AT&T傘下のワーナーメディア(WarnerMedia)は、ストリーミング戦争を生き残るために仲間を求めていた。ディスカバリー(Discovery)もそうだ。そして両社は、Netflixやディズニーに対抗すべく手を組むことになった。この統合について、要点をまとめた。
AT&T傘下のワーナーメディア(WarnerMedia)は、ストリーミング戦争を生き残るために仲間を求めていた。ディスカバリー(Discovery)もそうだ。そして両社は、Netflixやディズニーに対抗すべく手を組むことになった。
AT&Tがワーナーメディアの前身であるタイム・ワーナー(Time Warner)を買収してから3年近くが経過した今、通信業界の巨人はメディア業界の巨人になることをあきらめ、メディア部門のワーナーメディアをスピンオフすることにした。その結果、ワーナー・ブラザース(Warner Bros)、ターナー(Turner)、HBO Max(HBOマックス)を所有するワーナーメディアと、ディスカバリー・チャンネル(Discovery Channel)、フード・ネットワーク(Food Network)、ディスカバリー+(Discovery+)を所有するディスカバリーの合併が、5月17日に両社から発表されたというわけだ。
主なポイント:
- ディスカバリーのプレジデント兼CEOであるデビッド・ザスラフ氏が合併後の新会社を率いる。
- 合併が完了するのは2022年半ばになる見込み。
- 新会社の名前はまだ発表されていない。
- ワーナーメディアのアドテク部門であるザンダー(Xandr)は新会社に移らずAT&Tに残ると、AT&Tの広報担当者は述べている。
ストリーミングの「超大国」が誕生
ディスカバリーは1月にディスカバリー+という独自のストリーミングサービスを発表したが、このサービスでNetflixに対抗するつもりはなかった。これに対し、ワーナーメディアが2020年5月にHBO Maxを立ち上げたのは、まさにNetflixという圧倒的なストリーミングサービスを狙い撃つことが目的だった。新たに誕生するメディアコングロマリットは、HBOの人気コメディやドラマとワーナー・ブラザースの大ヒット映画、それにディスカバリーのさまざまな教養ドキュメンタリー番組を組み合わせることで、Netflixに対抗できる最大のチャンスを得ただけでなく、トップの座を奪う可能性を視野に入れたといっても過言ではない。
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2021年第1四半期終了時点で、ディスカバリーはディスカバリー+を含むストリーミングポートフォリオ全体で1300万人の加入者を獲得した。一方、ワーナーメディアは、HBOのリニアTVネットワークに加入してHBO Maxを視聴している人とHBO Maxにのみ加入している人を含め、加入者数が米国で4420万人となり、世界全体で6390万人を突破した。とはいえ、両社の加入者ベースに重複がなかったとしても、合わせて7690万人にしかならない。かなりの数ではあるが、Netflixの2億860万人と比べれば大きく見劣りする。
ワーナーメディアとディスカバリーは、それぞれNetflixに本格的に対抗できるだけの十分な基盤を持っていたが、合併後の新会社はNetflixに対抗できるだけのコンテンツを手にするかもしれない。HBOは、TVドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)」のスピンオフ作品を制作中だ。ワーナー・ブラザース傘下のDCエクステンデッド・ユニバース(DC Extended Universe)は、マーベル(Marvel)ほどではないとしてもメジャーなメディア・フランチャイズであり、ワーナーメディアは「ハリー・ポッター(Harry Potter)」シリーズの権利を著者のJ・K・ローリング氏と共有している。そしてディスカバリーは、ディスカバリー・チャンネル、フード・ネットワーク、アニマル・プラネット(Animal Planet)、HGTV、TLCなどを抱えている。Netflixが家事や料理、動物をテーマとした番組に手を出す可能性もあるが、ディスカバリーは豊富なライブラリーを有している。また、ワーナーメディアはCNNに加え、NBAやMLBなどのスポーツ中継の放映権を持つターナーを抱えているが、Netflixにはニュースやスポーツ中継の番組はない。
広告販売の規模が拡大
広告ビジネスは数の勝負だ。広告主にとっては、取引先の数をなるべく減らしながら、リーチできるユニーク視聴者をいかに増やすかが重要なのだ。そして、ストリーミングへの移行が進む状況が、コネクテッドTVプラットフォームを所有するAmazon、ロク(Roku)、サムスン(Samsung)、ヴィジオ(Vizio)などのアグリゲーターを有利な立場に導いてきた。だが、TVネットワークを所有する企業は、自身がアグリゲーターでもある。ワーナーメディアとディスカバリーが合併すれば、さらに多くのインベントリー(在庫)が集まるはずだ。しかも、両社の番組はおそらく重複が少ないため、オーディエンスの重複も最小限にとどまるだろう。
「インクリメンタルリーチ」という言葉がTV広告やストリーミング広告のバイヤーのあいだで最大のバズワードのひとつとなっている今、ニュースマニアやスポーツファン、料理好きや動物好きの人など幅広いオーディエンスを持つことで、新会社は質の高い番組にチャンネルを合わせるありとあらゆる視聴者にリーチする機会を広告主に提供できるようになる。
リニアTVを活用
新会社のポートフォリオは、ストリーミング加入者やストリーミング広告費を引き寄せるだけでなく、衰退を続けるリニアTV業界のビジネスを保護することにもなるだろう。ストリーミング広告の販売で新会社が持つ優位性はリニアTVチャンネルにも適用され、有料TV局との交渉において、新会社はさらに有利な立場を享受できる可能性がある。
この1年で明らかになったように、CNNのようなTVネットワークのライブニュースは、TBSやTNTが放送するスポーツ中継と並び、従来型TVのなかでもっとも価値の高い番組だ。同じことは、ディスカバリーのネットワークで放送されている教養ドキュメンタリー番組にも当てはまる。そのため新会社は、加入者が視聴した番組に応じてネットワークに料金を支払う有料TV局に対し、より高い金額を請求できるようになる。もし彼らが、CNNやTBS、TNTだけでなく、ディスカバリー・チャンネルやフード・ネットワーク、それにチップ・ゲインズ氏とジョアンナ・ゲインズ氏のペアが間もなくスタートするマグノリア・ネットワーク(Magnolia Network)を失えば、解約者が続出するだろう。だが、それでも構わないという局はないはずだ。
まだ多い不明点
ワーナーメディアとディスカバリーが直面する最大の問題は、合併が計画通りに進むかどうかではなく、本当に承認されるかということだ。AT&Tは、タイム・ワーナー(今のワーナーメディア)の買収を米政府に承認してもらうまで、2年近く待たなければならなかった。今回の買収は当時と異なる政権の下で行われることになるが、反トラスト法が議員のあいだで大きな焦点となっている時期と重なっている。
もうひとつの問題は、ディスカバリーのCEOであるザスラフ氏が新会社を率いる一方で、ワーナーメディアのCEOであるジェイソン・キラー氏はどうなるのかということだ。Hulu(フールー)の創業者で元CEOのキラー氏は、昨年5月にワーナーメディアのCEOに就任して以来、評判通りに同社を揺るがしてきた。ワーナーメディアのビジネスがストリーミングにシフトしたことを受けて、HBO Maxの幹部を解任し、全社的なレイオフを実施してコストの削減を図ったのはその一例だ。だが、ワーナー・ブラザースの2021年の映画作品を劇場公開と同時にHBO Maxで配信すると発表したことで、エンターテインメント業界全体の反感を招くことになる。しかもキラー氏は、映画に関わった人々が得られるはずの利益を危険にさらすこの施策を、関係者にほとんど知らせないまま発表した。そのため、人間関係が重視されるこの業界で、同氏はあまり信頼を得られなかったようだ。これに対し、ザスラフ氏は優秀なセールスパーソンとして高い評価を得ている。今後投資家や規制当局に合併を認めてもらう必要があることや、両社のチームが一緒になったときに生じる軋轢を管理することを考えれば、ザスラフ氏に新会社を指揮してもらうほうがいいと判断されたのだろう。
また、HBO Maxとディスカバリー+をひとつのストリーミングサービスとして統合するのか、ディズニープラス(Disney+)、Hulu、ESPN+をセットにして割引価格で提供しているディズニーのように、セット販売を導入するのかも不明だ。HBO Maxとディスカバリー+を統合し、CNNのライブニュース番組やTBSとTNTのスポーツ中継を加えれば、Netflixに引けを取らないワンストップサービスになるだろう。ただし、月額15ドルのHBO Maxより料金が高くなる可能性がある。それならば、チャンネル別にサブスクリプションを提供したほうが利益を上げられるかもしれない。ひとつのストリーミングサービスに毎月20ドル以上を支払うことには抵抗がある人もいるからだ。HBO Maxやディスカバリー+をひとつの総合的なストリーミングサービスとして提供するのではなく、チャンネルごとに低価格で提供し、さらにライブニュースやスポーツ中継などのストリーミングサービスを展開すれば、見ない番組にお金を払いたくないという理由でケーブルTVを解約した人々を引き付けられる可能性がある。また、広告付きの無料ストリーミングTVサービスが急増していることから、新会社が充実した番組ライブラリーを利用して独自のサービスを展開したとしても不思議はない。
一方、ワーナーメディア傘下の広告会社ザンダーの運命は、それほど不透明ではない。AT&Tの広報担当者によれば、このアドテクノロジー部門は新会社に移らず、AT&Tに残るという。これはやや意外な話だ。ディスカバリーとワーナーメディアは、どちらも大規模な広告ビジネスを展開している。また、6月にはHBO Maxの広告付きサービスが開始されることから、両社ともストリーミング広告ビジネスを構築している。TVやストリーミング配信でのターゲティングや効果測定に注目が集まるなか、メディア業界がファーストパーティデータの獲得に力を入れていることを考えれば、新会社が独自の広告技術スタックを持ったほうが有利な立場を得られるようにも思える。ただし、現状は新会社にとってすでに十分有利なようだ。それに、ザンダーの顧客データをAT&Tのデータから切り離すことに時間とコストをかけることで、新会社の最終目標であるストリーミング戦争での勝利が遠ざかってしまう可能性もある。
[原文:Cheat Sheet: WarnerMedia and Discovery bundle up]
TIM PETERSON(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)