「一般データ保護規則」(GDPR)には、曖昧な部分がまだたくさん残っているのだ。そこについては、イギリスの情報コミッショナーオフィス(ICO)が詳細やガイダンスの公開を進めているが、断片的でしかない。業界のマーケティングサイドからは、すでに懸念の声が上がっている。
2018年5月に施行される 欧州の「一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)に向けた準備で、各社は、社内の委員会や戦略会議での活動を慌ただしく行っている。新規則の細かな内容の説明に法務部が引っ張り出されるなか、パブリッシャー幹部たちは、ほかの幹部はどうしているかと首を伸ばして見回している。
しかし、具体的な行動計画の策定は簡単ではない。規則には、解釈に幅のある部分がまだたくさん残っているのだ。曖昧な部分については、イギリスの情報コミッショナーオフィス(ICO)が詳細やガイダンスの公開を進めているが、断片的でしかない。一部のパブリッシャーとアドテク企業は、規則がどのように実施されるのか詳細を待ちながら、宙ぶらりんでは行動計画にゴーサインを出せないと考えている。業界のマーケティングサイドからは、すでに懸念の声が上がっている。
ある全国紙のパブリッシャーは匿名を条件に、「許可書がどうなるかわからないので、次の(ICO)ガイダンスが出るまでは戦略を練るのがかなり難しい」と語った。「GoogleやFacebookのような会社はコンプライアンスのPRを大々的に進めているが、我々はまだ内容自体を把握できていない。ユーザー基盤を失うことなく(消費者の同意の)許可書を入手するよう、取り組む必要がある」。
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「みんなが同じ運命」
ICOは最近、ユーザーのプロファイリングのような分野や同意が必要になる条件に関する追加ガイダンスを公開した。しかし、同意が必要になるほかの分野や、新規則で許容されるデータ処理の種類などについては、追加のガイダンスをまだ出していない。最後のガイダンスは12月になると見られており、だとすると実装の時間はほとんどないことになる。
だからといって、パブリッシャー側は手をこまねいているわけではない。ニュースUK(News UK)の最高データプライバシー責任者ロバート・ストリーター氏が、9月のルビコン・プロジェクト(The Rubicon Project)主催イベント「オートメーション(Automation)」で語ったように、ICOの追加ガイダンスをただ待っているのは最善策ではなく、進めるべきことはほかにもある。パブリッシャーは最高プライバシー責任者を任命しているところが多く、なかには同意についてユーザーに知らせる際に使うメッセージをすでに考えている企業もある。
「コンプライアンス計画を示す監査証跡があることを示せるのならば、それが中心になる」と、フォーブス・ヨーロッパ(Forbes Europe)の戦略パートナーシップ担当GMのチャールズ・ヤードレー氏は語る。「これについてはみんなが同じ運命だ」。
「不明点があまりに多い」
しかし一部では、GDPRは紛糾の原因になっている。コンプライアンスの責任が、ベンダーからパブリッシャーに回されるからだ。デジタル広告のサプライチェーンのなかにあるベンダーが、自ら消費者の同意を得ることなくパブリッシャーのデータを渡すと、そのパブリッシャーが責任を分担することになるため、これが争いの種になっている。その結果、一部のベンダーはあまり行動を起こしていない。パブリッシャーには、彼らが使っているサードパーティのために「修正」を行い、同意を組み込む責任があると考えているのだ。
「どのように解釈するべきなのか完全に把握しているところはないため、いまは混乱がかなり広がっている。不明なことがあまりに多い」と、別のパブリッシャー幹部は語った。
サプライチェーン全体でコンプライアンスを徹底するのは、対処が必要なひとつの要素にすぎない。パブリッシャーは、「ニュースのパーソナライズと引き換えに、データを使われることには同意したくない」という人たちに向けて、まったく違った技術インフラとデジタル製品を作らなければいけないというシナリオにも備えている。パーソナライズを減らした、よりオーソドックスなニュースサービスを打ち出すことが必要になるわけだ。
「他社との食い違いに懸念」
パブリッシャーたちは、規則に曖昧な点が残っているため、自社と同業他社の解釈が違ってしまうかもしれないという懸念を表明している。規則を厳格に解釈し、マーケティングをすべてオフにして、クッキーを一掃し、白紙の状態からやり直したうえで、ユーザーに丁寧に同意を依頼するところがあるかもしれない。一方で、自動的に同意を得て、そのうえでオプトアウトをしやすくする方法を模索するところがあるかもしれない。「解釈の余地が大きいため、自社と業界の方向が食い違うことになる可能性がある」と、あるパブリッシャー幹部は語った。
Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)
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