7月19日、コンデナスト・エンターテインメント(Condé Nast Entertainment)の会議室には、さまざまな発行物や部署の従業員が10名ほど集い、メディア複合企業であるコンデナストの20ブランドが使うeコマースインフラの改善方法について、熱気のあるブレインストーミングを繰り広げていた。
7月19日、コンデナスト・エンターテインメント(Condé Nast Entertainment)のオフィスにあるガラス張りの会議室には、さまざまな発行物や部署の従業員が10名ほど集い、メディア複合企業であるコンデナストの20ブランドが使うeコマースインフラの改善方法について、熱気のあるブレインストーミングを繰り広げていた。
その部屋に、コンデナストの最高デジタル責任者、フレッド・サンターピア氏が足を踏み入れると、会議室に静寂が降りた。メガネをかけ、羽をあしらった中折れ帽をかぶった『Vogue(ヴォーグ)』の編集者は、椅子に真っ直ぐ座り直した。コンデナストの製品開発チームのメンバーは、ムスクの香りを詫びてテーブルの上のくずを払い、その左隣のトレーナー姿のエンジニアは、コーディングしているページを最小化してサンターピア氏に向き直った。
「構わない。概要を聞かせてくれ」とサンターピア氏が言うと、チームはアイデアを説明しはじめた。集まっていたのは、3回目となる年に1度のコンデナスト全体のハッカソンに参加しているチームだ。今回のハッカソンでは、300人を超える従業員が3日間、コンデナストのための新しいコンセプトについてブレインストーミングを続けた。20日には締めくくりに、『Vogue』の編集長でコンデナストのアートディレクターを務めるアナ・ウィンター氏ら審査員の前で、最終プレゼンが行われた。
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優勝チームは、オフィス向けメッセージングプログラム「Slack(スラック)」のなかで動くボット「Hopscotch」を成果物として披露。Hopscotchは、トレンドのデータや機械学習を駆使したソーシャル戦略で、ソーシャルメディアへの共有をブランド横断的に最適化できるように作られている。このボットを使うと、たとえば、『Glamour(グラマー)』の投稿が『Self(セルフ)』のFacebookのページでうまく行くか、また、その逆はどうなるかなどを判断できる。
「できることを把握するため」
ハッカソンは、シリコンバレーの文化に触発され、ファッションブランドでもパブリッシャーでも一般的になりつつある。ただ、コンデナストのこのイベントは、『Vogue』『Allure(アリュール)』『GQ』といったファッションや美容のブランドにとどまらず、発行しているすべてのものが対象で、影響は広範囲に及ぶ。昨年の優勝チームが開発したSEOに役立つAPIは、現在、コンデナストのすべての発行物で利用されている。
今回のハッカソンのテーマはパーソナライゼーションだった。たしかにあまりに広いテーマだが、サンターピア氏によると、コンデナストにすでにあるAPIを通じて利用できる情報と外部データの両方を使い、創造的に考えさせることを意図したのだという。審査は、社内APIの利用、全般的な実現性、コンデナストへの効果など、複数のカテゴリーについて行われた。
サンダーピア氏は、各チームを回る合間に、角部屋になっている自身の豪華な仕事場で語ってくれた。「我々がやっていることはすべて、データとパーソナライゼーションに基づいている。このようにとてもしっかりしたデータエンジニアリングインフラを構築したが、そうしたツールで何ができるのか、また、どのように使えるのかを学ぶのは、データが第1言語だという者はいないのだから、簡単なことではない。しかし、時間をかけて単純明快に説明したうえで、ツールをまとまった期間にさまざまな目的で使うようにチームに求めると、できることを把握するための短期集中コースになることがわかってきている」と。
参加するチームは、コンデナストのエマージングプロダクト担当バイスプレジデントを務めるアーリー・シソン氏が戦略的に選んだ。同氏の仕事場の壁は、現在、従業員の名前が書かれた、色分けされた付箋でいっぱいになっている。シソン氏は、コンピューターエンジニアやクリエイティブから、編集者や人事部に至るまで、多様な経歴と考え方の持ち主が混ざり合った組み合わせにしようと、付箋紙を使ってチームを組んでいったのだ。今回のハッカソンは全社に開かれていたが、スペースの関係から、50人がキャンセル待ちに回った。
「信じられない力になる」
コンデナストが2014年に最初の最高デジタル責任者に任命したサンターピア氏は、このハッカソンについて、日々の責任から解放されて全体を考える3日間を従業員にもたらす効果だけにとどまらず、大きな変化をコンデナストにもたらしていると語った。
「我々は、電子メール、電話の呼び出しへの応対、トラブルの火消し、携帯電話の通知など、差し迫ったものに目が行きがちで、頭をクリアにする機会がない」と、サンターピア氏は言う。「印刷物、デジタル、ビジネス、編集、それに各ブランドとグループ企業の人々数百人を集め、そのエネルギーをひとつの共通目標に向けることができると、とにかく信じられないような力になる」。
ハッカソン参加者はだいたい半分が初参加だった。初心者を把握するため、シソン氏はハッカソン前に何度か講座を開いた。これは、ウィンター氏のほか、サンターピア氏、コンデナストのCEOのボブ・サウアーバーグ氏、COOのサハ・エルハバシ氏、『Allure』編集長のミッシェル・リー氏など、お歴々が顔を揃えた審査員にプレゼンする不安を和らげるためでもあった。
「この会社の大変に有名なリーダーなので、(ウィンター氏の)参加にはそれはそれは意義がある。若者たちを部屋に集め、アナの審査を受けさせるのは素晴らしいキャリアになる」と、サンターピア氏は語った。
「私は思いつかなかった」
19日の午後も終わろうというとき、サンターピア氏は、eコマースのプラットフォームに精を出しているチームの隣の、もうひとつの会議室に立ち寄った。そこで顔を合わせたのは、『Self』のチャットボットに取り組んでいるグループで、コンデナストはこのチャットボットを全ブランドに展開する計画でいる。すると、『Teen Vogue(ティーンヴォーグ)』のデジタル編集ディレクター、フィリップ・ピカルディー氏が部屋の隅から不意に声を張りあげ、新たに思いついたアイデアを口にした。
「それは思いつかなかったな」と、椅子から身を乗り出してサンターピア氏は言った。それが皮肉なのか決めかねたピカルディー氏は、「私をからかっているだけで、実はすでに思いついていんじゃないのですか」と、慎重に応じた。
「いや、本当の話だ。私は思いつかなかった」と、サンターピア氏は笑顔で言い、その部屋をあとにした。
Bethany Biron (原文 / 訳:ガリレオ)