デジタル広告市場は昨今、その信頼性が非常に不確かなものとなっている。マスメディアを押しのけ、広告出稿費のシェアがトップとなっているにもかかわらずだ。これには、アドフラウドやMFAといった広告詐欺に加え、日本市場のクリック […]
デジタル広告市場は昨今、その信頼性が非常に不確かなものとなっている。マスメディアを押しのけ、広告出稿費のシェアがトップとなっているにもかかわらずだ。これには、アドフラウドやMFAといった広告詐欺に加え、日本市場のクリック至上主義とも言える文化が根幹にあると考えられる。
そうしたなか、コンテンツ価値の訴求と広告価値の追求を目的し、新聞社・出版社・テレビ局など国内の有力メディア30社と共同運営される「コンテンツメディアコンソーシアム」は10月17日、新たに「クオリティメディアコンソーシアム」と名称を変更することを発表。また、その活動指針として、「クオリティメディア宣言」を表明した。
とりわけ、プログラマティック広告の市場が問題を抱えるなかで、同コンソーシアムは広告掲載メディアのクオリティ、掲載広告のクオリティを追求できる唯一のプライベートマーケットプレイス(広告配信ネットワーク)として、最高品質の広告提供を強化していくという。
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クオリティメディア宣言とは
では、クオリティメディアコンソーシアムが掲げたクオリティメディア宣言とはどのようなものだろうか。
声明によると、「コンテンツの信頼性を少しでも高めたり、受け手の心にしっかり届くように、手間ひまとコストをかけたりする取材・編集を行っているメディアを、クオリティメディアと呼ぶことにする」とし、「広告が良質なメディアに掲載されることの価値を追求し、広告効果を高めていく」としている。宣言の全文はこちらのプレスリリースを確認してほしい。
クオリティメディアコンソーシアムの代表幹事である東洋経済新報社の田北浩章代表取締役社長は、「現在のデジタルメディアは悪貨が良貨を駆逐する状況にある。これでは、結局損をするのは生活者だ」としたうえで、メディア各社に対し「質の高いメディアを作っていこう」と意気込む。
信頼されないインターネット広告
一般社団法人日本インタラクティブ広告協会のインターネットメディアとインターネット広告の信頼に関する調査によると、「広告を信頼できるか」という問いに対し、インターネットは23.1%(2021年)となっており、マスメディアであるテレビ(42.4%[2021年])や新聞(42.9%[2021年])と比べて大きく低い。
また、同調査内の「インターネット広告の嫌いな点」という項目においては、「閉じるボタンがわかりにくい広告」「意図しないクリックを誘発する広告」など、インターネット広告のフォーマット自体が、ユーザーにとって不快であるという結果も提示されている。
加えて、広告詐欺であるアドフラウドは、米国や世界平均と比べて日本は高止まりしており、2022年には世界平均と比べて2倍近くに推移してしまっている現状だ。さらに、ジェネレーティブAIの進歩によって、広告収入目的の低品質なWebサイト「MFA」が急速に増加しているという背景もある。
本来の広告価値を模索する
DIGIDAYはリリースに先立ち、クオリティメディアコンソーシアムのメンバーである読売新聞東京本社・イノベーション本部マネージャーの池上吉典氏、講談社 ライツ・メディアビジネス局局次長兼メディア開発部部長の長崎亘宏氏、フジテレビジョン・ビジネス推進局プラットフォーム事業部の寺記夫氏らに取材を実施。クオリティメディアコンソーシアムを通して、今後メディア各社が目指す方向性、どのようにプレゼンスを発揮していくのかコメントを求めた。
池上氏は、DIGIDAYの取材に対し「作為的にインプレッションやクリックを発生させる悪質な無効トラフィック(IVT)やブランドセーフティを妨げる問題などの起源は、およそ10年前に『枠から人へ』という大きな潮流が始まったときだ」と話し、「広告効果・効率一辺倒になったことでブランドセーフティが疎かになり、広告収入を得るために広告効果を高く見せかけるような手法が跋扈(ばっこ)することにつながった」とコメント。
こうした問題に対して池上氏は「『広告掲載環境』を見つめ直すことで解決の糸口がつかめると思う」とし、「今回のクオリティメディアコンソーシアム(という名称変更)は、広告主の皆様に適切な広告掲載環境を提供しようという、コンソーシアム参加各社の意思が的確に表現された名称だと感じている」と語っている。
長崎氏は、クオリティメディアがデジタル広告取引にもたらす価値について、「三方よしだと考える」とし、こう続ける。「まずは『買い手よし』。広告主から見たベネフィットとして、ウォールドガーデンのみではカバーできない生活者へのリーチと、高いエンゲージメント効果が期待できる。そして、『売り手よし』。メディアから見たベネフィットとして、広告主とより近い関係のなかで、透明性、妥当性が高い広告取引を実現できる。さらに、『世間よし』。生活者から見たベネフィットとして、信頼できるメディア環境のなかで、コンテンツ親和性が高い広告体験を得ることができる」。
また、メディアのクオリティの可視化について長崎氏は、「さまざまな定義やアプローチがあるが、とくにエンゲージメントやミッドファネル効果といわれる指標については業界全体で取り組み、共通化していくことが重要だ」と指摘。「なぜならば、広告効果=『認知(リーチ)』±『受容性(深度)』」であるべきだからだ」とまとめ、「これまでは認知という作用は論じても、受容性という反作用が語られる機会が少なかったと感じる。これらを相殺した絶対値が本来の広告価値ではないか」と問く。
寺氏は、「インターネット広告を取り巻く現状にはさまざまな課題があるが、それらの課題を看過せず正面から向き合うことが、パブリッシャーの役割のひとつだ」と話し、「まず第一に、ユーザーにとってのあるべき姿を広告主やプラットフォーマーと一緒になって探っていくべきであり、関係する全てのプレイヤーが目の前の課題に真摯に誠実に向き合うことで、よい方向に変わっていくと信じている」とコメントを寄せた。
PMPへの期待
クオリティメディアコンソーシアムのメンバーらによると、やはり現状のデジタル広告市場の問題点を重くみており、インターネット上の情報の価値がより損なわれてしまうという不安感が垣間見える。そこで、確かな信頼性を持つクオリティメディアでの広告取引を、広告主に推奨する構えだ。
有力メディアを囲い、広告利益を押し上げたいわけではないだろう。広告を不快、あるいは邪魔と強く捉えられてしまう環境は、広告主にとっても、ユーザーにとっても不利益だ。こうした環境は、質の高いコンテンツを供給するパブリッシャーを苦しめることにもつながる。そうなれば、社会全体の情報環境が劣悪化する可能性すらみえてくる。
パブリッシャー集団のPMP提供という施策は、広告主や広告会社において、どのように映るだろうか。その多くがプログラマティック広告に投資される日本のデジタル広告市場のなかで、PMPの地位向上が期待されている。
Written by 島田涼平