2020年6月22日、有力なコンテンツメディア企業28社が合同で、「コンテンツメディアコンソーシアム」を設立した。日本版パブリッシャーアライアンスとも言えるこの取り組みの目指すもの、事業として開始する共同広告配信プラットフォームの内容について、運営を行うBI.Garageの関係者に話を聞いた。
世界各国の動きを参考に、日本でもパブリッシャーが連合体となった、独自の価値を提案する動きが進んでいる。
2020年6月22日、朝日新聞社や読売新聞、講談社、J-WAVE、フジテレビなど新聞社や出版社、テレビ・ラジオ局、Webメディアの運営企業計28社が合同で、コンテンツ価値の訴求と広告価値の追求を目的とする「コンテンツメディアコンソーシアム」を設立した。参加各社はいずれもニュースや記事、動画・音声コンテンツを自ら制作・編集し提供する有力なコンテンツメディア企業となっている。
同コンソーシアムはデジタルガレージの子会社であるBI.Garageに28社が出資する形で事業展開する。同社の取締役を務める長澤秀行氏は、DIGIDAY[日本版]の事前取材に対し、「本コンソーシアムは、2017年に設立された『コンテンツメディア価値研究会』からの発展であり、本格的に事業化に取り組むための連合体だ」とし、続ける。「まずは7月から第三者によるブランドセーフティ評価やコンテンツとの相乗効果などを反映した、より高価値のインターネット広告を提供する共同広告配信プラットフォーム運用を開始する」。
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パブリッシャー主導の価値提案を目指す
3年前に始動したコンテンツメディア価値研究会は、メディアのパネル調査や広告接触態度変容調査、ニューロ調査などのリサーチを通して、メディアとコンテンツの評価を可視化し、コンテンツと広告の相乗効果研究を行ってきた。こうした成果を事業に結び付けられないかと参加社から要望があったことから、このコンテンツメディアコンソーシアムが設立されたと、長澤氏は語る。
「コンテンツメディアコンソーシアムでは、BI.Garageが窓口となり、28社が擁するメディアの既存インベントリを共通メニューとして取り扱っていく予定だ。詳細については調整を進めている段階だが、ビデオリサーチ社による参加各社メディアのブランドセーフティ評価を実施しており、プレミアムコンテンツを有するビューアビリティの高いメディアが自らブランドセーフティに取り組む、価値あるプラットフォームになると自負している」。
コンテンツメディアコンソーシアムは、ある意味プライベートマーケットプレイス(PMP)の変化形のようにも思えるが、BI.Garageのプロデューサー・丸山幸太郎氏は「パブリッシャーが共同で主導して取り組んでいるプラットフォームである点がPMPとは異なる」と指摘する。「たとえば取り扱うメニューや価格帯についても28社が協議し、自分たちで開発に取り組んでいる。パブリッシャーならではの価値を、パブリッシャー自らが打ち出す点が最大の特徴と言えるだろう」。
当初は媒体特性によってカテゴリやジャンルを分類し、配信メニューを提供していく予定だという。だが、複数社が参加していることで、1社では難しかった規模感のあるリーチも提案できると、丸山氏は続ける。「パブリッシャーの連合体による広告事業として規模感は出しつつも、インベントリの塊ではなく各メディアやコンテンツの特色・強みを踏まえた提案をしていきたい」。
海外の先行事例を国内に還元
パブリッシャーアライアンスの動きはEU圏を中心に国外で活発化している。ユーザーが単一のアカウント登録で複数のメディアにアクセスできる「ログインアライアンス」や、Cookieに変わるファーストパーティデータを適切かつ効率的に得るためのパブリッシャー間の連携などはその一例だ。
コンテンツメディアコンソーシアムは、こうしたいわば「先行事例」の情報を国内のパブリッシャーへ提供する窓口にもなると、BI.Garage海外パートナー担当の杉浦正範氏は話す。「フランスのSkylineやドイツのAdAllianceなど、広告事業やプラットフォームとの向き合い方で成果を上げているアライアンスと積極的に情報交換や提携を進め、国内のパブリッシャーへと還元していく。共同広告配信プラットフォームで提供するツールに国外アライアンスでの実績があるものを導入するなど、すでに具体的な形でも表れている」。
同社の小林篤史取締役COOも「コンテンツメディアコンソーシアムが目指すのは単なる広告事業ではない」と語る。「そもそも、コンテンツメディア価値研究会もデジタル上におけるパブリッシャーへの適切な利益還元を模索するためにはじまった。コンソーシアムという事業体になったことで、メディアとコンテンツの価値をさらに高めていく活動をしていく」。
広告主はアライアンスをどう見たか
こうしたパブリッシャー主導の取り組みを、広告主側はどう捉えているのか。日本アドバタイザーズ協会(JAA)の鈴木信二専務理事は、「当初はパブリッシャーが集まることでむしろ混乱するのではないかと懸念した」としつつ、こう続ける。「しかし、コンテンツメディア価値研究会を通してコンテンツの価値が広告にも影響するエビデンスを示すなど、いまではパブリッシャーの集まりならではの意義ある取り組みだと考え期待している」。
JAAは2019年11月に「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を発表し、2020年2月には日本広告業協会(JAAA)や日本インタラクティブ広告協会(JIAA)と共に「デジタル広告の課題解決に向けた共同宣言」も発表するなど、デジタル広告の信頼性を高めていく取り組みに注力している。「同じ意思を持ったパブリッシャーの動きには同意するし、何よりコンテンツメディアコンソーシアムからは熱意や真剣さを感じる。是非応援していきたい」。
鈴木氏が特に評価するのは、第三者によるブランドセーフティチェックだ。「エージェンシーやプラットフォームだけではやや不透明感もあるが、第三者のエビデンスを用意していることに広告主は価値を感じる。第三者からの評価を受けることが結果的にメディアブランディングにもつながるのではないか。各メディアのオーディエンスを対象としたパネル調査を実施するという点も、生活者とのつながりを強めるという意味で評価できる」。
一方で、ブランドの現場担当者レベルでは、デジタルにおけるブランドセーフティについての理解があまり進んでいない懸念もあると指摘する。「パブリッシャーのこうした動きを見て、ブランド側の理解も深まってくれれば理想的だ」。
Written by 分島翔平
Photo by Shutterstock