45歳の大人が、『くもりときどきミートボール(Cloudy With a Chance of Meatballs)』を観るためにストリーミングサービスへ加入する可能性は低い。しかし、こうしたキッズ向け番組の存在は、激化す […]
45歳の大人が、『くもりときどきミートボール(Cloudy With a Chance of Meatballs)』を観るためにストリーミングサービスへ加入する可能性は低い。しかし、こうしたキッズ向け番組の存在は、激化するストリーミング戦争において、解約防止の鍵を握る。少なくとも、バイアコムCBS(ViacomCBS)は、そう考えているようだ。
2014年10月の発足以降、CBSオールアクセス(CBS All Access)は数百万人の有料登録者を獲得してきた。主力は大人をターゲットにした、従来のCBSチャンネルの番組や、『グッド・ファイト(The Good Fight)』などのオリジナル番組だ。有料登録者の平均年齢は45歳で、子をもつ親がかなりの割合を占めると、ジェフ・グロスマン氏はいう。同氏はCBSオールアクセスおよびCBSエンターテインメントデジタル(CBS Entertainment Digital)でコンテンツ戦略・オペレーション担当エグゼクティブバイスプレジデントを務める。そんななか、2019年11月以降、CBSオールアクセスはキッズ・ファミリー向け番組を追加しはじめた。「リテンションツールとしての効果を意識したものだ」と、グロスマン氏は語る。
ストリーミングオーディエンスの興味と予算の争奪戦が続くなか、バイアコムCBSは、財布のひもを握る人物だけでなく、家族のメンバー全員に訴求することの重要性を認識した。そして、ストリーミング戦争の担い手たちのなかで、キッズ・ファミリー向け番組をラインアップのなかの価値ある資産と考えているのは、メディアコングロマリットだけではない。
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ワーナーメディア(WarnerMedia)は、自社の番組だけでもHBO Maxのラインアップをかなり充実したものにできたはずだ。『ルーニー・テューンズ(Looney Tunes)』やハンナ・バーベラ(Hanna-Barbera)の番組から、『アドベンチャー・タイム』などカートゥーン・ネットワーク(Cartoon Network)の作品まで、豊富に取り揃えているのだから。それでも、現在のストリーミング市場におけるキッズ・ファミリー番組の重要性を裏付けるように、同社はHBO Maxでの『セサミストリート(Sesame Street)』の独占配信契約を結んだ。誰でも知っている子ども向けシリーズを確保することは、「我々にとって最優先事項のひとつだった」と、HBO Maxの最高コンテンツ責任者、ケビン・ライリー氏は話す。
ワーナーメディアやバイアコムCBSと同様に、NBCユニバーサル(NBCUniversal)のストリーミングサービス「ピーコック(Peacock)」も、同社のアニメーションスタジオであるドリームワークス・アニメーション(DreamWorks Animation)が制作した番組を揃える。一方、Netflix(ネットフリックス)はアニメ映画を続々と投入し、ウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)の番組が抜けた穴を塞ごうと躍起になっている。最初からファミリー向けの映画やテレビ番組に恵まれたDisney+は、すでに2800万人以上の有料登録者を獲得した。
「誰もディズニーにはかなわない。彼らはコンテンツの世界でトップクラスのファミリー向け番組を独占している」と、メディアコンサルタント会社クリエイティブメディア(Creatv Media)の創業者、ピーター・チャティー氏はいう。
とはいえ、ライバルのストリーミングサービスはディズニーのラインナップを超える必要はないし、それを目指してもいない。キッズ・ファミリー向けコンテンツを十分に拡充して、その他すべての番組や映画を補強し、できるだけ多くの家族を満足させることで、サブスクリプションを継続させればいいのだ。
「多くのサービスにとって最大の課題はリテンションだ。そのため(キッズ・ファミリー番組は)サービスの利用を継続させるすぐれた手段になる」と、コンサルティング会社プロフェット(Prophet)のパートナー、ユーニス・シン氏は語る。
業界ではよく知られていることだが、子どもたちはお気に入りの番組や映画を繰り返し視聴し、続編やスピンオフもすべてチェックする。そのうえ、彼らは家庭内の権力者だ。「実際に料金を支払っている人は、サービス内容に対して厳しい評価をするだろう。それでも、子どもが見たがる番組があるなら、解約にはかなり慎重になるはずだ」と、ライリー氏は指摘する。
ファミリー番組
子どもだけでなく、親たちも楽しめる番組を提供できれば、ストリーミングサービスが有料登録者を維持できる見込みは大きくなる。
近頃の子どもはいつも携帯に釘づけだと思われがちだが、「ストリーミング業界では、ファミリー向け番組こそがもっとも視聴されるコンテンツだ」と、チャティー氏はいう。毎月、Netflixの世界のオーディエンスの約60%がキッズ・ファミリー番組を視聴すると、同社のアニメーション部門トップのメリッサ・コブ氏は、2019年10月にニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の記事のなかで述べている。
Netflixの料理対決番組『パーフェクト・スイーツ(Perfect Sweets)』は、ストリーミング業界が家族全員にアピールすることの重要性に気づくきっかけになったようだ。これ自体は必ずしもファミリー番組ではないが、「大人と同じように子どももこの番組に夢中になったことは、業界ではよく知られている」と、B17エンターテインメント(B17 Entertainment)の共同創業者レット・バックナー氏はいう。同社が制作する子どもの工作対決番組「クラフトピア(Craftopia)」は、HBO Maxで配信予定だ。「あの番組(『パーフェクト・スイーツ』)の成功を見て、ほかのストリーミングサービスも(家族みんなで視聴できる)コンテンツを求めるようになった」。
こうした需要により、制作会社は活況に沸いている。ユーレカ・プロダクションズ(Eureka Productions)は、ABCの『ホーリー・モーリー(Holey Moley)』など家族向けリアリティ番組を制作してきた。「家族みんなで見られる番組」への関心が高まってきていると、同社の共同CEOを務めるポール・フランクリン氏は語る。
ライバルはYouTube
家族の取り込みを狙うのは、サブスクリプション形式のストリーミングサービスだけではない。広告収入型の無料サービスも同様で、これらは支出に慎重な家庭にとって魅力的だ。ウォルマート(Walmart)傘下のブードゥー(Vudu)は、昨年オリジナル番組への参入を決めた際、ファミリー番組に狙いを定めた。同じく昨年、ロク(Roku)もキッズ・ファミリー番組をロクチャンネル(Roku Channnel)に追加した。それにもちろんYouTubeも、オリジナルの子ども向け番組に今後3年間で1億ドル(約111億円)の投資を計画している。
「YouTubeは子どもに一番人気だ。我々はそこでかなりのマーケティングとシーディング(起点づくり)をしている」と、ライリー氏は話す。
子どものあいだでのYouTube人気を見るかぎり、限られた予算でいくつストリーミングサービスに加入するかを判断しなければならない親たちは、考えるのを諦めて、YouTubeがあれば十分だと言いだしても不思議はない。とはいえ、YouTubeが子どもに不向きなコンテンツに視聴制限をかけられるか不安視する親も少なくない。そういう親たちはネットワーク局の基準に適合し、明確に区分けされたテレビ番組のラインアップをもつほかのサービスに、子どもの関心をそらそうと考えるかもしれない。
妥協点を見出そうとしているストリーミングサービスもある。たとえばHulu(フールー)は2018年、ポケットウォッチ(Pocket.watch)が制作するYouTube動画を、通常のテレビ番組の長さに再構成して配信する契約を結んだ。ポケットウォッチは、ライアン・カジ氏など子どもたちに高い人気を誇るクリエイターと提携して制作を行うエンターテインメント企業だ。Huluは2018年に90エピソードを発注し、翌年さらに177エピソードの制作を依頼したと、ポケットウォッチのシニアバイスプレジデント兼チャネル担当ゼネラルマネージャー、デビッド・ウィリアムズ氏は語る。
「キッズコンテンツは最強の解約防止剤だ」と、ウィリアムズ氏はいう。何しろ、子どもから手が離れるには18年かかるのだ。
Tim Petersen(原文 / 訳:ガリレオ)