デジタルメディアの世界はおそらく、多くのパブリッシャーがオーディエンスを可能な限り増やすことに、ほぼ全力を注いでいた時期を脱しつつある。コンデナスト・インターナショナル(Conde Nast International)の最高デジタル責任者を務めるボルフガング・ブラウ氏もこうした考え方の信奉者である。
デジタルメディアの世界はおそらく、多くのパブリッシャーがオーディエンスを可能な限り増やすことに、ほぼ全力を注いでいた時期を脱しつつある。
規模拡大の思想が輝きを失ったいま、深くつながる適切なオーディエンス基盤を築くことの意義を説くパプリッシャーが増えてきた。コンデナスト・インターナショナル(Conde Nast International)の最高デジタル責任者を務めるボルフガング・ブラウ氏もこうした考え方の信奉者であり、「ヴォーグ(Vogue)」が強い影響力をもつために巨大になる必要はないと語る。あまりにも長いあいだ、あまりにも多くのパブリッシャーが、「リーチに夢中になり」、読者を深く理解することへの注力をおろそかにしていたのだ。
「リーチ争いに勝つことはできない」と、ブラウ氏は10月27日、フランスのニースで開催された「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT EUROPE」で述べた。「たしかにオーディエンス基盤を構築しなければならない。我々は、ポートフォリオ全体で、約2億人のユニークビジターからなるオーディエンスを抱えている。このオーディエンスを増やしたいとは思うが、セグメント内で最大のオーディエンスにならなくていい。クライアントに価値をもたらし、話題にのぼるだけの大きさは必要だ。しかし、私にとってはるかに興味深い筋書きは、『ヴォーグ』が我々の属するすべての市場において、ファッションの愛好家とプロフェッショナルからなるもっとも熱心なコミュニティーを確保している状況だ」。
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ここからは、ブラウ氏へのインタビューからハイライト部分をご紹介しよう。
コンデナストの望みは各国版「ヴォーグ」が個性的になること
世界21カ国で刊行される「ヴォーグ」の各国版には、それぞれに個性がある。そうした個性は、コンデナストが市場全域で機会を見極めるのに役立っている。米国を除くコンデナストの業務を一手に引き受けるコンデナスト・インターナショナルは、各市場に合わせてある程度の自主性を認めることは極めて重要だと考えている。
「同じブランドでも、異なる市場では意味合いも大きく異なる場合がある」とブラウ氏。「オーストラリア版『ヴォーグ』がインテリアデザインや食べものを扱う一方、英国版『ヴォーグ』はファッション重視が際立っている」。
編集チームを一元化すると往々にして失敗する
インターネットとはじめて遭遇した当時の紙媒体パブリッシャーは、中心の紙媒体チームからWeb事業を切り離す傾向があった。これがいわば育児放棄のような状況を生み出したため、結局、区分すべきでないという共通認識から、大半のニュースルーム(編集部)が紙媒体とデジタルの業務を統合した。しかし、英紙「ガーディアン(Guardian)」からコンデナストに移ってきたブラウ氏は、紙媒体部門とデジタル部門がつながった状態を維持しつつも、再びチームを分割すべき時期なのかもしれないと考えている。
「後知恵の『すべての業務をひとつのチームで』という考えは、従来型のパブリッシャーにデジタル専業の競合相手がいなかった時代には正しかった」と、ブラウ氏は振り返る。「たしかに原稿の質が上がり、専門性も上がる。だが、必然的に反応速度とコンテンツの動きが落ちてしまう。結果的にコンテンツの数が減り、これは多くの新聞に見られてきたことだが、デジタルオーディエンスの年齢が上昇している」。
「ヴォーグ」でデータ文化は繁栄できる
『プラダを着た悪魔(原題:The Devil Wears Prada)』で描かれたような「ヴォーグ」観により、同誌はデータドリブンな思考様式が根を下ろしそうにない場所と思われている。アナリティクスの理解と認識をエディトリアル文化に溶け込ませるコツのひとつは、言葉を変えること。「データドリブン」をやめて、「データインフォームド」にする。そのあとは、データを使って良い記事が書けることを記者たちに示せばいい。
「手にできなかったであろう勝利をひとたび記者たちが得れば、勢いが増す」とブラウ氏。「また、データチームには、元編集者やエディトリアルに熱心な人々もいる」。
中国版「ヴォーグ」編集チームの3分の1はWeChatのコンテンツ制作に専念
ブラウ氏は、未来への手がかりをシリコンバレーに求める欧州の経営陣が多すぎると考えている。シリコンバレーが重要なのは間違いないが、異なる進化を遂げつつある中国も同様に重要だ。
「ふたつのインターネット」があるとブラウ氏は語る。ひとつは米国、そしてもうひとつが中国だ。たとえば、中国版「ヴォーグ」は21人のデジタルエディターを擁し、そのうち7人が「WeChat(微信)」のコンテンツ制作を集中的に行っている。そして、コンデナストがWeChatのユーザーから得る売上は、彼らが中国版「ヴォーグ」のモバイルサイトにアクセスした場合と同程度だ。
「我々は、世界各地でこのような実験を行っている」と、ブラウ氏は語った。
Brian Morrissey (原文 / 訳:ガリレオ)