サードバーティクッキーの終焉を見据え、パブリッシャーではファーストパーティデータの活用のための取り組みが進んでいる。インサイダーはデータ管理ツールを自社構築。マーケティングに最大活用するための体制を整備しつつある。その有用性とはどのようなものなのか、同社のシニアバイスプレジデントのジャナ・メロン氏が語る。
ビジネスニュースメディア、Business Insider(ビジネスインサイダー)の発行元であるインサイダー(Insider)ではここ2年、サードパーティクッキーの来たるべき終焉にそなえ、競争力を維持するための取り組みを進めている。その一環として同社ではウェブサイト閲覧者の行動情報データベース「サーガ」(Sága)を構築した。9000万(2020年6月時点の数字で、コムスコア[Comscore]の調査による)にのぼる月間ユニーク訪問者の履歴を収集したデータベースである。
同社のプログラマティック&データ戦略部門でシニアバイスプレジデントをつとめるジャナ・メロン氏によれば、ファーストパーティデータの意味は誤解されがちで、ユーザーがウェブサイトにログインした際のeメールアドレスやユーザー名といったデータのことと思い込んでいる人が多い。ところが実際は、サイト訪問時にログインしているユーザーは全体の4分の1にすぎず、ファーストパーティデータはログインしているか否か、どのブラウザで閲覧しているかにかかわりなく、サイトの全訪問者に付与される。
ファーストパーティクッキーがおよそ1カ月にわたって収集・蓄積されるにつれ、サイト内の特定カテゴリーに関心を示したユーザーに関する理解が深まっていく。「ユーザーがログインしたかどうかはデータ収集には関係ない」とメロン氏は言う。
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インサイダーが運用するサーガのシステムで収集可能なデータは、読者がクリックした記事やサイト閲覧中の行動で、エンゲージメント、コンテンツ共有、当該サイトおよびページの再訪頻度、流入経路(ソーシャルメディア経由か検索エンジン経由か)、お気に入りの著者、サイトでの購買に関するデータなどだ。
サーガは現在、オーディエンスデータ取得ツールという位置づけだが、メロン氏によれば社内向けインサイト構築ツールとしての機能もそなえている。今後の目標はサーガを全社的に展開し、キャンペーン情報に加えて新たな分野や価格設定、コンテンツパッケージングといった領域の知見を蓄積することだという。
メロン氏は米DIGIDAY+の会員専用オンラインセッション、DIGIDAY+ TALKSの最新版で次のように述べている。「当社の営業チームにとってのファーストパーティデータのメリットは、キャンペーンのパフォーマンス情報が入手可能なだけでなく、キャンペーンが自社サイト外におよぼす影響も把握できるということだ」。
01:我々が学んだこと
「ペルソナ」の理解が重要
インサイダーは人口動態的ターゲティングとコホート分析に頼らず、ファーストパーティデータでサイト訪問者の行動履歴を把握する方法を選んだ。これによりユーザーがログインしていない場合でも個々のユーザーに関する理解を深めることができる。「デモグラフィックではなく、ユーザーの行動を把握することが肝要だ」とメロン氏は主張する。
- データ収集の際には、サイトの訪問者それぞれについて「ペルソナの全体像の理解」に力を注ぐべきだという。ペルソナにあったキャンペーンを実施すれば訪問者について深く掘り下げた、具体的な関心事に迫るマーケティングができるからだ。
- 「サイト訪問者はいろいろな顔をもっていて、たとえばある人はIT部門の意思決定者というだけでなく、親でもあり、ペットの飼い主でもあり、健康とフィットネスに関心が高い人物でもある」とメロン氏は指摘する。「ペルソナの全体像がわかれば、それにもとづいて対象者の心に訴えるキャンペーンを企画立案できる」。
- 「クライアントの提案依頼書にはかならずデモグラフィックに関する要件が含まれているが、我々はデモグラフィックに加え、クッキーが機能しない部分ではユーザーの行動データを使用する」とメロン氏は言う。
サーガとファーストパーティデータの効果をクライアントに売り込む
マーケターによるサードパーティクッキー活用事例のようにオーディエンスひとり一人への訴求はできないものの、パブリッシャー各社が入手できるファーストパーティデータは、テレビ、新聞、ラジオといった他媒体から収集可能なデータより質がいいとされる。
加えてファーストパーティデータには、キャンペーンにかかわるデータ収集元のオーディエンスを対象に、当該キャンペーン以外の領域にもマーケティング活動を拡大できるチャンスがあるとメロン氏は語る。
- 大きな成果。 ファーストパーティデータを利用したキャンペーンは、サードパーティデータを利用したキャンペーンより効果が大きい。メロン氏によれば、あるクライアントはインサイダー側が収集したファーストパーティデータを使用してマーケティングキャンペーンを実施したところ、過去のキャンペーンのベンチマーク値を11%上回るパフォーマンスを示したという。
- パブリッシャー提供のファーストパーティデータをセカンドパーティデータに変換。セカンドパーティデータは、サイトを運用するパブリッシャーから広告主へ、広告主が自社サイト上で有意義に使える形式で提供されるが、これを逆の視点からとらえることも可能だ。「もっとも取扱高の大きい優良クライアントである広告主向けに、我々パブリッシャーが提供するデータの活用方法はほかにあるだろうか? といった問題提起から、拡張性の高い広告主向けソリューションが生まれる」とメロン氏は言う。
- 社内の他事業部門と情報を共有するクライアント。インサイダーのクライアントの中には、自社内のクリエイティブ部門とオーディエンス関連のデータを共有する企業も出てきている。クリエイティブ部門では取得したデータを今後のメッセージングに反映させているようだ。学びを活かした応用例は、インサイダー社内にとどまらない。
ファーストパーティデータとオープン取引
メロン氏によると、パブリッシャーがオープンマーケットを通じて自社のファーストパーティデータのタクソノミー(体系的な分類)を他社に提供する場合がある。ただしこれをおこなうかどうかは、パブリッシャーの事業構造と戦略により決まってくる。
- インサイダーとしては自社のマーケティングタクソノミー全体をオープンマーケットで取引する意向はないとメロン氏は述べているが、社内で人気の高いものはリード獲得の手段として他社と共有する可能性はあるとしている。
- 一方、あまり使用されていないタクソノミーをマーケットに出品し、関心を示す広告主がいるかどうかを探るという選択肢もある。通常であればインサイダーに広告を出稿しない、新しいタイプのクライアントとの関係が始まる可能性も出てくるだろう。
- パブリッシャー社内に営業チーム、特にプログラマティック広告を扱う営業チームがなく、その分野での経験が浅い場合、自社のタクソノミーをオープンマーケットで取引することにより新たな収益源の開拓が期待できる。
02:スライドを見る
インサイダーのプログラマティック&データ戦略部門、シニアバイスプレジデントのジャナ・メロン氏が登壇した、DIGIDAY+ TALKSの動画は下記リンク先にて閲覧できる。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)