クラシファイドコミュニティサイト、クレイグスリストを立ち上げて初期のインターネットビジネスにおいて成功した人物として知られるクレイグ・ニューマン氏。現在は米国のジャーナリズム支援のための活動に注力している。かつてはローカルジャーナリズムを破壊していると非難された同氏だが、どのような支援に取り組んでいるのか。
テクノロジー企業の創業者が、無謀とも思えるスピードの急成長に情熱を傾けるのはなぜか。それについてはよく耳にするお決まりの説がある。彼らの起業家精神が、大学の人文科学の授業で抑えこまれることなく育まれたからだ、という説だ。
「私が1970年代に通った高校の米国史と公民の先生は、報道の自由の大切さを教えてくれた」と、アメリカで知らぬ者はいないであろうコミュニティサイトのクレイグズリスト(Craigslist)創設者であるクレイグ・ニューマーク氏は米DIGIDAYのポッドキャストで語った。「信頼できる報道は、民主政治を守る免疫系のようなものだ」 。
ニューマーク氏は自身の慈善財団であるクレイグ・ニューマーク・フィラントロピーズ(Craig Newmark Philanthropies)を通じて、各地のジャーナリズム課程や大学院に何百万ドル(何億円)という寄付を行った。寄付金を受け取ったのはポインター・インスティテュート(The Poynter Institute)、NPR、コンシューマー・レポート(Consumer Reports)、ニューヨーク市内のジャーナリズムスクール2校。大学院はコロンビア大学(Columbia University)とニューヨーク市立大学(The City University of New York)の2校で、後者はニューマーク氏に敬意を表して同氏の名前をジャーナリズム大学院に冠した。
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ニューマーク氏は金銭的援助もさることながら、自らの人脈ネットワーク内における対話の活発化にも貢献している。具体的には、サイバーセキュリティや女性(特にジャーナリスト)に対するネットハラスメントのような重要な問題をめぐって激しく渡り合う「フレネミー(友にも敵にもなりうる者)」のあいだの議論をうながしている。
偽情報をめぐる議論もまたしかりだ。2016年、ロシアによる米大統領選介入疑惑が発覚したときにニューマーク氏が財団を設立したのは偶然ではない。同氏は質の高い報道への支援に加え、政治関連の偽情報問題で積極的な役割を果たしている。「特に投票介入をもくろむ偽情報メールとの闘いでは、投票の専門知識をもつジャーナリストを後押しし、情報の発信元をつきとめて対処できるよう協力している」。
大手ソーシャルメディアはここ数カ月、ヘイトスピーチや政治家コンテンツの規制を強化しているが、「ソーシャルメディアにも偽情報拡散の責任の一端がある」とニューマーク氏は言う。「運営側は不適切な投稿をした者が誰かわかっている。外国の敵対勢力や、国内の同盟者の情報もつかんでいるはずだ」とニューマーク氏は指摘する。「ソーシャルメディアはそういった者たちに対する行動を起こすべきだ」。
しかしここで、ニューマーク氏自身のキャリアを振り返ってみよう。同氏はIBMのプログラマーを経て、クラシファイド広告のデジタル無料版であるクラシファイドコミュニティサイト、クレイグスリストを立ち上げた。このサイトはそれまで安定していたローカルメディアの領域を侵食し、ジャーナリズムを破壊したのではなかったか?
「新聞社の売上減少は1950年代初頭から始まっていた。2008年から2009年にかけてはリーマン・ショック後の景気後退で業績が急激に悪化した。不振の背景はそんなところだ。クレイグスリストの影響で新聞の売上がどれだけ落ち込んだか(経済学者に)訊いてみた。私自身、直観的には、クレイグスリストの影響も少しはあっただろうと感じているが、経済学者はその証拠を示せなかった」とニューマーク氏は述べた。
以下に、ニューマーク氏との対話の要点をまとめた。読みやすさを考慮し多少の編集を加えてある。
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フレネミーの関係を好転
「プロのジャーナリストが持つ『ジャーナリズム』について、私は大したことは知らない。私が知っているのは、素晴らしい仕事をしている人々は、その内容について発表すべきだということだ。同じ分野で成果を上げているジャーナリスト同士が、お互いのことをよく知らぬまま敵とみなして対立する場合がある。私はこうした人々の対立ではなく交流を促したい。そのためにエネルギーを注いでいるテーマがふたつある。ひとつはハラスメント対策。ネットハラスメントは深刻な問題だ。米大統領選が近づきつつあるここ3カ月、女性ジャーナリストに対するハラスメントがますます悪質になっている。私は一緒に働いているチームに呼びかけている。もっと仕事のスピードを上げ、もっと多くの人々を巻き込む必要があると。声を大にして訴え、加害者にもうハラスメント行為は許されないとわからせる方法を考えてくれと。もうひとつのテーマはサイバーセキュリティで、私にとってはいわば『情報戦』の一部だ。IoTの安全性について議論するグループの人たちにも、話し合って仕事のペースを速めるよう伝えている」。
ソーシャルメディア・プラットフォームが取り組むべきこと
「いわゆる巨人たち(GoogleとFacebook)は、ジャーナリズム支援にもっと力を注ぐべきだ。とはいえ今年は危機的状況でもあるので、まずは重要なことから始めてほしい。つまり、ソーシャルメディアのサイトを介して発信される偽情報の拡散を食い止める取り組みだ。偽情報との闘いは難しい(頻繁に流布させる者がいて、活動が明らかな場合は別だが)。それでも、すべての人にとって公平な方法で対策を講じられるかもしれない。大手ソーシャルメディアには、まずは容易にできることをしてほしい。社員やメンバーが会社に求めている行動をとり、ある程度の非難を浴びる覚悟をすればいい。非難を浴びるのは不快なもので、自らが偽情報や不正工作の被害にあった場合は特にそうだ。しかし今後のアメリカやそのジャーナリズムのあり方は、プラットフォームが立ち上がり、正しいことをできるかどうかにかかっている」。
「敵をつきとめて反撃を仕掛ける」
「現在、関心事がふたつある。ひとつは投票の仕組みづくりだ。つまり、不在者投票と郵便投票の採用で、これは投票所での長い行列を緩和できるためウイルス感染拡大の時期にあっては特に必要性が高いが、通常の状況下でも効果的な方法といえる。郵便投票であれ、投票所での投票であれ、しっかりしたシステムを確立しなければならないが、そのためには投票所の係員として働く若者を数多く募集する必要がある。もうひとつの関心事は、外国の敵対勢力と米国内にいる協力者が繰り広げる偽情報戦だーー具体的には、郵便投票に関する偽情報などを指す。私は、ジャーナリズムにたずさわる人々と投票の専門家に協力し、敵をつきとめて反撃を仕掛けるための取り組みを支援している」。
[原文:Craigslist founder Craig Newmark on why he’s donating millions to journalism]
PIERRE BIENAIMÉ(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)