ペイウォールやサブスクがメディアの主要な収益モデルとなっているが、南アフリカのデイリーマーベリックはコンテンツを無料で提供しつつ、読者にサポートを求めるモデルを取り入れている。「メディアの収益源として読者からの課金が必要だがペイウォールはその答えではない」と語る創業者のブルキッチ氏の意図とは。
米国のオンラインメディアのあいだでは、ペイウォールやサブスクリプションの採用が増えている。だが南アフリカには異なるモデルを採用しているメディアがある。
ブランコ・ブルキッチ氏は、南アフリカのヨハネスブルグに本社を置くデイリーマーベリック(Daily Maverick)の創業者だ。デイリーマーベリックはオンラインニュースサイトとして、主に政治やビジネスを扱っている。ブルキッチ氏は、米DIGIDAYのポッドキャストのなかで「メディアの収益源として読者からの課金が必要というのは言うまでもない。だがペイウォールはその答えではないというのが我々の考えだ」と語っている。
デイリーマーベリックが採用しているモデルは、ガーディアン(The Guardian)に近い。コンテンツを無料で提供しつつ、読者にサポートを求めるというものだ。
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「我々は読者に対し『読者の皆様のサポートによって、有料のニュースコンテンツを支払う余裕のない方にも記事をお届けできている。この素晴らしい支援の輪に加わってみないか』と伝えている」と同氏は語る。「読者の心に訴えるのだ」。
そしてブルキッチ氏の呼びかけは成功を収めている。過去2年でデイリーマーベリックの有料会員に1万3000人が登録している。料金は毎月75ランド(約480円)だ。同社のサイトの訪問者は5月に450万人に達し、過去最高を記録した。
ブルキッチ氏は、リーマンショックでオンライン広告市場が大きな打撃を受けた翌年の2009年に、2008年12月をもって廃刊した南アフリカのビジネス誌『マーベリック(Maverick)』を引き継ぐ形でデイリーマーベリックをローンチした。ブルキッチ氏はマーベリック廃刊の発表日に、デイリーマーベリックの構想をはじめたという。マーベリックに勤めていた社員はそのままデイリーマーベリックに参加することになった。
オンラインメディアに生まれ変わった同紙は、お手軽な国内ニュースを取り扱うメディアばかりの同国のなかで、手間をかけた記事を届けている。「この国のメディアはこれまで長年、記者会見をそのまま載せたような記事ばかりを扱ってきた」とブルキッチ氏は語る。ブルキッチ氏は、2012年に警官がストを行った鉱山労働者34名を殺害した事件の調査報道で賞を受けている。
「国民は真実を知る権利がある」と同氏は述べている。「そして、真実を知る権利があるのは、メディアに料金を払う余裕のある人だけではない」。以下に、同氏へのインタビューの一部をお伝えしよう。なお、発言の意図を明確にするため一部に若干の編集を加えている。
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デイリーマーベリックが引き継いだ雑誌、「マーベリック」について
「非常に幅広い内容を扱っていた。ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)、フォーチュン(Fortune)、そしてトップギア(Top Gear)を混ぜたような雑誌だった。質が高く、笑いもある非日常的なコンテンツを提供し成功を収めていたが、金にはならなかった。この国のメディア市場は国営放送のSABC(South African Broadcasting Corporation:南アフリカ放送協会)といくつかの多国籍企業が牛耳っている。その状況を覆すのは非常に難しい。彼らが印刷も流通も、販売も仕切っているからだ。そして彼らを常々批判していた私は嫌われ者だった」。
「2008年の経済危機で広告収益が落ち込んだことでマーベリックは資金繰りが苦しくなり、2008年12月には廃刊となった。その頃にはすでに、もはやオンライン以外に道はないことに気づいていた。私は人生で初めて、オンラインの編集者と読者の観点からデジタルパブリッシャーを構想するようになった。当時、特に南アメリカでは、オンラインには質の高い記事はなく、低品質な報道の寄せ集めの場とみなされていた。マーベリックが廃刊となったその日に、デイリーマーベリックの構想を開始した。計画は早かったが、資金調達には数カ月かかった」。
うまくいく収益モデルを探す
「我々にマッチした収益モデルを見つけ出すのに10年かかった。ローンチの時点では、市場シェアの60から70%をFacebookとGoogleが占めていた。そしてこの国の市場規模はそもそも小さい。さらに紙媒体がオンライン市場の成長をさまたげており、非常に困難な状況であることはすぐに分かった。そこでもし広告モデルを採用していれば、すでにデイリーマーベリックはなくなっていただろう。私たちは家族や親しい人たちに直接頼んでまわり、投資してもらったのだ」。
「やがてデイリーマーベリックは大きくなり、ついに国の姿勢を変えるような影響力を記事が持つようになったことで、人々は私たちの必要性を認識するに至った。自分たちの記者の給料を支払うのにも苦労する状態であっても、デイリーマーベリックは必要なのだ。長いあいだ、我々は非常に限られた予算でやりくりせざるを得なかった」。
「さまざまな基金から注目されるようになり、この厳しい状況も改善したのだが、ときには給料日を明日に控えてもまったく何も手元にない状態のときすらあった。文字通り何もなかったのだ。だがそんななかでもなんとか乗り切ってきた。給料の支払いが滞ったことは一度もない。そうするなかで、複数の収益源を確保することの重要性に気づいた」。
成長を続ける会員モデル「マーベリック・インサイダー」
「競合他社はペイウォールを採用するようになったが、これはいい体験とはいえない。メディアの収益源として、読者からの課金が必要という点に異論はない。だがペイウォールはその答えではないというのが当社の考えだ。当社はマーベリック・インサイダーという会員モデルを作り上げた。ペイウォールを採用したとすれば、読者には『貴方は当社のカスタマーだ。これは商品で、値段は○○ドルだ』と説明することになる。そして読者は『この金額は払えるだろうか。必要だろうか。読む時間はあるだろうか』と考える。これは理性に基づく、左脳による決断だ」。
「一方、我々は読者に対し『読者の皆様のサポートによって、有料のニュースコンテンツを支払う余裕のない方にも記事をお届けできている。この素晴らしい支援の輪に加わってみないか』と伝えている。これは読者の心による決断だ。そしてこのモデルが非常にうまくいった。この2年間で、我々は1万3000人の登録者を獲得した。今もこの数は増えつつある。毎月記録を伸ばし続けているのだ。そして登録者には特典もある。記事にコメントできるようになり、イベントでも優先席が割り当てられ、ニュースレターも届くようになる」。
PIERRE BIENAIMÉ(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)