暗号通貨ニュースサイト、デクリプト・メディア(Decrypt Media:以下、デクリプト)がいま注目しているのは、自社のブロックチェーンやWeb3.0、メタバースに関する専門知識を、新たなプロダクションスタジオのデクリプト・スタジオ (Decrypt Studios)経由で活用する取り組みだ。
暗号通貨ニュースサイト、デクリプト・メディア(Decrypt Media)がいま注目しているのは、自社のブロックチェーンやWeb3.0、メタバースに関する専門知識を、新たなプロダクションスタジオのデクリプト・スタジオ (Decrypt Studios)経由で活用する取り組みだ。この新会社が目指すのは、クリエイターやブランドに、彼ら独自のNFTをつくり出し、ブロックチェーン関連商品を作る手段を提供することにある。
2021年10月末、ブロックチェーン投資企業、コンセンシス・メッシュ(ConsenSys Mesh)のメディア部門、デクリプト・メディアは、ひっそりと新たなプロダクションスタジオ、デクリプト・スタジオを立ち上げた。このスタジオは、クリエイター(個人)/ブランド向けプロジェクトの構築を専門的に扱うという。また、NFTの投稿からメタバースの有効化まで、ブロックチェーンとWeb3.0の技術を駆使しているのが特徴だ。Web3.0は、テクノロジストのあいだでインターネットの「次のフェーズ」の呼び声が高い。これまで以上に、ユーザー同士のやりとりが自由にできるように考えられており、使用するプラットフォームやWebサイトの管理者からは干渉されずにすむ。
現在、4人の専従スタッフを抱えるデクリプト・スタジオ。同組織は、スマートコントラクトの作成やレベニューシェア(事業収益の分配)の構築、そしてGas代(トランザクション手数料)の管理をはじめとするNFTの制作と販売、メタバースにおけるクリエイターとブランドのプレゼンス構築など、あらゆるテクノロジーに関する要望に応じている。
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「NFTの作成は、小心者には向かない。それに、暗号化世界ならではの問題を理解しなければならず、(Web3.0に)足を踏み入れた多くの人たちは、その点をまだよく理解していない」。そう話すのは、アランナ・ロアッツィ=ラフォーレ氏だ。デクリプト・メディアで最高収益責任者(CRO)とパブリッシャーを務め、先頃デクリプト・スタジオの責任者にも任命された。「この分野には明確な答えのない問題が数多くあり、出される答えも常に変化している。そうした謎の解決に、ひと役買おうというのが我々の狙いだ」。
取り組みの中身と広告主の温度感
デクリプト・スタジオは、NFT販売収益の一部やメタバース構築の報酬から収益を得ている。現在のところ、レベニューシェア型ビジネスモデルの一環として、平均で営利目的のNFTの場合は売上の約20%、非営利の場合は売上の約10%を収益としている。
デクリプト・スタジオの顧客第1号と第2号は、厳密にいうとNFTに関する提携であり、そのひとつは哲学者でプリンストン大学の教授ピーター・シンガー氏と創り出した、NFTコレクションだ。シンガー氏のコレクションは、NFT資産を現実世界の体験と組み合わせる非営利キャンペーンの一部で、たとえば4アイテムあるコレクションのひとつは、論文『飢えと豊かさと道徳(英題:Famine, Affluence and Morality)』 のNFT版と、シンガー氏のコメントが収められた30分間のZoomコールのセットだ。このキャンペーンは12月9日に終了したが、オークションの売上は、同氏が共同創設した慈善事業団体ザ・ライフ・ユー・セーブ(The Life You Save)に献金にされる予定である。
しかしながら、アランナ・ロアッツィ=ラフォーレ氏によると、長期的には、NFTそのものに固執する気はないという。これからは、メタバースで恒久的なプレゼンス(いわゆるバーチャルな「店舗」など、いつまでもオンラインに存在する会場)を構築し、そうしたデクリプト・スタジオのサポートに対し、ブランドが対価を支払うというモデルが事業の根幹になるだろうと同氏は期待する。
デクリプト・スタジオは現時点で、ブランド3社とメタバース関連の契約締結に向けて動いているという。なお、ロアッツィ=ラフォーレ氏は、現在交渉中の企業名と取引規模に関しては、公表を差し控えた。ただ、メタバース業界の成長に伴い、デクリプト・スタジオの事業も2022年末もしくは2023年第1四半期までに黒字化が期待できると同氏は話す。
なお、ロアッツィ=ラフォーレ氏によると、デクリプト・メディアの編集チームは、スタジオとはまったく別のビジネスユニットであり、スタジオのNFTローンチ情報を記事として取り上げなければならないことは決してない。とはいえ、デクリプトというブランドのおかげで、読者や同ブランドのファンのなかにはNFTの購入やコレクションに関心を持つ人たちもおり、デクリプト・スタジオが支援するNFTプロジェクトに役立っているのも事実である。ただし、ロアッツィ=ラフォーレ氏の編集チームが、潜在顧客のアウトリーチに積極的にかかわることはない。というのも、すでに口コミで関心が高まっているからだ。
デクリプト・スタジオの強み
クリプトアートになじみのないアーティストのなかには、デジタルアート空間の参入やNFTの販売開始に興味のある人たちもいるが、どのプラットフォームを利用すればいいのか、販売するにしても、適切な買い手を見つけるにはどのように作品を売り込めばいいのかわからないなど、その道は厳しい。「(NFTマーケットプレイスの)オープンシー(OpenSea)をチェックしてみると、出品されたNFTには値のついていないアイテムが無数にある」とロアッツィ=ラフォーレ氏は話す。
そんななか「デクリプト・スタジオのキュレーション機能は、NFTプロジェクトが、より多くの買い手を獲得するのに役立つ」と、ブロックチェーン関連のイノベーションをリードする、アドバンス・ローカル(Advance Local)の社内テック&メディア・インキュベーター、アルファ・グループの研究開発責任者、デビッド・コーン氏は語る。
「買い手は、デクリプト・スタジオ(と提携している)アーティストからNFTを購入するなら、不安を感じるどころか安心するのではないか。これは、デクリプト・スタジオが本格的なアーティストだけを扱うフィルターとして機能していると考えられるからだ。つまり、このスタジオはある意味、NFTのマーケットメーカーとしての役割を果たしていることになる」。
とはいえ、まだ道半ばか
興味深いことに、デクリプト・スタジオのビジネスモデルは、バーチャルアートの販売やオンラインビジネスの展開といった、本来なら分散型のビジネスを一局に集中させて行っている。ただ実際のところ、世の中における大半のNFTプロジェクトは分散していないというのが現状であり、潜在顧客にリーチするにはオープンシーのような、非公開のマーケットプレイスに依存せざるを得ないとコーン氏は話す。
とどのつまり、デクリプト・スタジオは「プロの手にかかればこうなる」という例を示したにすぎないとコーン氏。ブランドやクリエイターのブロックチェーン参入を支援する企業は今後も出てくるだろうと話した。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)