記事のポイント Facebookからのトラフィック減少が大きな打撃となり、中小パブリッシャーは独力でキャンペーン要件に応えることを求められている。 トラフィック購入の必要に迫られているが、それによりMFAのレッテルが付け […]
- Facebookからのトラフィック減少が大きな打撃となり、中小パブリッシャーは独力でキャンペーン要件に応えることを求められている。
- トラフィック購入の必要に迫られているが、それによりMFAのレッテルが付けられるリスクが増大。オーディエンス拡張に必要なコスト負担も大きい。
- ニュースキュレーションアプリや大手プラットフォームからの直接的な支援は期待できず、トラフィックを獲得する目処が立たないニッチメディアは苦境に。
MFA(made-for-advertising)サイトへの風当たりが強まるなか、米黒人経営メディア企業を含め、小規模の独立系パブリッシャーはその影響を実感している。
米黒人経営パブリッシャーの多くは2022年、2020年に起きたジョージ・フロイド氏殺害とそれに続く抗議運動を受けて、エージェンシー勢がメディア予算の一部を意識的に自分たちに割くようになったことで、広告収入と新規広告主の数が増加したと語っていた。
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ところが今年2023年は、Facebookからの参照トラフィックが減少したせいで、ある米黒人経営パブリッシャーは必要とされる広告インプレッション数の獲得に苦労している。キャンペーンの要件を満たし、広告収入を維持するためには、Facebookのトラフィックを自ら買うしかないところまで追い詰められているが、その結果、MFAのレッテルを貼られてしまうリスクもあり、それはそれで非常に恐ろしいと、同パブリッシャーのデジタル部門トップは話す。
匿名を条件に本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回は米黒人経営パブリッシャーのデジタル部門トップが、エージェンシー勢の予算が自分たちのような企業に投入されることはありがたい一方、参照トラフィックが右肩下がりのいま、MFAのレッテルを貼られることなく、必要なトラフィック数獲得の方法を見つけねばならないという、板挟みの現状について語ってくれた。
なお、発言は多少編集を加えて短くまとめてある。
――自社サイトへのトラフィックの有意な減少に気づいたのはいつからか。
たしか、2022年の8月頃だった。我々はFacebookニュースを通じて、Facebookからごくわずかな使用料を受け取っていた。3年間、毎年1万ドル(約145万円)程度だったと思う。さらに、我々のコンテンツをFacebookニュースのタブに載せてくれていた。つまり、一粒で二度美味しかったわけだ。ひとつは我々が押すオーガニックコンテンツで、それをFacebookに載せていた。もうひとつがFacebookニュースタブのトラフィック。しかし、2022年8月にFacebookがニュースタブの取引を止めるという話を聞いた。それ自体は問題ではなかった。1年に1万ドルなんて金は、惜しくもなかったからだ。
ところが、問題はそこから生まれていたユニークビジターで3~400万人ほどのトラフィックだ。我々オーガニック投稿で得ていたのと同じユニークビジター数が一気に消えた。それ以来、トラフィックは減り続けている。恐らく、例のバグのせいだ。我々のような小さくニッチなパブリッシャーにしてみれば、かなりの痛手だ。それまでは、1300万人のユニークビジターがいたが、2023年9月のコムスコア(Comscore)の統計によれば、約200万人だ。Facebookだけのせいではないが、減少した大部分、6~700万人くらいのビジターは、Facebookが「もう、おたくのコンテンツの宣伝はしない」と決めたために起きている。
――トラフィック減のせいで、ビジネスにどのような悪影響が?
一番の痛手は何と言っても、コムスコアの数字だ。メディアを探すエージェンシー勢はいまだにあれを使っているから、あの数字は無視できない。これまでは、RFP(提案依頼書)がそれこそ空から山のように降って来ていた。黒人経営メディアの中でトップに位置した我々のリーチ数のおかげ……つまり、簡単に手に入る金をいきなり失ったことになる。しかもそれに加えて、今では我々が抱えているすべてのキャンペーンの要件に独力で応えないとならない、という問題がある。
例の「ジョージ・フロイド景気」の恩恵はいまだに受けている、グループM(GroupM)やピュブリシス(Publicis)といった大手エージェンシーが、「一定の金額は絶対に黒人経営メディアに使う」と決めてくれたおかげだ。そして、我々はその契約をすべて満たさなければならない。いや、トラフィックについては、毎回必ずしも目標数に届かせる必要はない。インベントリは前よりも売り切れることが多くなった。それよりもいま必要なのは、オーディエンス拡張かトラフィックの購入だが、これがまさに綱渡りの曲芸とも言える。
たとえば、サイトへのトラフィックを買うと、クリス・ケイン(プログラマティックサプライチェーンマネジメント企業ジャウンス[Jounce]の創業者)が「おたくはMFAだ」と騒ぎたてる。そうならないために、別のパブリッシャーを介してインプレッション数を稼業とすると、今度は広告主たちが「取引要件を満たすのに、どうしてわざわざほかのパブリッシャーを使ってるんだ?」と騒ぎだす。まさしく綱渡りだし、最大の頭痛の種となっている。これは単に騒ぎになるというだけの話ではない。我々は実際に金を失っている。オーディエンスを拡張するのに大枚をはたいているわけだから。
――そんな右肩下がりの結果、トラフィック減と経営課題を克服するには、方向転換するしかないのか。
トラフィックに関していま抱えている最大の問題のひとつで、そろそろどうするか決める必要があるのは、NewsBreak(米国での主要なニュースキュレーションアプリのひとつ)の扱いだ。月に3~400万人のユニークユーザーが獲得できていたが、最近ウォールドガーデンモデルに変えると発表した。SmartNewsによく似たモデルになるのだろう。ここに入り込むには、400万人のユニークユーザーを手にしていたベーシックなRSSフィードへのリーチを諦めて、約150万にまで減らすしかない。問題はそこだ。
トラフィック数とコムスコアの数を、あくまでも「ひょっとしたら、ちょっと増やしてくれるかもしれない」程度の可能性なのに、このウォールドガーデン取引に乗るのか? そうすると、我々の広告を自ら載せられる場がどこにもなくなる。この点がどうしても納得できず、まだ決断できない。
Facebookも、SmartNewsも、NewsBreakも、Flipboard(フリップボード)も、我々のために特に何もしてくれはしない。基本的にはすべてGoogle頼みで、ユーザーが自分のサイトに来てくれることを祈るしかない。いや、できることならNewsBreakと広告契約を結びたい。彼らのウォールドガーデンに我々の広告を入れ、彼らに多少の手数料を払い、それで少なくとも我々の直接契約の要件は満たしたい。しかし、我々のようなニッチなパブリッシャーだと、それは本当に難しい。どうしたらいいのか、正直、まるでわからない……。いや、私がちゃんと仕事をしていないとか、そういう意味ではない。いままさに、業界全体が変わろうとしている状態なのだろう。
――厳しい状況のようだ。インベントリがしばしば売り切れ、お金は入ってくるが、そこはもうインプレッションはない。となると、あなた方のようなパブリッシャーにいまできることとは?
あなたの期待通りのコメントになると思うが、トラフィックを買えと強いられている状況だ。実際、買えないわけではない。しかし、もしも買ってしまったらそれはある種の裁定取引に、つまり我々はMFAということになる。 たとえばFacebookでクリック報酬型広告を買えて、それで我々の1000インプレッションあたりのコストが上がり、我々の1000ページ閲覧あたりの収益が下がる。そこで、RPMを最大化するべく、テンプレート化されたページを大量の広告ユニットと共に出す、というようなやり方とは根本的に異なる。
MFAに関する記事は毎週DIGIDAYで3つも4つも出され、エージェンシーが「おたくはこのトラフィックを全部買っている、だからMFAだ」と文句を言ってくるたびに、我々はいわば打撃を食らうことになる。八方塞がりの状態だ。無数の取引条件は満たさなければならず、もはやトラフィックを買うしかない。もちろん、MFAサイトを作るつもりはない。私はただ、エージェンシーからお金をもらえて、キャンペーンの目標を達成させてもらえる何かをしようとしているだけなのに。まさにすべてがぎりぎりの綱渡りそのものだ。これはただの愚痴だが、最近は本当に厳しい。
Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)