業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回ご登場願うのは、は、ハリウッドに勤務するテレビプロデューサーだ。さまざまなプラットフォームで動画コンテンツが求められる現状は、夢のように思えるかもしれないが、実際はそうでもないと語る。
ハリウッドに勤務するテレビプロデューサーたちの生活は、長いこと、かなりシンプルだった。売り込み先のチャンネル数は限られていて、番組の長さもほとんど30分か1時間に限られていたからだ。
いまやもう、そんなふうには行かない。ソーシャルプラットフォームや紙媒体パブリッシャー、さらには電話会社までが動画を優先し、優れたコンテンツを探す企業は、日々増えている。この状況は動画コンテンツを取り扱う人々にとって、夢のような環境に思えるが、挑戦や不満がないわけではない。
今回の「告白」シリーズでは、ハリウッドでテレビ番組やデジタルビデオを手がけるベテランプロデューサーに、動画が渇望されるいまの環境でやっていく難しさについて話を聞いた。いつものように、匿名扱いにする代わりに正直に語ってもらっている。
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――現代のデジタル世界で直面する最大の問題は?
バイヤーが自身の資金で手に入ると思っているものと、実際に手に入るものとのあいだに、大きなずれがある。バイヤーには、権利を与えてやっている、という感覚がある――「名の知れた我々と一緒に働けるのだから、大喜びすべきだ」という具合だ。
――誰がそんなことを言うのか?
自分たちにはブランドがあるから実際に金を払う必要はないと考えている紙媒体パブリッシャーだ。制作費が5万ドルかかるような5分間の動画に対して、1分あたり1000ドルや5000ドルといった予算を提示してくる。つまり、誰も聞いたことがなく、誰も視聴しないであろうオーバーザトップ(OTT)チャンネルで配信してやるから、1エピソードにつき2万5000ドルの損失をかぶれ、というのだ。そんなことはご免だ。
――そういったずれの原因は何だと思う?
ニュース報道やFacebook動画は迅速に効率よくできるから、物語的なコンテンツでも同様にできるだろうと思っているのだ。だが、そんなのは戯言だ。予算が1分あたり1000ドルや2000ドルなら、彼らがいまやっていることを続けてもらうだけだ。彼らはいま、安い報酬で多くの若者を使い捨てにしている。そのままならば、支払額に見合うものを手に入れるだけだ。素晴らしい作品が生まれるかといえば、おそらく生まれない。だが、多額の出費をしているわけではないから、それで構わないのだろう。
――ただ、誰もがそうであるわけではないだろう。米通信キャリア大手ベライゾン(Verizon)など一部の企業は、コンテンツに対してきちんと金を払っている。
私の場合、コンテンツの売り先が増えている。だが結局のところ、誰も、そういうプラットフォームが存在することを知らない。最近、あるテレビプロデューサー(ネットワーク向けに手がけた番組3本が現在放送中であるプロデューサー)と話をしていて、これまでの売り先のプラットフォームをいくつか挙げてみたが、向こうはどれも聞いたことがなかった。それがいまの現状だ。NetflixやAmazonは、ハリウッドで一躍有名になった。だから、NetflixやAmazonで番組を提供すれば、何らかの意味はある。だが、デジタル企業の大半は、番組提供に何らかの意味があるのかどうか不明だ。
――でも、あなたはまだそうしたデジタル企業にコンテンツを売っているね。
デジタル業界はこの15年間、我々のあいだで話題に上ってきた。「これは未来だ。誰もが動画をオンラインで視聴するようになる」というように。YouTubeやFacebookでは実際に視聴されているし、Snapchat(スナップチャット)でもある程度視聴されている。それ以外のストリーミングプラットフォームは、いずれもまだ突破口を開いていない。それでも金は払ってくれるので、こちらとしては、金が必要だからプロジェクトを売る。しかし、誰にも視聴してもらえないし、イベントで誰かをあっと言わせることもないと確信している、という奇妙な立場に陥っている。
――そのことは、一緒に働く俳優や有名人にどんな影響を及ぼしてきた?
どんなスターであれ、デジタル企業のためにやる気を出させるのは容易なことではない。スターたちはやってきて、「どういう番組かわからない」という。実際、私自身、どういう番組かわからないことが多々ある。
エレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)界の大物スターを起用した番組制作について話していたときのことだ。そのアーティストはどういう番組かわかっていないし、誰も視聴しないだろうから、ほとんどのデジタルプラットフォームには売り込めないと思った。
そこで、デジタルプラットフォームと実入りの大きい取引をする代わりに、もっとケチな現金取引をして、MTVやNBC、VH1でその番組を放送することにした。MTVやVH1で放送すれば、何らかの価値があると知っていたからだ。
――デジタル企業は、番組のマーケティングに十分取り組んでいないのか?
デジタル企業は皆、素晴らしいコンテンツを制作したい、素晴らしいライブラリを構築中なので、誰が視聴するかは気にしていない、という。つまり、4、5年後には、素晴らしい番組がそろっていて、誰にも視聴してもらえなくても、海外に売ったり、テレビネットワークにもち込んだりできるから満足だ、ということなのだろうか? これにはいつも参ってしまう。
――では、テレビのほうがまだ無難なのか?
テレビで番組が成功すれば、それに付随して、非常に大きな売り上げを上げられる。シーズン1や、おそらくシーズン2でも、金を稼げないかもしれないが、シーズン3、シーズン4、シーズン5まで続けば一儲けできる。そこまで行けば、制作する都度、金を稼げるようになる。デジタル界にも同じような仕組みを求めているが、どれほど出来のいい番組が生まれようと、NBCで放送される番組には勝てないし、海外の賞を受けることもできないのだ。
Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)
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