- デジタルメディア業界内の提携や買収などの可能性がしばしば報じられるなか、デジタルコンテンツネクスト傘下のアドテク組織トラストエックス(TRUSTX)と、クラウドサービスで知られるアカマイ(Akamai)とのパートナーシップを検討中。
- 有力業界紙の一部は最近、「テック企業のIPOブーム再燃」の可能性を報じているが、これがアドテク業界にまで及ぶとは考えにくいという声も。
- 中規模事業者にとっては業界大手への対抗手段として資金面での支援が必要であり、M&Aの専門家によると今後、アドテク企業がプライベートエクイティファンドからの出資を受ける例が多くなると見込んでいるという。
名だたるパブリッシャーが多く加盟する業界団体、デジタルコンテンツネクスト(Digital Content Next:以下DCN)が新たな関係構築に乗り出す構えだ。米DIGIDAYが取材した複数の情報筋によると、DCNは傘下のアドテク組織トラストエックス(TRUSTX)と、クラウドサービスで知られるアカマイ(Akamai)とのパートナーシップを検討中とみられる。
2023年も後半に入り、デジタルメディア業界内の提携や買収などの可能性がしばしば報じられるなか、このパートナーシップはどんな展開を迎えるのか。さまざまな選択肢が考えられるが、情報筋によれば、DCNとしては、トラストエックスの事業売却は視野に入れていない模様だ。
DIGIDAYは2022年秋に発表した記事で、トラストエックスが非営利のアドエクスチェンジとして、透明性を担保した取引を広告主に保証する計画を取り上げ、プライバシー強化技術の分野でアカマイと提携し、ニュースコープ(News Corp)、ハースト(Hearst)、ワシントンポスト(The Washington Post)などDCN加盟パブリッシャーが広告在庫を提供する見込みだと報じた。
その後、計画の進捗状況は確認できていないが、情報筋によると、当事者各社は第三者による資金調達を進めており、順調にいけば、トラストエックスが運営するマーケットプレイス以外の市場でも、アカマイ開発のプライバシー強化技術を利用できる仕組みが成立するかもしれない。
トラストエックスのCEOであるデヴィッド・コール氏はDIGIDAYの取材依頼に対し、eメールで次のように回答した。「我々はつねに、パブリッシャー、広告主、消費者に対する使命を果たすため、イノベーション加速に向けた方策を探っている。イノベーションの加速は、新たな技術、パートナーシップ、資本注入により実現可能になるが、外部からの資本注入のハードルは非常に高い。投資家の注目を集めて資金を調達できるのは、サプライチェーン全体に関わる重大な問題の解決に画期的な手法で取り組む企業だろう」。
年商数十億ドル(数千億円)に上るアカマイは、コンテンツデリバリーネットワーク、サイバーセキュリティ、クラウドコンピューティング分野で大企業向けサービスを提供するナスダック上場会社。DIGIDAYは同社にコメントを求めたが、即時回答は得られなかった。
奇妙な市場環境
デジタルメディア/マーケティング分野に注力する投資銀行のルマ・パートナーズ(LUMA Partners)が発表した最新の市場レポートでは、2023年第2四半期は、企業間の契約締結の兆しがみられたにもかかわらず、結果として「ここ10年でもっともM&A活動が停滞した四半期」になったとの記載があり、「奇妙な市場環境」と評された。
ルマ・パートナーズが今年2023年にアドバイザーを務めた案件としては、データ測定・分析プラットフォームのダブルベリファイ(DoubleVerify)による、AIを活用したキャンペーン効率化で知られるサイビッツ(SciBids Technology)との買収交渉がある(1億2500万ドル[約181億2500万円]の買収契約が成立し、手続きは第3四半期に完了見込み)。
ルマ・パートナーズが10月上旬に発表した第3四半期レポートでも、M&Aや事業出資などの活動はまだ「停滞気味」という表現にとどめている。
ただし、ここへきて多少の動きがみられるようになった。CTV広告のケイデント(Cadent)がプライベートエクイティ会社のノバキャップ(Novacap)に事業を売却した。9月に入り、メディア測定/最適化のビデオアンプ(VideoAmp)がシリーズGの投資ラウンドで1億5000万ドル(約217億5000万円)の資金をビスタ・クレジットパートナーズ(Vista Credit Partners)から調達。契約交渉の空白期も終わりを迎えるのだろうか。
有力業界紙の一部は最近、「テック企業のIPOブーム再燃」の可能性を報じているが、先行きに疑問を抱く者もある。9月に上場を果たした半導体設計のアーム(ARM)や食料品配達プラットフォームを運営するインスタカート(Instacart)のこれまでの好調の余波が、アドテク業界にまで及ぶとは考えにくいというのだ。
ファーストパーティキャピタル(FirstPartyCapital)役員のキアラン・オケイン氏は、ゲーム内広告を専門とするアンズ(Anzu)が6月、シリーズBの投資ラウンドで4800万ドル(約70億円)を調達した件に触れ、「市場における投資意欲の慎重さが資金調達額に表れている」と語った。
「M&A市場はたしかに回復基調にあるが、完全に回復したとはいえない」とオケイン氏は言う。「取引規模は比較的控えめだ。CTV広告効果測定のシックスゼロファイブ(605)が同業のアイスポットTV(iSpot.tv)に事業を売却した件については、自社の負担軽減目的もあったと思われる。それが現在の市場全体の動向を反映しているのではないか」。[続きを読む]
- デジタルメディア業界内の提携や買収などの可能性がしばしば報じられるなか、デジタルコンテンツネクスト傘下のアドテク組織トラストエックス(TRUSTX)と、クラウドサービスで知られるアカマイ(Akamai)とのパートナーシップを検討中。
- 有力業界紙の一部は最近、「テック企業のIPOブーム再燃」の可能性を報じているが、これがアドテク業界にまで及ぶとは考えにくいという声も。
- 中規模事業者にとっては業界大手への対抗手段として資金面での支援が必要であり、M&Aの専門家によると今後、アドテク企業がプライベートエクイティファンドからの出資を受ける例が多くなると見込んでいるという。
名だたるパブリッシャーが多く加盟する業界団体、デジタルコンテンツネクスト(Digital Content Next:以下DCN)が新たな関係構築に乗り出す構えだ。米DIGIDAYが取材した複数の情報筋によると、DCNは傘下のアドテク組織トラストエックス(TRUSTX)と、クラウドサービスで知られるアカマイ(Akamai)とのパートナーシップを検討中とみられる。
2023年も後半に入り、デジタルメディア業界内の提携や買収などの可能性がしばしば報じられるなか、このパートナーシップはどんな展開を迎えるのか。さまざまな選択肢が考えられるが、情報筋によれば、DCNとしては、トラストエックスの事業売却は視野に入れていない模様だ。
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DIGIDAYは2022年秋に発表した記事で、トラストエックスが非営利のアドエクスチェンジとして、透明性を担保した取引を広告主に保証する計画を取り上げ、プライバシー強化技術の分野でアカマイと提携し、ニュースコープ(News Corp)、ハースト(Hearst)、ワシントンポスト(The Washington Post)などDCN加盟パブリッシャーが広告在庫を提供する見込みだと報じた。
その後、計画の進捗状況は確認できていないが、情報筋によると、当事者各社は第三者による資金調達を進めており、順調にいけば、トラストエックスが運営するマーケットプレイス以外の市場でも、アカマイ開発のプライバシー強化技術を利用できる仕組みが成立するかもしれない。
トラストエックスのCEOであるデヴィッド・コール氏はDIGIDAYの取材依頼に対し、eメールで次のように回答した。「我々はつねに、パブリッシャー、広告主、消費者に対する使命を果たすため、イノベーション加速に向けた方策を探っている。イノベーションの加速は、新たな技術、パートナーシップ、資本注入により実現可能になるが、外部からの資本注入のハードルは非常に高い。投資家の注目を集めて資金を調達できるのは、サプライチェーン全体に関わる重大な問題の解決に画期的な手法で取り組む企業だろう」。
年商数十億ドル(数千億円)に上るアカマイは、コンテンツデリバリーネットワーク、サイバーセキュリティ、クラウドコンピューティング分野で大企業向けサービスを提供するナスダック上場会社。DIGIDAYは同社にコメントを求めたが、即時回答は得られなかった。
奇妙な市場環境
デジタルメディア/マーケティング分野に注力する投資銀行のルマ・パートナーズ(LUMA Partners)が発表した最新の市場レポートでは、2023年第2四半期は、企業間の契約締結の兆しがみられたにもかかわらず、結果として「ここ10年でもっともM&A活動が停滞した四半期」になったとの記載があり、「奇妙な市場環境」と評された。
ルマ・パートナーズが今年2023年にアドバイザーを務めた案件としては、データ測定・分析プラットフォームのダブルベリファイ(DoubleVerify)による、AIを活用したキャンペーン効率化で知られるサイビッツ(SciBids Technology)との買収交渉がある(1億2500万ドル[約181億2500万円]の買収契約が成立し、手続きは第3四半期に完了見込み)。
ルマ・パートナーズが10月上旬に発表した第3四半期レポートでも、M&Aや事業出資などの活動はまだ「停滞気味」という表現にとどめている。
ただし、ここへきて多少の動きがみられるようになった。CTV広告のケイデント(Cadent)がプライベートエクイティ会社のノバキャップ(Novacap)に事業を売却した。9月に入り、メディア測定/最適化のビデオアンプ(VideoAmp)がシリーズGの投資ラウンドで1億5000万ドル(約217億5000万円)の資金をビスタ・クレジットパートナーズ(Vista Credit Partners)から調達。契約交渉の空白期も終わりを迎えるのだろうか。
有力業界紙の一部は最近、「テック企業のIPOブーム再燃」の可能性を報じているが、先行きに疑問を抱く者もある。9月に上場を果たした半導体設計のアーム(ARM)や食料品配達プラットフォームを運営するインスタカート(Instacart)のこれまでの好調の余波が、アドテク業界にまで及ぶとは考えにくいというのだ。
ファーストパーティキャピタル(FirstPartyCapital)役員のキアラン・オケイン氏は、ゲーム内広告を専門とするアンズ(Anzu)が6月、シリーズBの投資ラウンドで4800万ドル(約70億円)を調達した件に触れ、「市場における投資意欲の慎重さが資金調達額に表れている」と語った。
「M&A市場はたしかに回復基調にあるが、完全に回復したとはいえない」とオケイン氏は言う。「取引規模は比較的控えめだ。CTV広告効果測定のシックスゼロファイブ(605)が同業のアイスポットTV(iSpot.tv)に事業を売却した件については、自社の負担軽減目的もあったと思われる。それが現在の市場全体の動向を反映しているのではないか」。
国際間取引の増加
M&Aおよび戦略アドバイザリーサービスの英WYパートナーズ(WY Partners)の創業者兼マネージングディレクターのウィリアム・リッチー氏によると、アドテク業界では過去1年間で、国際間M&A取引成立件数が前年比で36%増加したという。これを受けて、同社は米国に本社を置く同業のコンティニューム・アドバイザーズ(Continuum Advisors)とパートナーシップ契約を締結し、国際間取引支援サービスを強化した。
米国のプライベートエクイティ会社であるファルフュリアス・キャピタルパートナーズ(Falfurrias Capital Partners)は今年9月、英国に本社を置くデジタルマーケティングエージェンシーのブレインラブズ(Brainlabs)に3億2000万ドル(約464億円)を出資すると発表した。2024年の動向として、この種の国際間取引が増えるのではないかとリッチー氏は予想する。
リッチー氏は今後、アドテク企業がプライベートエクイティファンドからの出資を受ける例が多くなると見込んでいる。中規模事業者にとっては業界大手への対抗手段として資金面での支援が必要な場合があるからだ。「(資金調達により)ブレインラブズが業界大手の企業と競争でき、CTV効果測定会社がニールセン(Nielsen)に対抗できる状況が生まれる」とし、「自社アピールがうまくいけば、多額の出資をするだけでなく、新経営陣と価値観を共有できる投資家が見つかるだろう。当社ではクライアントに対し、プライベートエクイティ投資家と協力関係を築くよう勧めている」と同氏は語る。
リッチー氏はもうひとつの案件を例に挙げて、2022年にプライベートエクイティ会社ブリッジポイント(Bridgepoint)の傘下に入って資金を得たエムアイキュー(MiQ)が次々と買収を進めているのと同様の流れが2024年に訪れるだろうと予想する。
「M&Aは、英国企業が(米国のように)自国よりはるかに規模の大きいメディア市場に進出する足がかりを得る方法のひとつだ」とリッチー氏は言う。「一方、ヨーロッパ市場での基盤づくりに向けてM&Aを検討する米国企業も出てくるだろう。ただし、事業拡大に関する当事者間の意見の相違で交渉が停滞する場合もあり、業界全体の案件増の勢いをそぐことになるかもしれない」。
プライベートエクイティ投資はイメージチェンジが必要?
プライベートエクイティ会社による買収にはマイナスイメージがつきまとう。企業の乗っ取り、リストラ、資産剥ぎ取りのあげくに事業売却というパターンが多いという認識が広く世間に浸透しているからだ。
しかし、ブレインラブズのダニエル・ギルバートCEOは、業界内大手への事業売却でなく、プライベートエクイティ会社とのパートナーシップを選んだのは、確たる意図があっての決断だったと主張する。「我々が外部からの資金注入を検討していたとき、業界内の大手企業や事業戦略的な買収を狙う企業と交渉しようとは考えなかった」と同氏は述べ、十数社からの投資オファーがあったことを明かした。
ブレインラブズが顧客企業に指名されてきた理由は、競合他社と差別化できる強みを持っていることだ。しかし大手企業に買収された場合、その差別化要因の維持が難しくなるとギルバート氏は指摘する。同氏によると、デジタルメディア業界が成熟期を迎え、起業家のなかでもプライベートエクイティ投資について「株式市場への上場より魅力的な選択肢と捉える人々が増えてきた」という。
「プライベートエクイティ会社が投資判断材料とするのは実務、財務基盤、企業経営の健全性、特定顧客への売上依存度の低さ、そしてテクノロジーだ」とギルバート氏は述べ、ブレインラブズの成長路線を考えたとき、プライベートエクイティ会社による投資こそ正しい選択だったと強調した。
「プライベートエクイティ会社は自社事業のPRがまったくできていないと思う。PRする気がないのかもしれないが」とギルバート氏は話し、「プライベートエクイティ会社といってもさまざまなタイプがある。当社のパートナーは、いわゆるグロースエクイティ投資をおこなう企業で、投資先の成長可能性にのみ注目し、事業成長によるインセンティブ獲得を目指している」と言い添えた。
テック企業のIPOは様子見か
DIGIDAYは今回、企業IR/IPOアドバイザリーを専門とするザ・ブルーシャツ・グループ(The Blueshirt Group)の共同創業者兼マネージングパートナー、アレックス・ウェリンズ氏にも話を聞いた。同氏は、アームやインスタカートの上場後の発展に対する期待の波及効果は、当面アドテク業界にまで及ばないとみている。
第4四半期は毎年、アドテク企業が年間売上高の30%から50%を稼ぎ出す繁忙期だ。しかし大半の情報筋によれば、この時期の個人消費や企業のマーケティング支出に対する懸念が拭えないため、新規上場の波は続かないだろうという。
ウェリンズ氏は「上場が可能な事業規模を持つ優れたアドテク企業は多数ある。それらの企業にとって、いまは様子見すべき時期ではないか」と語り、「第3四半期には、今後の成長が見込まれるソフトウェア開発会社によるIPOの波が到来した。その影響でIPOという選択肢を検討しはじめたアドテク企業も、2024年にはなんらかの動きを見せるかもしれないと、我々は考えている」と話す。
Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)