、ここ数カ月で高スコアのコンテンツが増加。有料購読者のエンゲージメント率の向上に寄与している。
- ニュースレターの活用:加えて、飯田氏が有料購読者のエンゲージメント向上に効果的だと語るのが、ニュースレターだ。現在、電子版や紙の新聞では読むことができない、取材の裏話といった内容を、有料購読者に配信している。
- コアユーザーにとって価値あるものを:日経電子版では、日々多くのコンテンツがパブリッシュされている。「しかしその大半は、そこまで読まれないというのが現実だ」と飯田氏。こうした事態を踏まえ、日経電子版では現在、コンテンツ本数を減らす方向で検討している。「お金を払っている人に、本当に読まれるコンテンツは何なのか? コアユーザーに対して価値があるものを追い求める必要がある」。
日経電子版の今後
- テキストにとらわれない表現:コンテンツに関しては、調査報道やビジュアルデータ、そして映像を活用するなど、これまでの報道の枠組みを超えた、新たなジャーナリズムのあり方を体現していくという。
- サービスの多角化:ビジネス・経済領域だけではなく「キャリア領域などのサービスの展開も、日経電子版を核として展開していきたい」と飯田氏。また、AIで読者が読んだ記事を解析し、読者が読みたいであろう記事をレコメンドする、パーソナライズ機能も実装する計画だという。「日経電子版は、最強のサブスクメディアを目指す」。飯田氏はイベント終盤でこう強調した。
02:イベント動画
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※動画再生時間:約1時間10分
Written by Kan Murakami
Photo by 日経電子版