インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(Interactive Advertising Bureau)が4日間にわたって開催するNewFronts(ニューフロンツ)が今年、デジタル動画とソーシャル動画のルーツに戻ってきた。その3日目の動向をレポートする。
インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(Interactive Advertising Bureau)が4日間にわたって開催するNewFronts(ニューフロンツ)が今年、デジタル動画とソーシャル動画のルーツに戻ってきた。最初の2日間はコネクテッドTVとCookieレスターゲティングが話題を独占していたが、5月5日はソーシャルプラットフォームに共有されるクリエイター制作の短編動画にスポットライトが当てられた。この機会をとらえてプラットフォームやパブリッシャーが「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の重要性を説き――そしてもちろん、話はCookieレスターゲティングにも及んだ。
主なポイント:
- BuzzFeedが、前回プレゼンを行った2016年より規模も大きく、多様になってNewFrontsに戻ってきた。
- スナップ(Snap)は、ブランドとクリエイターを直接つなぐ「クリエイターマーケットプレイス(Creator Marketplace)」の立ち上げを発表。
- バイス(Vice)は、デモグラフィックターゲティングを「浅はかで廃れていくもの」と呼び、コンテクスチュアルターゲティングに力を注ぐ。また、Googleウェブストーリーとの提携拡大を発表した。
- Twitterはパブリッシャーやスポーツリーグとの大量のコンテンツ提携を発表。
スナップ
スナップ(Snap)の米国セールス担当バイスプレジデントのピーター・ネイラー氏は、NewFrontsのバズワードを(エアクォーツ付きで)「incremental(インクリメンタル:増加の)」である、と鋭く指摘した。スナップは(ほかにプレゼンを行ったプラットフォームやパブリッシャーも)、デジタルメディア企業が、オンライン動画コンテンツとコネクテッドTVで、リニアTVではありえないインクリメンタルリーチ(リニアTVでのリーチを基準に、別のメディアで増加させたリーチ)を広告主に提供できると強調する。ニールセン(Nielsen)のデータを引用しながら、18歳以上のSnapchatユーザーの60%近くがSnapchatを利用しないユーザーに比べてテレビの視聴が少ない、またはまったく見ないと論じた。
スナップのプレゼンでは、ブランドが一流のクリエイターとつながることができるプラットフォーム「クリエイターマーケットプレイス(Creator Marketplace)」の立ち上げも発表された。今月後半に全ブランドに向けてオープンし、2021年末までえり抜きのARクリエイターたちとの連携を可能にする(同社によると、毎日2億人のSnapchatユーザーがARコンテンツを利用している)。2022年はじめには、スナップの全クリエイターを含む公開マーケットプレイスへと拡張される予定である。
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スナップに関しては、9つのオリジナルコンテンツの発表もあった。スナップオリジナル(Snap Originals)責任者バネッサ・ガスリー氏は、同プラットフォーム上に番組を持つセレブとしてジェイデン・スミス、ケヴィン・ハート、ライアン・レイノルズや、Snapchatでスター的人気を誇るローレン・グレイ、ニキータ・ドラゴン、スウェイ・リーなどの名を挙げた。新番組「ザ・ミー・アンド・ユー・ショー(The Me and You Show)」では、SnapchatユーザーがARを利用し、友だちと一緒にコメディ番組に登場できる。新しいペット番組には、ラッパーのメーガン・ジー・スタリオンが出演する。新米ママを取り上げた「ミーム・マム(Meme Mom)」、テキサスにある高校の上級生と卒業生7人を追う「ラゴ・ヴィスタ(Lago Vista)」など、新ドキュメンタリーシリーズもいくつか発表された。「台本なし」のシリーズでは「カミング・アウト(Coming Out)」や「チャーリー・バーサス・ディキシー(Charli vs. Dixie)」、「台本あり」のシリーズでは社会問題、心の健康、気候変動などを扱うものもあるそうだ。
プレゼンテーションによると、スナップの1日あたりのユーザー数は2億8000万人で、前年に比べて5100万人と、22%増加している。2021年第1四半期のスナップの収益は前年比66%増の7億7000万ドル(約840億円)で、うち半分以上はダイレクトレスポンス広告からのものである。スナップのオリジナルコンテンツ責任者のショーン・ミルズ氏は、昨年は4億人以上の人がSnapchatを視聴し、これには米国のZ世代の90%以上が含まれると述べた。
バイス・メディア・グループ(Vice Media Group)
バイス・メディア・グループの最高人材活用責任者、デイジー・オーガー・ドミンゲス氏はバイスのプレゼンのなかで、デモグラフィックターゲティングが「人を分類する方法としては浅はかで廃れていくもの」と発言した。NewFrontsへの「データ差別をなくせ」という強力なメッセージである。オーガー・ドミンゲス氏は、広告主が自らを定義するのと同じように「年齢、民族、性自認ではなく、何を大切にし、情熱を注いでいるか」でオーディエンスの分類を定義すべきだと主張する。
Cookieが崩壊しつつあるなか、バイスは今回、新しいコンテクスチュアルターゲティングのソリューションも発表した。コンテクスチュアルなデータによって、クライアントの広告目標に対するリターンを289%高めることができたという。このソリューションでは、広告主がサブトピック、心情、感情、予測モデルに基づいてオーディエンスにリーチすることができる。
バイスはGoogleのウェブストーリーをバイス・メディア・グループのすべてのプラットフォームに導入することも発表した。バイス、バイスニュース(Vice News)、リファイナリー29(Refinery29)、i-Dのウェブプラットフォーム上に、タップで再生できる縦向きの動画ストーリーを表示する。パブリッシャーはウェブストーリー(GoogleのAMPストーリーがアップグレードしたもの)を通して、コンテンツがどこにどれだけの時間存続するかを決めることができ、収益化の方法もコントロールできる。バイス・メディア・グループの最高デジタル責任者であるコーリー・ハイク氏によれば、広告主はフルスクリーンのカスタム形式で直接購入することも、プログラマティックに購入することも、ブランデッドコンテンツ付きで購入することも可能だ。
音楽、旅行、食、恋愛などのトピックに関する番組編成を次々に披露するプレゼンテーションを見ると、バイス・メディア・グループの今年の焦点は黒人・新興クリエイターにある。リファイナリー29は若者を対象とした性教育の取り組みを再開し、ミレニアル世代の黒人女性をターゲットにしたサイト「アンボザード(Unbothered)」に力を入れていく。
バイスでは、リアルイベントの再開にも目を向けている。リファイナリー29の人気イベント「29Rooms」の今年のテーマは「メイク・コンタクト(Make Contact)」。バイス・メディア・グループのクリエイティブディレクターであるモニカ・ハーマン氏は、パフォーマンスと各種番組の「戦略的に開催時間の短縮された」パーティーになる、と話す。アンボザードでも、若い黒人女性のイベントを主催する。音楽ブランドのノイジー(Noisey)は、親密なライブパフォーマンスなどを体験できるファンサイト「ノイジー・レジデンシー(Noisey Residency)」を発表。動画、グッズ、ノイジーのさまざまなチャネル間のコラボレーションを通してデジタルオーディエンスにリーチする。
バイス・メディア・グループでは、新タグライン「ホワット・ハプンズ・ナウ(What Happens Now:今、何が起こっているのか)」とともに、円形になったロゴの新しいブランドアイデンティティも発表した。
BuzzFeed
BuzzFeedは2016年以来初めてNewFrontsに戻ってきた。ただし、今回広告主に披露したのは、BuzzFeed News、テイスティ(Tasty)、ハフポスト(HuffPost)などの強力なバーティカルと、コマース、アフィリエイト、製品、ライセンシング、ブランデッドコンテンツスタジオにわたる多角的な事業展開だ。
CEOのジョナ・ペレッティ氏は、10分の短いプレゼンを、昨年11月のハフポストに続き「デジタルメディアの買収を検討している」という発表で始めた。新型コロナウイルスのワクチン接種が広がるなかで若年層の消費者が再び外に出かけていく際に、BuzzFeedが「案内役」と「現代の消費者にとってインスピレーションの源」になることができると語る。
BuzzFeedは今年3月に開始したファーストパーティデータに関するサービス「ライトハウス(Lighthouse)」を、これからのCookieレス時代に対するソリューションとして売り込む。BuzzFeedのポートフォリオ全体から得られる多様なデータシグナルとともに、戦略的なセグメンテーション、ターゲティング、広告配信で、ブランドを1億400万人の月間ユーザー(および米国では月間32億回のコンテンツ視聴)につなぐことができるという。たとえば同社のデータによれば、食に関するコンテンツを読むユーザーは、ほかのユーザーに比べて子育てに関するコンテンツを検索する確率が5倍になることが突き止められている。BuzzFeedは買い物をするオーディエンス(ウィッシュリストをクリックし、自分の関心に合った特定のカテゴリーのコンテンツを購入する人たち)を持つことが強調された。
BuzzFeedのクリエイターたちにもスポットライトが当てられ、黒人向け「ココア・バター(Cocoa Butter)」やラテンアメリカ系向けの「ペロ・ライク(Pero Like)」など、特定の趣味やアイデンティティに特化したバーティカルも紹介された。最後に、あるカップルがレシピ検索からDIYプロジェクトへの挑戦、おすすめのテレビ番組の視聴、ドライブ旅行の計画まで、BuzzFeedのコンテンツを生活のなかで活用する様子が紹介され、プレゼンはシズル動画で幕を閉じた。
Twitterは、音楽やスポーツなどの各種バーティカルについて、新しく拡張したコンテンツ提携を次々と紹介した。提携先には、ビルボード(Billboard)、ジーニアス(Genius)、リファイナリー29(Refinery29)、テイストメイド(Tastemade)、MLB、NBCユニバーサル(NBCUniversal)、NHL、WNBAなどが名を連ねる。たとえばテイストメイドとの提携では、休日に集う際の食事に関するTwitterユーザーの質問や悩みに食のインフルエンサーがリアルタイムに答える「ホリデイ・ホットライン(Holiday Hotline)」という新しいフランチャイズを立ち上げる。
NBCユニバーサルのグローバルアドバタイジング&パートナーシップ担当チェアマンであるリンダ・ヤッカリーノ氏もTwitterのプレゼンテーションに登壇し、両社のパートナーシップについて語った。その大部分は今年7月の東京オリンピックを中心としたものだ。独占報道、ライブのハイライト、デイリーのライブ番組「トーキング・トーキョー(Talking Tokyo)」(オリンピック出場経験のあるフィギュアスケートのアダム・リッポン元選手が司会)がプラットフォーム上で配信される。
Twitterのグローバルパートナーシップ責任者であるジェン・プリンス氏は、Twitter Amplify(Twitterの無料動画で広告を配信)とTwitter ArtHouse(Twitter用のコンテンツ制作を支援するリソースをブランドに提供)について語った。
Twitterは、ビルボードと提携して作成するリアルタイムの新チャート「ザ・ビルボード・ホット・トレンディング・パワード・バイ・ツイッター(The Billboard Hot Trending powered by Twitter)」の発表も行った。Twitterで話題になっている音楽トレンドや曲目を追跡し、そのトレンドを取り上げた動画シリーズを毎日配信する。広告主はそのチャート、またはチャートに関連して制作されたコンテンツをスポンサーすることができる。
[原文:Cheat Sheet: Social platforms and publishers retook the NewFronts stage on the event’s third day]
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)