米出版社コンデナストが発行する有名テクノロジー誌 『ワイアード(WIRED)』英国版はコンサルティング業に参入した。宇宙飛行士から科学者まで広がるネットワークと編集部に蓄積された知見をコンサルに活かそうとしている。
「ワイアード・コンサルティング」のトップを務めているのは、2014年9月の「再ローンチ」とともに参加したソフィー・ハックフォード氏。彼女の前職は、人類が直面する困難な課題を技術革新で解決することを模索する教育機関「シンギュラリティ・ユニバーシティ」(本部・シリコンバレー)や、オックスフォード大学での未来研究だった。
ハックフォード氏は、『ワイアード』誌の編集スタッフ、同社のコントリビューターのネットワークから有用な人物を指名し、クライアントと間をつなぐ役割を負っている。ウェブ時代のパブリッシャーのマネタイズ策を追った。
米出版社コンデナストが発行する有名テクノロジー誌『ワイアード(WIRED)』英国版は、コンサルティング業に参入した。クールな雑誌のイメージと宇宙飛行士から科学者まで広がるネットワークは魅力的だが、編集権の独立などが、社内の知見をかき集めることの壁になるケースがあるという。
『ワイアード』英国版のコンサル部門「ワイアード・コンサルティング」は、2012年2月に創設。2014年9月には体制を整えて「再ローンチ」した。企業業務支援とコンサルティングが主要な事業になる。
同社の提供するプレゼンテーションは、世界中に広がるコントリビューターのネットワークを活用し、ブレインストーミングやミーティングを通じて、顧客が将来の危険や好機を理解するのに役立つという。高級品販売業者を中国の深圳に連れて行き、中国都市部の若年層や中産階級のライフスタイルを理解させたのは、その好例だ。
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このコンサルティング業は、顧客自らが運営する事業、所属する業界によって凝り固まった思い込みを打ち破るために、呼びかけや会合を重ねるサービスだ。最近では、似たような形で相談を行っている金融サービス企業と協業している。
異色の未来学者によるコンサル
「ワイアード・コンサルティング」のトップを務めているのは、2014年9月の「再ローンチ」とともに参加したソフィー・ハックフォード氏。彼女の前職は、人類が直面する困難な課題を技術革新で解決することを模索する教育機関「シンギュラリティ・ユニバーシティ」(本部・シリコンバレー)や、オックスフォード大学での未来研究だった。ハックフォード氏は、『ワイアード』誌の編集スタッフ、同社のコントリビューターのネットワークから有用な人物を指名し、クライアントと間をつなぐ役割を負っている。
1つのテーマを数カ月かけて調べた記者のレポートをもとに、データセキュリティの説明会を開催することもある。知見を引き出すために世界中に広がるネットワークを活用する場合もある。コントリビューターは科学者、宇宙飛行士、発明家や起業家と色とりどりだ。
BBCの元ニュース・プロダクト・ディレクター、ニック・ニューマン氏は「組織のなかにある知見を解き放ち、新しい商品の開発を考えねばならないパブリッシャーにとって、『ワイアード・コンサルティング』の試みは象徴的だ」と、語った。
編集権の独立とどう調和するか
この新事業は、編集部に影響を与えたり、売上を出している他部所の足を踏んだりせずに、業務を遂行しなければいけないという難しさがあるという。「経営を阻害する社内の壁のいくつかは壊さねばならない。皆がそう社内で現状認識しているのに、いざ打破という段になると、こうした新しい関係を動かす理念が必要になる。それこそ皆が知りたいと思うことだ」と、ニューマン氏は語る。
ハックフォード氏が、この事業を拡大するときに懸念することがある。「私のコンサルティング業務と編集チームとの間には凄まじく大きな『万里の長城』が横たわっている」と、同氏は話した。「そのような壁は編集的には大変重要だ。だが、私が編集チームから求めたいのはキュレーションなのだ」
そのひとつの例は、ある自動車メーカーの案件だ。このメーカーは、自動車業界にインパクトを与えるかもしれない新興テクノロジーについて理解してもらいたがっていた。ハックフォード氏は編集部から5人の精鋭に協力してもらい問題解決したが、編集部には顧客名は明かさなかったという。編集権の独立に配慮したのだ。
組織内の知見を文字通り売り物にしたパブリッシャーは、『ワイアード』UKが初めてではない。アトランティックメディアやオランダのテレグラフ紙も同様の事業を手がけている。テレグラフ紙はアドテクノロジー面で同業他社の手助けをするサービスを展開。米テックメディア「The Next Web」は、ベンチャー向けデータベースから業界情報を収集できるサービスを提供する。
ストーリーテリングで提示する知見
こうした流れのなかで「ワイアード・コンサルティング」は、顧客を掴むために自らを際立たせねばならない。その優れたネットワークやクールなイメージを別にしても、『ワイアード』がストーリーテリングで見せる知見は、この分野で台頭する上でカギを握っている。
「われわれは完全に公正である。経営コンサルタントでもないし、投資銀行でもない。だから、我々のコンサルティングには、何らプロダクツが付随しない。特定のバイアスもないし、業務を次なる何かに発展させようなどとも思っていない」と、ハックフォード氏は言う。「要約した形で複雑な事象を説明したり、ストーリーテリングしたりするのは得意だ。銀行からの調査結果をいくつか読み込んでは、まったく別物の知見を提示してみせるのだ」
Chris Smith(原文 / 訳:南如水)
Image by WIRED UK