コロナ禍によるロックダウンのさなか、地域密着型のeスポーツ団体は、地元ファンとのつながりを強化するために、商品やサービスの調整を迫られた。今年は対面型のイベントも復活しつつあり、一部の団体は熱心なファンの地元愛をうまく利用しながら、地域との連携に万全の備えを敷いている。
コロナ禍によるロックダウンのさなか、地域密着型のeスポーツ団体は、地元ファンとのつながりを強化するために、商品やサービスの調整を迫られた。今年は対面型のイベントも復活しつつあり、一部の団体は熱心なファンの地元愛をうまく利用しながら、地域との連携に万全の備えを敷いている。
8月7日、最先端のeスポーツバーとして知られるニューヨークのブルックラン(BrookLAN)に、オーバーウォッチリーグ(Overwatch League)のファンが押し寄せた。ファンのお目当ては、ニューヨークエクセルシオール(NYXL)が1年数カ月ぶりに開催するオフラインの観戦パーティだった。パンデミックの勃発以来、同チームが初めて開く対面のイベントであることに加えて、数時間前に韓国で行われた試合の再配信であったため、集客に対するNYXLの期待はそれほど大きなものではなかった。ところが蓋を開けてみれば、会場には大勢のファンが詰めかけ、変わらぬ熱狂ぶりを披露した。コロナ禍のおかげで対面イベントが延期や中止に追い込まれるなか、NYXLは地元ファンの忠誠心をうまくつなぎとめているようだ。
NYXLの運営母体はeスポーツ団体のアンドボックス(Andbox)だ。この団体を所有するのがベンチャーファンドのスターリングVC(Sterling.VC)で、このベンチャーファンドに出資しているジェフ・ウィルポン氏はニューヨークメッツの元オーナーだ。このように、NYXLのDNAにはニューヨーカー精神が受け継がれている。同チームのサポーターズクラブであるファイブデッドリーヴェノムズ(5 Deadly Venoms)のリーダー、ティファニー・チャン氏はこう述べている。「ニューヨークにチームがあると聞けば、当然、応援しないわけにはいかない」。
Advertisement
地元とのきずなを維持するために
コロナ禍中、アンドボックスはニューヨークとの関係強化に注力した。バーチャルの観戦パーティを主催して、遠方のプレイヤーやチームスタッフがふらりと立ち寄る演出など、対面のエクスペリエンスの再現に努めた。さらに、スタジアムの2階席にTシャツやタオルなどのグッズを打ち上げる「Tシャツキャノン」の仮想バージョンを開発し、試合の合間にチームのSNSアカウントでグッズ獲得のチャンスを提供した。
コロナ禍の影響下、現実のエクスペリエンスのデジタル化に軸足を移した地域密着型のeスポーツ団体は、アンドボックスだけではない。ピッツバーグパイレーツ(The Pittsburgh Pirates:MLB)とピッツバーグスティーラーズ(The Pittsburgh Steelers:NFL)が支援するピッツバーグナイツ(The Pittsburgh Knights)は、同市在住のファンに、適切なソーシャルディスタンスを保ちながらも、友情やきずなを育む機会を提供している。具体的には、ゲーマー御用達のボイスチャットアプリであるディスコード(Discord)サーバー向けに、マッチメーキングツールやキューイングツールを開発した。将来的な計画には「オールスターゲーム」の開催も含まれている。開発したマッチメーキングツールを活用しているゲーマーのなかから、ベストプレイヤーを選ぶという。ナイツのプレジデントを務めるジェイムズ・オコナー氏はこう語っている。「我々はピッツバーグ市にコミットしている。地元のためになる活動を続けたい」。
アンドボックスで外部との提携関係を統括するカイ・マシー氏によると、コロナ禍のさなかも、地元ニューヨークとのきずなを維持するために、雑誌「ニューヨーカー」をモチーフにしたNYXLのロゴ入りトートバッグなど、地元を意識したグッズ販売に注力したという。このグッズ戦略は、ブルックランの観戦パーティに集った大勢のジャージ姿のファンにも現れていた。ピッツバーグナイツも同様の戦略を展開している。ナイツが販売するグッズは、主にピッツバーグ市の有名な建築物やランドマークをモチーフにしている。「ピッツバーグは我々ナイツのアイデンティティの基本だ」。ナイツのマーケティングおよびコミュニケーション責任者を務めるアンジェリカ・シラベラ氏はそう語った。
「地元密着のキモはストーリー」
グッズの開発や販売はもとより、チームをローカル化することによって、ファンとブランドパートナーを直接かつ自然につなぐことも可能になる。たとえば、イモータルズゲーミングクラブ(Immortals Gaming Club:IGC)はeスポーツのグローバルブランドだが、ロサンゼルスを拠点としている。コロナ禍が猛威を振るう2020年5月、IGCは地元のトヨタ(TOYOTA)と連携して、南カリフォルニアにある大学のeスポーツチームを集め、「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」の大学対抗戦「IMTユニバーシティショーダウン(The IMT University Showdown)」を開催した。この案件でトヨタのキャンペーンを担当したデイヴィス・エレン・アドバタイジング(Davis Elen Advertising)のバイスプレジデントであるブライアン・バンクス氏はこう述べている。「ローカルであることの強みを活かして、ローカルならではのコンテンツを開発した。本来は全米規模あるいは地球規模で事業を展開する企業だが、地元企業でなければ不可能なキャンペーンを実現できた」。
一部のeスポーツ団体は、コロナ禍中も地域との関係強化に力を注ぎ、地元のブランドやパートナーとの連携に活路を見いだしている。ピッツバーグナイツのオコナー氏はこう話す。「地元外食チェーンのシーツ(Sheetz)に行って、食事をして、またゲームを続ける。これは地元ゲーマーのライフスタイルの一端だ。地元密着のキモはこういうストーリーを語りつづけることだと思う」。
eスポーツのローカル化が長期的に利益をもたらすか否かは、まだ議論の余地が残されている。それでも、アンドボックス、イモータルズ、ピッツバーグナイツらは、コロナ禍のさなかも地域社会とのつながりを密に保つことにより、商品化や提携の機会を広げ、対面イベントのバーチャル化に関するノウハウを蓄積してきた。仮にデルタ型変異株が再び世界にロックダウンを迫ったとしても、これら地域密着型のeスポーツ団体は地元のファンをつなぎ止める準備ができている。
IGCのマーケティング担当バイスプレジデントを務めるマックス・バス氏はこう打ち明ける。「チームのローカル化は、我々にとって最大の課題でもあった。コロナ禍のおかげで、創造性を駆使せざるを得ない状況に追い込まれたが、結果的に、そこが我々の腕の見せどころともなった」。
ALEXANDER LEE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)