数カ月前から報じられていたとおり、BuzzFeedがSPACと合併して上場し、さらに、この動きの一環としてコンプレックス・ネットワークスを買収する。これにより、BuzzFeedのデジタルメディア企業の買収欲に火がつくとともに、業界における合併の動きが加速することが予想される。今回の買収劇に伴う要点をまとめた。
数カ月前から報じられていたとおり、創業15年目の有力ニュースメディアBuzzFeedが、SPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)である890フィフス・アベニュー・パートナーズ・インク(890 5th Avenue Partners Inc.)と合併して上場する。
同社はさらに、この動きの一環として、ハースト(Hearst)とベライゾン(Verizon)からコンプレックス・ネットワークス(Complex Networks)を買収する。これにより、BuzzFeedのデジタルメディア企業の買収欲に火がつくとともに、業界における合併の動きが加速することが予想される。
要点は以下のとおりだ。
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- 今回の取引におけるBuzzFeedの評価価値は15億ドル(約1670億円)。今年末には合意に至る模様。
- BuzzFeedのSPACはコンプレックス・ネットワークスを3億ドル(約340億円:そのうち2億ドル[約230億円]は現金、1億ドル[約110億円]はBuzzFeedの株式)で買収。これにより、コンプレックス・ネットワークス、BuzzFeed、BuzzFeed News、テイスティ(Tasty)、ハフポスト(HuffPost)が同じ傘下に入ることに。
- 調査会社コムスコア(Comscore)によれば、2021年5月、BuzzFeed.comのユニーク訪問者数は7230万人、Complex.comのそれは3860万人で、重複を除く先月の合計総数は9730万人。
- BuzzFeedの2020年度年間収益は3億2100万ドル(約360億円)。投資家へのプレゼンによれば、同社は2021年に5億2100万ドル(約580億円)、2022年に6億5400万ドル(約730億円)への増益を予想。
- BuzzFeedの広報によれば、同社は黒字であり、コンプレックス・ネットワークスも今年中に黒字化が見込まれる。
- BuzzFeed創業者ジョナ・ペレッティ氏はCEOに、フェリシア・デラ・フォーチュナ氏はCFOにそれぞれ留まる。
- BuzzFeedによる買収後も、コンプレックス・ネットワークスの編集部は、ハフポストの場合と同じく、独立性を維持する。
- ハフポスト買収時に実施したコスト削減策(2021年3月に50人近くの米従業員を解雇)と同様の措置は、今回コンプレックス・ネットワークスには取らないと、ペレッティ氏は示唆。
BuzzFeedの事業状況と今後の展望
BuzzFeedは2024年までに総収益の31%のコマース化を目指している。2020年は13%だった。2019年に断行した一連の解雇後、同社はビジネスの多様化を図り、アフィリエイトリンク(読者が推薦リスト経由で商品を購入すると、手数料が入る)、ライセンシング、商品開発(テイスティの調理器具ほか)などに手を広げた。
同社広報は、今回の買収後のビジネスチーム再編について明言を避け、合意書の文言にしか触れなかった。同社のプレスリリースには、コンプレックスは「BuzzFeedのデータサイエンス、配給ネットワーク、コマースを含む種々の事業の恩恵を受けることになり、増収が期待される」と記されている。
2019年、Buzzfeedの全収益の41%を広告収入が、カスタムコンテンツ(広告主用のテイクオーバーやクイズ、動画、リストなど)が48%を占めた。2024年にはこれをそれぞれ44%と25%にすることを目指している。
今回の取引を発表した6月24日の記者会見におけるペレッティ氏の発言によれば、BuzzFeedはIPOを2020年初頭から検討していたが、コロナ禍が発生し、映画や旅行といった業界の広告主がキャンペーンを停止したことを受け、計画を保留していた。
890フィフス・アベニュー・パートナーズ・インクはテック、メディア、テレコムSPACであり、信託口座に2億8800万ドル(約320億円)の現金を保有する。今回の取引が成立した暁には、親会社の名称はBuzzFeed Inc.となる。
コンプレックスが提供するもの
コンプレックス・ネットワークスはコンプレックス、ファースト・ウィ・フィースト(First We Feast)、ピジョンズ&プレーンズ(Pigeons and Planes)、ソール・コレクター(Sole Collector)という、それぞれポップカルチャー、フード、音楽、ストリートファッションに特化したブランドや人気フェスのコンプレックスコン(ComplexCon)を有する。いずれのバーティカルも「BuzzFeedよりも多くの男性および多様なオーディエンス」を惹き付けていると、ペレティ氏は述べている。
テック情報に特化したニュースサイトインフォメーション(The Information)によれば、2019年、コンプレックス・ネットワークスの収益は約1億ドル(約110億円)だった。同社の事業収益に占める広告の割合は50%未満で、残りはコマース、ライセンシング、シンジケーション、イベント、クリエイティブサービスとなっている。
コンプレックス・ネットワークスの創業者でCEOのリッチ・アントニエロ氏は無任所CEOとなり、BuzzFeedおよびペレッティ氏の顧問役を2年間務める。アントニエロ氏は今後の買収について助言をしていくものと思われる。
コンプレックス・ネットワークスの現社長クリスチャン・ベスラー氏はCEOに、同社のオペレーション&コンテンツ部門GM兼EVPジャスティン・キリオン氏が社長にそれぞれ就任する。CFOのセリーヌ・ペロー=ジョンソン氏とCROのエドガー・ヘルンデス氏の役職については、明言されていない。
今回はおそらく、大量解雇はない
ペレッティ氏と890フィフス・アベニュー・パートナーズ・インクのエグゼクティブチェアマン、アダム・ロススタイン氏はいずれも、今回のBuzzFeedとコンプレックスの合併による大幅な人員削減を否定している。ちなみに、BuzzFeedは2020年11月、ベライゾンからハフポストを買収しており(金額は明らかにされていない)、2021年3月までに47人の米従業員を解雇するとともに、カナダ支社を閉鎖し、さらに23人を失業させた。
BuzzFeed編集部の労働組合は、今回の合併についてコメントを発表していない。コンプレックスには組合がない。
ペレッティ氏は先の記者会見において、今回は「違う」と語り、ハフポストに講じたコスト削減措置の理由として、当時はコロナ禍の最中であり、先行きが不透明だった点を挙げた。
「当時はコストを極めて慎重に管理していた」とペレッティ氏。「現在、弊社は好調を維持しており、そのなかで(中略)才能ある人材、それもほかとは異なる才能を持つ人材の必要性が非常に高まっており(中略)BuzzFeedとコンプレックスにはそうした才能のある人材が数多く揃っている」。そして、「コンプレックスのチームは今回の取引を大いに歓迎してくれるはずだ」と、氏は言い添えた。
「企業の合併とコストの大幅削減には、反動が付き物だ」とロススタイン氏。しかし「私にとってより迅速な売上増大を図ることは、コスト削減よりもはるかに興味深い」。
「ジョナ・ペレッティ氏と氏の会社が本当に解雇を考えていないのならば、それはつまり、この規模拡大によって、FacebookとGoogleという二大巨頭に対し、現況では不可能な形で広告での勝負ができると彼らが確信していることを意味する」と、ノースイースタン大学のジャーナリズム学部教授、ダン・ケネディ氏は断言する。
コロナ禍後、広告市場が持ち直しつつある現在、BuzzFeedには「成長を第一に考えられる余裕がある」と、ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)とインヴァース(Inverse)――前者はターナー(Turner)に、後者はBDGにそれぞれ買収されている――の創業者デヴィッド・ネメツ氏は分析する。ハフポストの場合と異なり、コンプレックス・ネットワークスは「大幅な改変をせずとも、自身よりも大きなBuzzFeedという組織に貢献できるという有利な立場にある。もっとも、逆に言えば、もしも広告業界が不況になれば、すべては白紙に戻る、ということでもある」。
BuzzFeedのM&A計画
ペレッティ氏とロススタイン氏はともに、今回の買収を皮切りに、BuzzFeedがデジタルメディア企業の合併の流れを牽引していく、という旨の発言をしている。ロススタイン氏に至っては、記者会見中、BuzzFeedを「M&Aマシン」とまで称した。「今後も買収を続ける」と、ペレッティ氏も断言している。
ペレッティ氏は、バイアコムCBS(ViacomCBS)といった企業の買収については即座に否定した一方、たとえばグループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)の獲得に関する質問には、明らかに異なる対応を見せていた。ただし、ペレッティ氏もロススタイン氏も、獲得に興味のある具体的な企業名については、明言を避けている。
報道によれば、BDG、ヴォックス・メディア(Vox Media)、バイス・メディア(Vice Media)といったほかのデジタルパブリッシャー勢も同じく、SPACを介した上場を検討している。たとえばグループ・ナインは、ほかのデジタルメディア企業との合併を念頭に、2020年12月にSPACを設立した。実際、昨年1年間だけで、過去10年分を上回る数のSPAC IPOが行われている。
「BuzzFeedやほかの大手デジタルメディア企業がSPACを通じて上場すれば、業界内にさらなる合併が起きるのは必至だ」とネメツ氏は指摘する。「それら新たに上場するデジタルメディア企業は皆、なおいっそうの成長を追求せざるを得なくなる。そして、そのためのもっとも確実な方法は、新たなメディアという補完資産の獲得によるものとなる」。
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)