昨今、至るところでブロックチェーンが使われはじめている感があるが、メディアも広告も例外ではない。こちらの記事に知っておくべきことをまとめる。
昨今、至るところでブロックチェーンが使われはじめている感があるが、メディアも広告も例外ではない。以下に知っておくべきことをまとめる。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンとは、ビットコインのような仮想通貨を支える基盤技術であり、基本的には分散型のネットーワーク内で機能する、膨大な数のエクセルファイルのようなものだ。これはつまり、高いセキュリティを保ちながら情報を大量に送信したり付け加えたりできることを意味している。また、ブロックチェーンに変更を加えることは不可能であり、そのデータの目的上、いかなる個人も集団もそれを破壊することはできない。
ブロックチェーンではないものとは
ブロックチェーンは、ビットコインそのものではない。間違った認識がされていることが多いが、ビットコインは基本的にはブロックチェーン上で機能する電子通貨である。ビットコイン向けに開発されたブロックチェーンは、ビットコインに特化して作られたものであり、これはそのほかの用途向けのブロックチェーン開発が、もっと後になってから行われた理由でもある。そしてビットコインは、その匿名性ゆえに機能している一方で、そのほかのビジネス向けのブロックチェーンでは匿名性は必須条件ではなく、むしろそうあるべきではない。参加者は、データの出どころがどこにあるかを知っており、本物であるという信頼がおけるのだ。
Advertisement
メディアでの活用
- マネタイゼーション:ブロックチェーンのコンテンツのディストリビューションプラットフォームであるディーセント(Decent)は、パブリック(Publiq)という「褒賞」プロセスをローンチしたことを発表したが、これはライターやクリエイターがブロックチェーン上でコンテンツを配布でき、即座に報酬を得ることができるものだ。
- アドバンスドTV:アメリカのケーブルテレビ会社、コムキャスト(Comcast)の先進広告グループが導入したこの新しい技術により、ブランドは(既存の)テレビ放送およびブロックチェーンの技術を使ったOTT(オーバーザトップ)テレビ向けの両方で広告を入札することができる。このグループはディズニー、アルティスUSA (Altice USA)、イギリスのチャンネル4(Channel 4)、そしてイタリアのTG1グループを呼び集め、2018年中にはマーケター、パブリッシャーやプログラマーがデータを1箇所に集めることなく共有できるようになる見込みだ。たとえば、あるCPG(消費財)のマーケターは、購入した広告のターゲティングを検討するうえで、Huluのようなコンテンツプロデューサーからのデータを直接受け取ることなく利用できる。
- 詐欺行為:2017年6月、メタエックス(MetaX)とデータ&マーケティング・アソシエーション(Data & Marketing Association)は、イーサリアム(Ethereum)のブロックチェーン上のオープンプロトコル、アドチェイン(adChain)をローンチした。これは、インターネット上のクリエイティブをのちに検索できるようにタグを打って追跡する仕組み。誰がそれを見つけたか、そして、その後どんな行動が取られたかがわかる。アドチェーンもコムキャストの取り組みと同様に、エージェンシー、パブリッシャーからマーケターまで、業界内のさまざまな組織は、相互に依存しあうことなく協働することができる。
- ホワイトリスティング:メタエックスは、DMAとコンセンシス(ConsenSys)の協力のもと、「アドトークン」(adToken)と呼ばれる仮想通貨を使うアドチェーンのレジストリを展開している。これは、パブリッシャーをホワイトリストに登録できるか(信頼がおけるものとして認定できるか)どうかの決定を参画者に促すものだ。そうすることで、ブランドは信頼できるパブリッシャーを選んで取引することができるようになる。

アドトークンの概念図
- 広告入札:ニューヨークインタラクティブ広告取引所(New York Interactive Advertising Exchange:NYIAX)は、ブランド、パブリッシャー、そしてエージェンシーが将来の広告インベントリーの売買ができるマーケットプレイスであり、ナスダック(Nasdaq)とのパートナーシップのもと、2017年中にローンチする予定だ。これは、条件が満たされている限りは契約条件の執行を自動化するというアイデアで、差し当たってはデジタルの広告入札に対してのみ適用される計画だ。
問題点
ブロックチェーンの採用率が低い:国際通貨市場(International Monetary Market:IMM)のアナリティクス部門でアソシエイトディレクターを務めるフレッド・アスクハム氏によると、詐欺行為が大きな懸念である一方、より大きな問題は業界で幅広く採用されるかどうかだという。ブロックチェーンは複数の「ノード」とプレイヤーに依存しており、参加者がいない限り機能しない。「以前にも何度か、広告業界でこのようなテクノロジーが何かを起こそうとしているのを見てきているが、そこにはいつもタイムラグがある」と彼は語る。
理論が先走りすぎている:コムキャストのプラットフォームのローンチは2018年になってからであり、NYIAXに至っては、まだその概念の実証段階だ。ブロックチェーンの動きのほとんどは、いまだその理論の検証段階であり、それが確立するにはまだ長い年月がかかるだろう。
スケーラビリティが欠如している:ユニオンスクエア・ベンチャーズ(Union Square Ventures)からの投資を受け、ブロックチェーンへ大きな投資を行なっているサイマルメディア(Simulmedia)のCEO、デーブ・モーガン氏によると、ブロックチェーンのもっとも大きな期待は広告配信にあるが、スケールが問題として残るという。
「個人レベルで解決できるような簡単な問題に対しては有効だが、全体としては計算が難しい」と、モーガン氏は語る。「少なくともあと5年はかかるだろうという。たとえば、イーサリアムベースのブロックチェーンは1秒あたり20件のトランザクションを処理できるが、リアルタイム入札のスピードの現状を考えると、何光年も先の話になってしまう。調査企業のガートナー(Gartner)は、現在のブロックチェーンの状況を「幻滅期」と位置づけている。

新技術の現状と主流化までに擁する時間:ガートナー予測
多くのトランザクションタイプで機能しない:コムキャストの子会社であり、インサイトのプラットフォームの構築に取り組むフリーホイール(FreeWheel)の共同創設者、ジョン・ヘラー氏によると、たとえばプレミアムなビデオスペースのように流通市場がない場合、スマート契約向けのブロックチェーンはまったく意味をなさないという。
「プレミムなインベントリーには、『気軽に買い物をする感覚』が存在し得ない」と、ヘラー氏は語る。「相手を信頼する必要なしに取引できれば、大きな存在価値がある。それゆえに、マーケティング業界の至るところにあるものではないが、そこそこの数は期待できる」。
反論
「そこにはいくつかの技術的な障壁がある。ブロックチェーン自体の安定性は証明され、多くの影響力のある採用事例はあるものの、企業は本当の意味でインパクトを与えられる強力なアプリケーションを開発する必要がある。そしてこれはすでに起こりつつある」と、『ブロックチェーン革命』の著者、アレックス・タップスコット氏は語る。「だが、わたしの考えでは未来は予測するものではなく、成し遂げるものだ。わたしたちは、すでに素晴らしいことを達成している人々を見てきている」。