[ DIGIDAY+ 限定記事 ]BuzzFeedなどの大手デジタルパブリッシャーが、複数の大手ソーシャルプラットフォームで配信される動画広告を、自社でまとめて販売できるようになったと、広告主への売り込みを活発化させている。そのため、広告主がブランドセーフティの問題に悩まされることはないと、彼らは宣伝している。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]BuzzFeedやグループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)などの大手デジタルパブリッシャーが、新たな宣伝文句で広告主への売り込みを活発化させている。その売り文句とは、複数の大手ソーシャルプラットフォームで配信される動画広告を、自社でまとめて販売できるようになったことだ。そのため、広告主がブランドセーフティの問題に悩まされることはないと、彼らは宣伝している。
BuzzFeedは2018年8月から、Facebookのプレロール広告とミッドロール広告のインベントリー(在庫)を自社で販売する権利を獲得した。おかげで、複数の配信先(Facebook、YouTube、Twitter、Snapchat[スナップチャット])を組み合わせることができる広告製品の販売が可能になった。BuzzFeedで最高売上責任者(CRO)を務めるリー・ブラウン氏によれば、同社はこのクロスプラットフォーム広告製品を3カ月前から販売しているという。
同じくグループ・ナイン・メディアも、複数のプラットフォームを組み合わせたインベントリーを自社で販売できる製品を宣伝しはじめた。同社はいま、この新製品に最優先で取り組んでいると、プレジデントのクリスタ・シャロン氏は述べている。
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最低料金は設定してない
どちらのパブリッシャーも、この数カ月間で一定の成功を収めたようだ。BuzzFeedのブラウン氏によれば、同社はこの製品のおかげで、すでに「数千万」ドル(「数十億」円)の広告収入が得られたという。また、2019年にはこの製品による広告収入が「5000万〜1億」ドル(「55億〜110億」円)に達すると見込んでいる。一方、グループ・ナイン・メディアは、この広告製品の年間広告収益に占める割合が「2桁近く」になったと広報担当者が述べている。
いまのところ、BuzzFeedもグループ・ナイン・メディアもこのインベントリーで最低料金を設定していない。「我々はそのような条件を設けておらず、設ける計画もない」とブラウン氏は話す。「あらゆるマーケターと連携し、あらゆる規模の予算に対応できるようにしたいのだ。したがって、1万5000ドル(約166万円)の取引になることもあれば、20万ドル(約2225万円)、あるいは200万ドル(約2.2億円)の取引になることもある」。
最低料金がないからといって、安全な広告プレースメントが安価だとは限らない。たとえば、グループ・ナイン・メディアの料金設定は、パフォーマンスの高さで上位5%に入るYouTubeチャネルのインベントリー、Google Preferred(プリファード)に「きわめて近い」とシャロン氏はいう。また、ブランドや番組のスポンサーシップとプレースメント、それに細かいターゲティング設定も価格が上がる要因になり得ると、ブラウン氏とシャロン氏は口を揃える。
コスト「効果」は高められる
だが、複数のプラットフォームで毎月数十億回の動画ビューが得られれば、コスト「効果」を高められるはずだと、ブラウン氏はいう。たとえば、広告を配信するソーシャルチャネルの選択をBuzzFeedに任せれば、広告主のコストは下がるというわけだ。
「広告主がある特定の資産やプラットフォーム(のインベントリー)を購入しようとすれば、価格が上乗せされるのが普通だ」と、ブラウン氏はいう。「だが、広告の掲載時期や配信先の選択をパブリッシャーに任せれば、ブランドセーフティな環境でより効率的に大量購入できるようになると、我々は広告主に話している」。
YouTubeでは最近、子供の登場する動画に不適切なコメントが投稿されるというブランドセーフティの問題が起こった。これを受けて、YouTube(のインベントリー)を直接購入することへの関心が広告主のあいだで高まっていると、複数のパブリッシャーが報告している。
「直接取引」に対する需要
とはいえ、マインドシェア・ノースアメリカ(Mindshare North America)でデジタル投資担当ディレクターを務めるブリタニー・ロールハイザー氏は、クライアントのあいだでプラットフォームよりパブリッシャーとの直接取引を増やしたいという声が上がっているとはいい切れないと話す。また、マーケターがパブリッシャーとプラットフォームを二者択一の選択肢とみなしているわけでもないと指摘する。「パブリッシャーとプラットフォームのどちらと直接取引すべきかを判断する万能の方法があるとは思えない。結局、ビジネスの目的とチャネルの役割の話に立ち返ることになる」。
BuzzFeedやグループ・ナイン・メディアのような大手デジタルパブリッシャーは、「ブランデッドコンテンツをソーシャルで大規模に配信する」ことで利益を上げられる立場にある。また、「売上などビジネスの成果を高めるのに必要なリーチと効率性を提供している」と、ロールハイザー氏は指摘する。「したがって、我々が彼らに予算を注ぎ込みたいと考えるのも自然なことだ」。
全体的に見ると、オープンなソーシャルプラットフォームは、過激なコンテンツや安っぽい自作動画などで質が損なわれており、一部のブランドにとって広告を出したくない対象とみなされている。したがって、パブリッシャーにとっては、いまが広告主にブランドセーフティの話を持ちかける絶好のタイミングなのだ。
ブランドセーフティの確保
「マーケターは、プラットフォームが今後もこの状況を解決できないことに気づいている。そんななか、パブリッシャーは、これらのプラットフォームを組み合わせて(インベントリーを)購入できるという、より効果的で効率的な機会をマーケターに提供している。したがって、このようなブランドセーフティな方法での購入を希望するマーケターがますます増えるというのが私の考えだ」と、ブラウン氏は話す。「(広告主は)自社ブランドの広告がアダルトコンテンツや爆弾の作り方を説明した動画の近くに表示されるような状況を望んでいない。したがって、プラットフォームが完全なブランドセーフティを確約できないなら、広告主の意思決定にますます大きな影響が及ぶだろう」。
「プラットフォームでは、不確実な環境でオーディエンスの購入が行われている」とシャロン氏はいう。「私が重視しているブランドセーフティの確保は、きわめて重要なことなのだ」。
ただし、YouTubeなどのオープンプラットフォームが本質的に安全でないとパブリッシャーが指摘するのは、いまにはじまったことではない。さまざまなメディア企業が、何年も前から自社のコンテンツは安全だと訴えている。プラットフォームが非難にさらされている時期は特にそうだ。
YouTubeに戻ってくる
少なくともBuzzFeedやグループ・ナイン・メディアにとって、いまの状況が過去と異なるのは、ごく一部のパブリッシャーが複数の大手プラットフォームを組み合わせて自社のインベントリーを販売できるようになったことだ(Facebookは2018年下半期、ごく限られたパブリッシャーに自社のインベントリーを販売できる権利を与えた)。しかも、BuzzFeedとグループ・ナイン・メディアの両社は、複数のプラットフォームで大きな規模を獲得している。プラットフォーム分析によれば、BuzzFeedの月間動画視聴数は平均53億件、グループ・ナイン・メディアは平均50億件だ。
だが結局、マーケターはプラットフォームのブランドセーフティに不満を訴えるだけで、予算の使い方を変えようとする人はほとんどいない。現時点でYouTubeから広告を引き上げているマーケターも、ほとぼりが冷めれば戻ってくるのだ。
「自社製品の売り込みでほかのパブリッシャーやプラットフォームの問題点を指摘したり、自分たちのほうが得意な分野があるといったりするパブリッシャーがあるかといえば、答えはイエスだ。だが、これは売り込むための戦略に過ぎない」と、ロールハイザー氏はいう。「デジタルメディアにとって競争はきわめて厳しい状況にあり、パブリッシャーは集団から抜け出すための新しいやり方を常に探し求めているのだ」。
マーケターたちの考え方
ブラウン氏とシャロン氏はどちらも、新しい広告製品やブランドセーフティの売り込みが功を奏して直接取引を勝ち取った広告主の名前を挙げなかった。だが、BuzzFeedの広報担当者によれば、同社の勝率は全体的に向上しているという。これには、複数の数百万ドル規模の契約が含まれるほか、少なくとも1社のクライアントはこの2年間取引がなかった企業だそうだ。グループ・ナイン・メディアの広報担当者は、契約を勝ち取った企業に、大手金融サービスブランドや「フォーチュン500」に名を連ねる保険会社が含まれていると述べている。シャロン氏によれば、グループ・ナイン・メディアは今後もこの製品を積極的に売り込む予定で、いまも大手広告エージェンシーの持株会社と直販製品の話を進めているという。
「かなりの数のマーケターが、自分たちにはさまざまなオプションがあり、数カ月単位で同じような売り込みを繰り返す必要はないという意見に同調するはずだ」と、シャロン氏はいう。「彼らは、毎度同じ反応しか得られないという事態を避けることができる」。
Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)
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