多くのメディアやマーケティング担当幹部にとって、ブロックチェーンはいまだにインターネットの謎めいた部分であり、自分たちのビジネスとは遠く離れたところで起こっている現象のように思える。
多くのメディアやマーケティング担当幹部にとって、ブロックチェーンはいまだにインターネットの謎めいた部分であり、自分たちのビジネスとは遠く離れたところで起こっている現象のように思える。しかし昨今、ますます多くの企業が、ブロックチェーン技術を利用して収益を上げ、ビジネスの課題を解決し、新たなオーディエンスや顧客にリーチするようになってきている。
実際、最近ではビジネスミーティングの場や、Twitterのタイムラインで「ブロックチェーン」という言葉を聞いたり、見かけたりすることも増えた。しかし、それがたとえば、雑誌の表紙のデジタル版がオークションにかけられ数十万ドル(数千万円)相当の暗号通貨で落札されるという、あのNFT(ノンファンジブル・トークン)の基盤にあるテクノロジーだとは知っていても、ブロックチェーンがなぜ、どのように自分のビジネスに影響を与え、さらには利益をもたらすかは知らないのではないだろうか。
NFTが神秘のベールを脱ぎ、企業がバランスシート上に暗号通貨を加えるようになったことで、ブロックチェーンは企業のビジネスに浸透しつつある。したがって、ブロックチェーンとは何か、どのように機能するかを高いレベルで知っておくことは、業界リーダーたちがこのイノベーションをより積極的に受け入れ、ゆくゆくは今後10年間に収益の多様化と成長を実現するのに役立つだろう。
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ブロックチェーンの試験的導入でパブリッシャーとマーケターが見込める収益は、NFTを最高額入札者に売却することによってだけ、もたらされるわけではない。メディア、マーケティング、広告業界の現状や、ビジネスの進め方に関して、企業が抱えている課題や疑問の多くは、その気になれば、ブロックチェーン技術を用いて解決することができる可能性がある。
さて、そろそろみなさんの疑問にお答えしよう。ブロックチェーンとはいったい何なのか?
目次
02 用語解説
03 数字で見るブロックチェーン
04 パブリッシャーはブロックチェーンをどう活用できるか
05 マーケターはブロックチェーンをどう活用できるか
06詳細を読まない人のための要約:覚えておくべきこと
01 ブロックチェーンとは何か
02 用語解説
- ブロックチェーン:コンピューターや人のネットワークを利用して、取引や契約を記録、認証、検証するシステム。特定の企業や機関による管理は行われない。
- コンセンサスアルゴリズム:ブロックチェーン上で行われた行為の合法性を認め、検証するためのプロセス。
- 暗号通貨:価値を保存するデジタルコイン。「クリプト(crypto)」とも呼ばれる。
- 脱中心:ブロックチェーンは中央当局の規制を受けないため、脱中心的システムと形容される。
- メタバース:物理的世界のデジタルバージョンであり、ゲームの『ザ・シムズ(The Sims)』や『セカンドライフ(Second Life)』のようなものだが、より大規模で没入感が得られる(メタバースについてはこちらも参照のこと)。
- NFT:ノンファンジブル・トークン(Non-fungible Token)の略で、画像や楽曲などデジタル商品の所有権を証明するものであり、複製することができない(NFTについてはこちらも参照のこと)。
- プルーフ・オブ・ステーク:コンセンサスアルゴリズムの一種で、個人がブロックチェーン上で行われた行為を記録、認証、検証する「バリデーター(validator)」の役割を果たす。バリデーターは暗号通貨の形で担保を提供することが求められ、情報の改ざんや悪意ある行為が発覚した場合、その担保を失う。
- プルーフ・オブ・ワーク:コンセンサスアルゴリズムの一種で、「ノード」と呼ばれるコンピューターネットワークを利用して、ブロックチェーン上での行為の実行、記録、認証、検証、および新規の暗号通貨コインのマイニングを行う。
- セキュリティトークン:暗号通貨のうち、ビットコインやイーサリアムなど、投資手段として利用されるもの。人々がトークンを売買することで価値が変動する。
- ユーティリティトークン:暗号通貨のうち、一企業内やメタバースで利用されるもの。ゲーム中の仮想通貨のように、その環境のなかで価値を提供したり、参加の報酬になったりするが、外部環境では価値をもたない。
- ウォレット:個人が暗号通貨やNFTなどのデジタル資産を保管する、ブロックチェーンのオンラインストレージロッカー。ブラウザの拡張機能と連携させることで、さまざまなWebサイトからアクセス可能になる。
03 数字で見るブロックチェーン
- 2120万人:暗号通貨取引企業のジェミニ(Gemini)が「米国暗号通貨白書2021(2021 States of U. S. Crypto Report)」で発表した、暗号通貨を保有する米国の成人の人数。
- 63%:ジェミニの暗号通貨白書において、まだ暗号通貨を保有していないものの、もっと暗号通貨について学びたいと思っている「暗号通貨関心層」とされた米国の成人の割合。このうち19%は、今後12カ月のうちに最初の暗号通貨購入を予定していると答えた。
- 7000万:米国内でもっとも人気の高い暗号通貨取引プラットフォームのひとつであるBlockchain.comにおいて、10月10日時点で開設されたウォレットの数。スタティスタ(Statista)調べ。
- 560万回:2021年1月の暗号通貨取引モバイルアプリ人気トップ10の合計ダウンロード数。2020年12月には220万回だった。
04 パブリッシャーはブロックチェーンをどう活用できるか
パブリッシャーが収益源の多様化を模索しつづけるなか、ブロックチェーンは魅力的な選択肢になりうる。
以下では、暗号通貨やNFTなどのブロックチェーンが、パブリッシャーのビジネス戦略の刷新と発展にどう役立つか、いくつかのユースケースを紹介する。ブロックチェーンによって、デジタル通貨での取引という有望な機会がもたらされるほか、NFTの販売によって手っ取り早く数千ドル(数十万円)を手に入れたり、広告主や有料購読者に各種の暗号通貨での料金支払いを認めることで、既存の収益源を拡大することができる。
ブロックチェーンの仕組みをより良く理解するため、有望な活用法を見ていこう。
支払手段としての暗号通貨
タイム(Time)は他社に先駆けて、スポンサーがビットコインで支払うことを認めたメディア企業のひとつだ。同社のプレジデントであるキース・グロスマン氏はビットコインについて、変動の余地がある通貨ではなく、金のような価値の貯蔵手段とみなしていると述べた。ビットコインは、市場でもっとも高価な暗号通貨であり、本記事の掲載時点で、1BTC(ビットコイン)の価値は6万2000ドル(約700万円)を超えていた。理論的には、この価値が上がる(または下がる)につれ、ブランドとの契約や広告キャンペーンで得られた売上も変動する。
またタイムは、読者にも30種類以上の暗号通貨で購読料を支払うオプションを提供している。こちらも同様に、コインの価値が上がれば、サブスクリプション事業の価値も増大するという発想だ。
NFTについて
コレクターズアイテム
ブロックチェーンを試験的に導入したパブリッシャーの大部分が、NFTをコレクターズアイテムや限定コンテンツとして販売しており、それらは外部とのコラボレーションを通じて制作されることが多い。
たとえばUSAトゥデイ(USA Today)は、自社の歴史的瞬間を利用してNFTの世界に足を踏み入れ、バイヤーを沸かせた。同社は「月に届けられた最初の新聞(1st Newspaper Delivered to the Moon)」と題し、過去50年の紙面からよりすぐった宇宙関連の写真、イラスト、一面記事300点を組み合わせたNFTを制作した。これらを合成して、1971年にアポロ14号で月に届けられた最初の新聞の一面写真を再現したのだ。NFTは6月28日に競売にかけられ、オークションの終了までに9人が入札し、8165ドル(約93万円)で落札された。
「このような歴史的瞬間をある意味で所有し、その一部になるチャンスを得られることは、とてもエキサイティングだと思う。加えてこれは、ジャーナリズムや我々が行うすべてのことへのアクセスを読者に提供する取り組みでもある」と、USAトゥデイの親会社ガネット(Gannet)の最高製品責任者であるクリス・バートン氏は語る。
ほかにも、ブリーチャーレポート(Bleacher Report)のように、「ドロップモデル」を利用した限定NFTを制作するパブリッシャーもある。これは、多数のNFTを同時に投下してオーディエンスの需要を喚起するというもので、同社の最高額のNFTは7万ドル(約800万円)以上で落札された。
ーーロイヤルティによる継続的収入
NFTの販売は一回きりとは限らない。NFTの基盤をなすスマートコントラクトには、将来的に二次的・三次的な市場でNFTが販売された際に、クリエイターがロイヤルティを得られるような文言を含めることができる。
たとえば、ブリーチャーレポートが限定版のスポーツジャージの実物をオンラインストアで150ドル(約1万7000円)で販売した場合、パブリッシャーが得るのは最初の販売価格での売上だけだ。けれども、限定版であるために、最初の購入者がより高い価格で転売する可能性は高い。ブリーチャーレポートは転売を追跡することができず、そこからの利益も得られない。
一方、限定版ジャージのデジタルバージョンであるNFTは、すべての売買が記録されており、追跡可能だ。スマートコントラクトのなかに、販売価格の一定割合をパブリッシャーに自動的に支払うという文言を入れることで、ブリーチャーレポートはデジタル資産が所有者の手を離れたあとも、継続的に収益を得ることができる。同社はNFT戦略にこの仕組を導入しているが、転売価格の何%を得ているかは公表されていない。
エンターテインメント専門の弁護士であるアニタ・K・シャルマ氏によると、業界でのロイヤルティの相場は5~20%だという。
また、NFT市場には税や手数料も存在する。たとえば、多額の収益や引き出しに伴うキャピタルゲインにかかる税や、NFTを売買する第三者プラットフォームに支払う取引手数料などがそうだ。
ーーNFTの売上をブランド構築に利用
NFTで得た収益をそのまま保有するパブリッシャーもいるが、多くはこの新たな収益源を、少なくともいまのところは、さまざまな慈善事業に寄付することを選んでいる。たとえばUSAトゥデイは、NFTで得た収益の半分を航空・宇宙・ミサイル防衛協会(Air, Space, and Missile Defense Association)に、残りの半分を同社の親会社の慈善事業部門であるガネット財団(Gannet Foundation)に寄付した。もちろん、企業は必ずしもこうした寄付をする必要はなく、収益に計上することもできる。しかし新製品発売時の常として、「すぐに手に入るお金」を寄付に回すことはブランドにとってプラスになるし、それが数千ドルの規模ならなおさらだ。
メンバーシップ
NFT戦略の一環として次に紹介するのは、こうしたデジタル資産を会員限定アイテムやコミュニティ構築のためのアイテムとして活用するというものだ。NFT保有者にイベントやコンテンツへの限定アクセスや、メディアや企業の運営に対する発言権といった見返りを提供する方法が考えられる。
「NFTはスマートコントラクトなので、年間200ドル(約2万3000円)のコンテンツサブスクリプションを販売する代わりに、コンテンツへのアクセス権をNFTとして発行することができる。NFTはデジタルカンファレンスのチケットにもなる」と、ギャラリーメディアグループ(Gallery Media Group)の親会社、ベイナーX(VaynerX)の共同創業者兼チェアマンであるゲイリー・ベイナーチャック氏は述べる。起業家である同氏は、暗号通貨の普及に熱心だ。読者が自分の暗号通貨ウォレットをウェブサイトにリンクさせている場合、ウォレット内のNFTを使えば、ログインしなくてもコンテンツにシームレスにアクセスすることができると、ベイナーチャック氏は語る。
ーーガバナンスとリワード
NFTは株式同様に、企業の運営やコンテンツの公開について、保有者に発言権を与えるという形で利用することもできる。また、媒体に参加したり、定期購読したことに対するリワード(報酬)として提供するという方法もある。
ガバナンストークンは、NFTやユーティリティ通貨の形で存在し、オーディエンスはそれを購入したり共有したりできる。ガバナンストークンは、媒体のコアなファンが、どのコンテンツを公開するかや、企業がどういった方向で成長していくかについて、投票の形で意見を表明する手段となりうる。ガバナンストークンの所有者にどれだけ発言権を与えるかはパブリッシャーの裁量だが、所有者は自分のお気に入りの媒体に対してより強い発言権(シェアオブボイス)があることを実感できる。
デジタルブロックチェーンパブリッシャーのデクリプト(Decrypt)は、ブランドへのエンゲージメント(専用アプリでの閲覧、コメント、シェア)への報酬として、リワードトークンを発行した。ひとつのアクションに対し、読者は一定数のトークン(数量限定で、リリースは数カ月に一度)を付与され、それを賞品と交換することができた。デクリプトはのちに、このアイデ。アを発展させ、トークンの所有者に発言権を与え、社内暗号通貨をガバナンストークンとしても利用することにした。
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知的財産の拡大
NFTを発行すると決めたら、それがコレクター向けであれ、メンバーシップ目的であれ、何で構成するかを考えなくてはならない。何らかの画像、動画、知的財産を利用する場合、自社で著作権を保有している必要がある。ブロックチェーンが脱中心化されているとはいえ、そこで使用される著作物は依然として個人や団体のものであることに変わりはないので注意が必要だ。
ーーNFTと著作権法に関する注意点
- シャルマ氏によると、「著作権法はブロックチェーンにも、NFTにも適用される。あまり知られていないが、ブロックチェーン自体が脱中心化されているといっても、結局のところ売買がおこなわれるプラットフォームは、きわめて中央集権的だ」。
- またシャルマ氏は、著作権の所在はNFTのスマートコントラクトに含める必要はないし、おそらく含めるべきでもないと述べている。要するに、知的財産権を売り渡すべきではないのだ。
シンジケーションとコンテンツトラッキング
コンテンツシンジケーション事業を展開しているパブリッシャーは、ブロックチェーンのスマートコントラクト機能を利用して、コンテンツがどのように使用、配信、収益化されるかを、すべてのステップを追跡することで、より強固にコントロールすることができる。
大規模媒体は、小規模媒体に対して、少額の手数料や収益の分配を条件に、自社コンテンツの使用権を認めることがある。しかし、最初の取引のあと、コンテンツが実際にどのように使用されているかや、どの程度の収益が得られているかを正確に把握するのは困難だ。一般的なブロックチェーンアプリケーションには、当初のシンジケーション契約のなかに、コンテンツをどこで公開し、どのような広告が掲載され、どんなタイアップ商品が存在し、オーディエンスがどのようにコンテンツと関わっているかを追跡する文言が含まれている。これらすべての情報が、オリジナルを制作したパブリッシャーがそのコンテンツからどれだけの金銭的利益を得るかを自動的に決定する。
このビジネスモデルはまだ構築も実践もされていないが、メディア業界における将来のブロックチェーン活用法としての可能性を秘めている。
05 マーケターはブロックチェーンをどう活用できるか
マーケターやブランドがブロックチェーンに関心を持つべきなのは、消費者がブロックチェーンへの関心を高めているためだ。ジェミニの調査によれば、2021年の時点で、米国民の約14%が何らかの暗号通貨を保有していた。これは顧客が暗号通貨で支払うことができる以上の意味を持つ。オンラインのみでブランドと関わり、物理的なアイテムではなくオンラインのコレクターズアイテムを購入することで、ブランドへの親近感を示す準備が整っている人々が存在するということだ。
NFTだけでなく、世界中から膨大な数の人々が集まり、長時間を過ごすメタバースでも、新たな広告機会が生まれている。たとえば、ビデオゲームに関するメディア、テックアケイク(TechACake)によれば、オンラインビデオゲーム、フォートナイト(Fortnite)のメタバースの登録ユーザーは、2020年5月の時点で3億5000万人に達しており、常時300万~400万人が同時にプレイしているという。
マーケターがNFTを活用する方法
マーケターはすでに、NFTの世界に参入している。独力で、またはエージェンシーの助けを借りて独自のNFTをつくり出すこともあれば、自社のオーディエンスをNFTプロジェクトの宣伝に活用するメディア企業を通じてNFTをつくることもある。
たとえば、バッグブランドのレベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)は、Yahooとともにニューヨーク・ファッションウィークでNFTコレクションを発表。ファッションウィークのイベントには参加できないが、最新コレクションとのつながりを感じたいと願うデジタルオーディエンスにリーチした。NFTパッケージはその後、Yahooのネットワークと数百万人の読者に共有された。
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また、タコベル(Taco Bell)も、タコスアートのNFTコレクションを発売している。価格はタコス1個分の1ドルだったが、最初の購入者にタコス1年分が無料になるクーポンを提供することによって話題となった。
メタバースにおける広告
ブランドがeスポーツを通じてメタバースに参入し、バーチャルビルボードや飛行船で、オンラインコミュニティのメンバーに広告を見せたり、アバター用のデジタル衣装を発売したりすることも、日常になろうとしている。ブロックチェーンがこのような環境と結び付く主な手段はNFTだ。NFTはデジタル資産としてメタバースで売買され、ユーザーのオンライン空間に個性を与えることができる。
デジタルエージェンシー、ドラゴン・アーミー(Dragon Army)のアナリスト、ケイトリン・ヒギンスは「歩道でアディダス(Adidas)を履いている人を思い浮かべてほしい。アディダスに目が行き、それ(ブランド)が何であるかがわかる。これらのデジタル空間でも同じことが起きる」と説明する。ドラゴン・アーミーはホーム・デポ(Home Depot)、HBOマックス(HBO Max)、米国がん協会などの顧客を持つ。
ブランドとメタバースの関係については以下の記事も参照してほしい:
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広告支出の追跡
米DIGIDAYは2019年、ユニリーバ(Unilever)がマーケティング支出の隠れたコストを明らかにする手段としてブロックチェーンを活用していると報じた。
これは当時もその後も、戦略として広く採用されることはなかったが、ブロックチェーンが浸透したいま、新しい形で復活させることは可能だ。
米DIGIDAYのシニアニュースエディター、セブ・ジョセフは次のように書いている。「ユニリーバのキャンペーンで使われているブロックチェーン技術は、初期投資からパブリッシャーまでの全取引が分散型の台帳に記録され、昔ながらの会計帳簿のような役割を果たす。この分散型台帳がもたらす透明性によって、ユニリーバを含む全関係者が購入されたメディア、請求されたメディア、計画されたメディアの違いを確認できるため、隠れたコストが発生する余地はない」。
誰も予想しなかったサードパーティCookieソリューション
マーケティング、メディア分野におけるブロックチェーンの有望なユースケースのひとつは、プライバシーに配慮した、広告ターゲティングソリューションとしての活用だ。
エージェンシーやメディア企業が収集したファーストパーティデータに依存し、そのデータを収集するためのソリューションを構築するのではなく、ブロックチェーンを利用することで、マーケターは暗号通貨と引き換えに、同じデータを人々から直接収集できる。
基本的には、ブロックチェーン上に築かれる価値交換だ。人々がWebサイトにアクセスすると、そのページの広告主は、訪問者の年齢、住所、関心などのデータと引き換えに、暗号通貨のマイクロペイメントを自動的に提供できる。
こうしたブロックチェーンベースのデータ交換は、より多くの人が個人用の暗号通貨に投資し、オンラインウォレットを構築することで可能になる。そのウォレットをブラウザにひも付けたうえで、あるWebサイトで特定の個人情報を共有すると表明すれば、広告主からの支払いがウォレットに自動入金される。
このシステムはまだ構築も実装もされておらず、実現には数年、あるいは奇跡のようなイノベーションが必要になるだろう。その主な理由は、多くの人が自分の暗号通貨を持たなければならないことだ。また、オーディエンスが本物で、自分を偽っていないことを確認するため、検証要素を導入する必要がある。
システムが実現したあとは、人々に受け入れてもらうための採用と導入が重要になる。マーケターやパブリッシャーは、データと引き換えにマイクロペイメントを行うこのシステムをできるだけ広く紹介し、オーディエンスに慣れ親しんでもらうとともに、自分のデータの一部、またはすべてを共有することで、暗号通貨が少しずつ支払われ、長い目で見れば(ブロックチェーンベースの)大金になることを周知すべきだ。
06 詳細を読まない人のための要約:覚えておくべきこと
怪しいセラーに注意
一獲千金や、問題解決を約束する急成長中のテクノロジーには必ず、私腹を肥やすためにそれを悪用する人々がいるものだ。本ガイドの取材中、複数のブロックチェーン専門家から、ベーパーウェアを売り込む人、筆者も見たことがないレベルで虚偽の約束をする人がいると警告された。この分野で、パートナーシップやベンダーを模索しはじめると、確かにこのようなことが起こりやすくなる。
企業も個人も新しい暗号通貨への投資やNFTの販売で、ときには一夜にして、大金を稼ぎ出している。これは魅力的だが、脱中心的な領域であることが手伝い、いまは詐欺も珍しくない。売り込みは話半分に聞いた方がいい。うますぎる話に聞こえるのであれば、その通りかもしれない。
環境負荷に注意
ブロックチェーンのQ&A動画でも言及しているように、プルーフ・オブ・ワーク(POW)型の合意アルゴリズムで運営されているブロックチェーンは、過剰な計算エネルギーを必要とする。ケンブリッジ大学の分析によれば、世界最大級のPOWを用いたブロックチェーン上で行われるビットコインのマイニングは、年間121.4テラワット時のエネルギーを使用すると推定されている。コロンビア大学コロンビア気候スクールが9月に発表した「地球の現状(State of the Planet)」レポートは、Google、Apple、Facebook、マイクロソフト(Microsoft)のエネルギー消費量を合計しても、追い付かないと主張している。
このように、環境への影響が大きいため、カーボンフットプリント、そして、社会的イメージを気にするパブリッシャー、マーケター、ブランドは留意すべきだ。
ブロックチェーンはビジネス戦略への長期的な投資になる
今回取材した専門家たちは、ここまで紹介してきたブロックチェーンのユースケースについて、大部分は数年以内に広く使われることも、実装されることもないと考えている。テクノロジーとメディアを専門とするアドバンス・ローカル(Advance Local)の社内インキュベーター、アルファ・グループ(Alpha Group)で研究開発責任者を務めるデイビッド・コーン氏によれば、メディア、マーケティング業界のほとんどは、ブロックチェーン革命の第1段階にあるという。これらの用途に必要なプログラムやアルゴリズムの多くが未開発で、ブロックチェーン関連技術の採用はようやく時代の流れに乗ったところだ。したがって、これらの概念は現時点で実装すべきものではなく、将来の目標として見ることができる。
おそらく、ブロックチェーンの革新が進むにつれて、「クリプト」について尋ねる顧客、クライアント、ライバルと関わり合うことになるだろう。少なくとも、このインターネットの新分野について生産的な会話を交わすための知識は、いまからでも身に着けておくべきだ。一番乗りする必要はないが、会話から取り残されることは避けた方がいい。
[原文:Digiday Guide: How publishers and marketers can use the blockchain in their businesses]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:的場知之、米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)