[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)は、サブスクリプション売上と紙媒体広告のおかげで好調だ。米DIGIDAYは、同社のグローバル広告責任者、セバスチャン・トミッチ氏にインタビューを行い、これまでNYTがポッドキャストアプリやニュースレターで収めてきた成功について尋ねた。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)は、サブスクリプション売上と紙媒体広告のおかげで好調だ。
だが、サウス・バイ・サウスウエスト(South by Southwest:以下、SXSW)では、FX(フォックス傘下の有料テレビ局)とHulu(フールー)で配信される同社制作の動画番組「ザ・ウィークリー(The Weekly)」に焦点を絞った。この番組のFXおよびHuluにおける広告販売権をNYTは持っていないが、これはブランドの成長のための投資であると、同社のグローバル広告責任者、セバスチャン・トミッチ氏はいう。
米DIGIDAYは、SXSWでトミッチ氏にインタビューを行い、これまでNYTがポッドキャストアプリやニュースレターで収めてきた成功について尋ねた。なお、読みやすさを考慮し、内容には若干の編集を加えてある。
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――「ザ・ウィークリー」を制作した理由は? テレビの売上を獲得するため? それとも他にも目的が?
わたしは「ザ・ウィークリー」を非常に戦略的に考えている。我々は番組の広告販売権を持っていないので、広告ビジネスに貢献するものではない。期待しているのは持続的効果だ。テレビ番組がもし大成功になれば、たとえそこで広告在庫を販売しなくても、ブランドに好影響が及び、NYTの露出を高めることができる。
「ザ・ウィークリー」は(ポッドキャストの)「ザ・デイリー」の二番煎じだと思われがちだが、両者はそれほど似ていない。フォーマットもタレントもまったく別だ。「ザ・デイリー」が広告に与えた影響について考えてみてほしい。メディアエージェンシーの20代前半の若者たちに、NYTのサブスクリプションを購読しているか聞くと、「インスタグラム(Instagram)やFacebookで時々見てるよ」と返される。だが、「『ザ・デイリー』を聴いてる人は?」と聞けば、全員が手を挙げる。
「ザ・デイリー」は、これまで我々が行ったブランドキャンペーンのなかで最大の成功となり、まったく新しい世代のオーディエンスを獲得した。ただし、財政面では、明らかにそれほど利益のあがる事業ではない。ゲームを制するのは簡単ではないのだ。
――「ザ・デイリー」のポッドキャスト売上は、どの程度の成功だったと考えている? リスナーは広告をスキップすることも可能だが。
広告のスキップというなら、紙媒体でもテレビ広告でもスキップはできるし、デジタル広告のかなりの部分は不正だ。
「ザ・デイリー」は大ヒットだった。(現四半期の広告枠は)完売したし、次もきっとそうなるだろう。ディスプレイ広告が大量に売れても、クライアントから「大成功だよ、次はもっと買いたい」と電話がかかってくることはなかった。しかし、オーディオに関しては、実際にとてもうまくいっている。効果測定やスキップについて懐疑的な意見もあるが、ポッドキャストの大口広告主たちは、すでにファネルを通過した。
大口といってもP&Gやコカコーラのような巨大企業ではなく、マットレスのキャスパー(Casper)や、求人サイトのジップリクルーター(ZipRecruiter)だが、これはいい兆候だ。彼らはパフォーマンス第一で、広告予算は限られている。成功の理由のひとつは、不正がないことだ。不正広告はいまや常態化していて、どんな数値もそれを差し引いて考えなくてはならない。
「ザ・デイリー」では、意図的にディスラプティブ(破壊的手法)を採用した。わたしがディスラプティブな広告を好むのは、効果があるからだ。デジタル広告の問題点は、ほとんどがまったく注意を惹かないことだ。最後に、我々はいま、ポッドキャストの黄金時代にいると、私は思う。今後数年は好調が続くだろう。
――「ザ・デイリー」以外では、ほかのプラットフォームとの関係をどう考えている? Twitterは最高のパートナーだとBuzzFeedは言いつづけている。実りある関係の実例は?
「ザ・デイリー」は我々のプラットフォームの外、Appleやその他のポッドキャストアプリにある。他のプラットフォームの戦略や、ソーシャル動画の台頭、動画への転向、不安定な経済状況を見るに、(良好な関係は)おそらく長続きしない。1〜2年はいい関係でいられるかもしれないが、プラットフォームは突然豹変する。我々は企業として、プラットフォームとの関係には、概してきわめて慎重だ。
(前のパネリストの発言を受けて)どのプラットフォームにも個性があるのは確かだ。Facebookは特に扱いづらい。我々は、サブスクリプションを伸ばすため、誰よりもFacebookに予算を費やしていると思う。広告販売事業の観点からは、業界の共通認識として、Facebookかインスタグラム(Instagram)が世界を牛耳り、彼らのルールに従ってプレイしなければ取り残されると言われている。
しかし、私はもはや、そうは思わない。プラットフォームの影でビジネスはできないという、業界のコンセンサスがある。一方、Googleは少し事情が異なる。Googleは(我々と)同じ目標に向かっている。しかし、賭けてもいいが、彼らもプラットフォームの外で、すぐさま利益につながらないことをやるつもりはないはずだ。
――ニュースレターはNYTにとって、売上の面でどれだけ重要?
我々に売上をもたらしている主力プロダクトは、クリエイティブサービス、オーディオ、eメールだ。ニュースレターは我々にとって非常に重要だ。サイトのバーティカルページよりもニュースレターからのトラフィックの方が多いはずだ。
ニュースレターは素晴らしいが、広告業界のタブーに抵触する。ニュースレターやeメールと聞くと、どうしても「ダサい」印象があるが、かつては付加価値を生み出す手段だった。私には、問題はむしろアドテクにあるように思える。どこか胡散臭いのだ。両者は別々の広告売上として計上される。課題もあるが、全体的には上り調子だ。
――Tブランドスタジオについては? 今年はこの事業への投資を拡大する?
デジタルメディアではありがちなのだが、あるプロジェクトにやたらと言及しないようになったら、それが利益を生むようになったということだ。コアビジネスに組み込まれ、収益化できたとたん、みな話題にしなくなる。我々にとってTブランドはそんな存在だ。4〜5年前は我々が業界の話題をさらったが、いまではどのメディア企業にも(社内エージェンシーが)ある。
NYTでの役割だが、(Tブランドは)あらゆる話題の中心だ。それはメディア事業のひとつとなった。チームは巨大化し、175人の社員が3つのオフィスで働いている。これまでに2つの企業を買収したが、今後2〜3年でさらに増えるかもしれない。事業はきわめて順調だ。このようなトレンドにより、いずれパブリッシャーは、クライアントと直接の関係を構築するようになるだろう。メディアクライアントだけでなく、価値を理解し、それを支えるだけの資金を持った、本物のクリエイティブなブランドマーケターとの関係だ。
Tブランドの強化を進めるにあたって、我々が描いていたシナリオは、エージェンシーと互角に戦えるようになることだった。そのためには、クライアントと直接つながるしかない。我々はこうしたビジョンの実現に、一歩一歩近づいている。
Kerry Flynn(原文 / 訳:ガリレオ)