テクノロジーの急速な進化に合わせて、パブリッシャーはウェブサイトを刷新し続けなければならない。そんななか、もっとも頼りにされているデザイン会社がある。ニューヨークを拠点とするデザインエージェンシー、コード・アンド・セオリー(Code and Theory)だ。メディアに愛され続ける理由とは?
テクノロジーの急速な進化に合わせて、パブリッシャーはWebサイトを刷新する必要が高まってきた。そんななか、もっとも頼りにされているデザイン会社がある。ニューヨークを拠点とするデザインエージェンシー、コード・アンド・セオリー(Code and Theory)だ。
同社はパブリッシャーのデジタルシフトを、ほぼ16年間支援し続けてきた。同社の起源は、子どものころキャンプ場で出会ったというダン・ガードナー氏とブランドン・ラルフ氏が、広告代理店ドラフトエフシービー(Draftfcb)を退社して独立したことにある。当時担当クライアントはおらず、きちんとしたエージェンシー経験もなかったが、創業以来Vox Media、ザ・バージ(The Verge)、ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)、ハースト(Hearst)などの有力パブリッシャーのデジタルデザインを担当してきた。
現在、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドンなど5つのオフィスに約400人を擁し、75のメディアと提携して成長を続けている。従来型の広告エージェンシーの仕事にも手を広げており、クライアントにはバーガーキング(Burger King)、化粧品ブランドのメイベリン・ニューヨーク(Maybelline New York)、米保険大手ニューヨークライフ(New York Life)がいる。だがもっとも有名なのは、パブリッシャーのWebデザインだ。コード・アンド・セオリーのニューヨークオフィスは、いわばメディアへのオマージュとなっている。そこは以前あのアンディー・ウォーホルによって1969年に創刊された月刊誌『インタビュー(Interview)』のオフィスで、同誌の巨大な美術書ライブラリーを備えている。コード・アンド・セオリーがインタビューの刷新デザインを担当したあとに、両社はオフィスを交換したのだった。
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雑誌的デザインが評判に
2001年当時は、デジタルの経験は少しあるだけでも強みになった。「誰もこの分野の経験がなかった」とガードナー氏は語った。現在、同氏は日常業務を主に担当し、ラルフ氏は新しいビジネスの開拓に重点を置いている。「創業時、戦略はなかったがアイデアはあった。テクノロジーは未熟で、通信速度に問題があった」とガードナー氏は言う。コード・アンド・セオリーはソニーのために動画プレイヤーサイトを制作した際、いちはやくFlashを採用したという。
同社は2008年、ニュースメディア、デイリー・ビースト(The Daily Beast)のデザインで大評判になった。創業者のジャーナリスト、ティナ・ブラウン氏の大きな展望にマッチした力強い雑誌風のデザインを提供したのだ。さらにヴォーグ(Vogue)や、ジェイソン・ビン氏のドゥジュール(DuJour)のWebサイト制作でも名をあげた。ワーク・アンド・コー(Work & Co.)やハード・キャンディ・シェル(Hard Candy Shell)などのほかのデザイン事務所も人気はあるが、クライアントであるパブリッシャーによると、コード・アンド・セオリーはニュースにもデジタルデザインにも強い(デザイナーをクライアントの編集部に送り込むことを売りにしている)。雑誌風の階層性が強いデザインに加えて、デジタル時代の色彩感を押し出したブルームバーグ・ビジネスやロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)などの見事なビジュアルを手掛けてきた。
ジョシュア・トポルスキー氏は、デイリー・ビーストのデザイン刷新を見て、コード・アンド・セオリーに電話をかけた。以来、エンガジェット(Engadget)、ザ・バージ(The Verge)、ブルームバーグ・メディア、それに2016年末に立ち上げたザ・アウトライン(The Outline)で、デザインといえば同社に依頼してきたという。ザ・バージでは、フィードを時系列に並ばないレイアウトに変更したことで、最初は混乱を呼んだが、サイトの重要性をあらためて打ち出した。「非常に雑誌的だった」とトポルスキー氏は述べた。「表紙は出版物の顔であるべきだという考え方だ」。
問題解決のアプローチ
NBCニュースのデザイナーは現在、短期間で一気にデザインを行っている。このアプローチは今年同社の社屋で、コード・アンド・セオリーとともに仕事をしながら学び取ったという。NBCニュース・デジタルのプロダクトおよびデザイン部門バイス・プレジデント、モーリッツ・ギンベル氏は感心しながら「非常に積極的な、すぐにやる精神」を見たと話した。
コード・アンド・セオリーの成功は、いわば「予言の自己成就」のような部分があるといえるかもしれない。クライアントのメディア企業が増えるにつれて、メディア業界の経験が増えていき、結果として人気が高まっていった。「あの会社は長年、メディア企業との経験を重ねてきた」と語ったのは、ハースト・デジタル・メディア(Hearst Digital Media)のプレジデント、トロイ・ヤング氏だ。2000年代はじめ、デジタルエージェンシーのオーガニック(Organic)在籍中に、はじめて仕事を依頼。その後、ハーストの所有メディア全体で稼働するフロントエンド・デザインシステムの開発に、コード・アンド・セオリーを起用した。「コード・アンド・セオリーは経験豊富だったので、メディアに関する専門知識、エンゲージメント最大化の方法を探究する能力、ストーリーテリングがすべて矛盾なく一貫していた」。
ただしそうした評価のおかげで会社が成り立っているわけではない、とガードナー氏は話した。「良い評価は半年ほどで消える。私が常に気にかけていることは、我々は価値を創造できているのかということだ。クライアントは、我々への報酬よりも大きな利益を得なければならない」。
ガードナー氏は、デジタル専門のエージェンシーとして出発したことが、同社の方向性を決定づけたと話した。「我々の問題解決へのアプローチは、そこに由来する。クライアントがデザイン刷新を望むなら、我々はオーディエンス開発チーム、クリエイティブディレクター、製品ストラテジストと一緒に駆けつける。我々はすべての要素を考慮する。デジタルでは常に、オーディエンスが次のストーリーに進み、アクションを取るように促さなければならないからだ。デジタルには、そのための要素がたくさんある」。
最前線に立ち続けるため
現在のコード・アンド・セオリーは、無数にあるほかのフルサービスのエージェンシーに似てきている。ソーシャルメディアの仕事も、ブランド向けコンテンツ制作も請け負う。広告枠の購買や広報業務は行っていないが、ガードナー氏は、広告部門はまったく視野にないわけではないとほのめかした。ブランドは、マーケティングにおけるデジタル活用に精通しつつあるが、同時に新たな脅威に直面してもいる。そんななかでコード・アンド・セオリーは、はじめて消費者に直接語りかけようとしている自動車メーカーから、Amazonに立ち向かう食品小売業者まで、変革のただなかにある業界の企業を支援することに、大きな可能性を見いだしている。「Amazonにホールフーズ(Whole Foods)が買収されるとき、どうやって立ち向かうか。これは戦いだ。しかし戦いがあるところには刺激もある」とガードナー氏は語った。
こうした変化により、コード・アンド・セオリーは新たな収益源を得る一方で、従来型エージェンシーからパブリッシャーが所有するブランデッドコンテンツ制作チームまで、多数のライバルと競争するようになった。クライアント企業のために、デジタルワールドを生き延びるのに必要な社内組織改革のロードマップ策定まで手がけるようになった。本来は、コンサルティング企業が請け負うような仕事だ。
パブリッシャーの課題も変わった。メディア企業が成長をはじめ、テクノロジーが追いついてきた。業界では、コード・アンド・セオリーのほかにもエキスパートはいる。分散型メディアの台頭により、あえて自社サイトを後回しにしてでもGoogleやFacebook向けのコンテンツ制作に大きな力を注ぐパブリッシャーが増えてきた。そうなるとコード・アンド・セオリーは、動画戦略の策定にせよユーザー体験の改善にせよ、パブリッシャーがいま抱えている問題に適応していくことになる。最前線に立ち続けるため、同社は2年前、オーディエンス・エンゲージメント・ディレクターを新たに迎え入れた。
「誰もがどんどんスマートになっていくおかげで、私も姿勢を正さずにはいられない。かつてはデジタルが得意というだけで、特別だった。いまでは、たいていのことについてはクライアントの方がずっと詳しい」とガードナー氏は語った。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)