いまだファッション業界は、モデル体型に象徴される理想を追求しているところが多い。これを受けて。TikTokのインフルエンサーならぬ「フィット・フルエンサー」たちは、さまざまな服を着てみせる動画を配信するという、シンプルかつ訴求力の強い方法で、ファッション業界を変えようとしている。
Sサイズだけの服を提供している、ブランディ・メルビル(Brandy Melville)は、ワンサイズのラインナップでできるだけ多くの人に提供することを考えて作られたブランドだ。また、下着メーカー大手のビクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)は、多様なサイズをラインナップに取り入れることに手間取っている。さらに、多くのブランドが利用するモデルの体型は、いまだひとつだ。これを受けて、TikTokのインフルエンサーならぬ「フィット・フルエンサー」たちは、さまざまな服を着てみせる動画を配信するという、シンプルかつ訴求力の強い方法で、ファッション業界を変えようとしている。
#サイズじゃなくてスタイル
ニュージャージー州を拠点とするデニス・メルセデス氏(@denisemmercedes)は、TikTokのフォロワー数270万人、インスタグラムのフォロワー数110万人を持つボディ・ポジティブ・インフルエンサーだ。彼女が最初に情熱を持って取り組もうとしていたモデル業がうまく行かないと思ったとき、ソーシャルプラットフォームに活動の場を移した。「(モデルになるには)私は背が低すぎた」と彼女は述べる。
そしてインスタグラムで彼女が投稿するファッション・コンテンツや衣服スタイリング画像はすぐに、ファンを獲得した。
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「プラスサイズの女性は通常は着ないような、露出度の高い服を着て投稿した」と、メルセデス氏は述べた。「私と同じような体型、もしくは私よりも大きい女の子たちにとって、インスピレーションだと受け取ってもらえたのはそれが理由だと思う」 。
2019年11月にTikTokに移り、インスタグラムで行っていたスタイリング・コンテンツの動画版を制作したあと、彼女は2020年2月に写真家のマリア・キャステラーノス氏に動画シリーズのアイデアを持ちかけた(カステラーノ氏はプラスサイズではない)。彼らはまた、自分たちが着た姿を、ブランドの製品イメージと比較した。たとえば先週投稿された動画のなかでは、カステラーノス氏はエイソス(Asos)のドレスひとつをとって、(着用する)2人が「マネキンのように立ってるだけ」ならばフィットは完璧だと述べ、メルセデス氏は、このドレスを着て身をかがめると(ドレスがまくれ上がるため)「逮捕」されるだろう、と冗談を言っている。
彼女らが「#サイズじゃなくてスタイル(#stylenotsize)」と名付けたこのシリーズは人気を博した。このハッシュタグはその後、TikTokで2億2500万の再生回数を集めた。
「(私たちが見せたかったのは)サイズは違っても、同じものを着てふたりともとても素敵に見えるということ」とメルセデス氏は述べた。「自分を恥じたりしないこと、自分の生まれ持った身体で幸せであることのメッセージを広めてきた」 。
#普通の体型を普通にしよう
TikTokとインスタグラムの両方で90万人近いフォロワーを持つ、オハイオ州コロンバスのインフルエンサー、ミケイラ・”ミック”・ザゾン氏(@mikzazon) は「#普通の体型を普通にしよう(#normalizenralbodies:モデルのような体型ではなく一般人体型を普通のものとして捉えよう)」というムーブメントを起こし、その結果、ファンたちはあらゆる服装を着た自分たちの身体を褒め称え、何十万ものソーシャルメディアへの投稿につながった。しかし、ザゾン氏が2017年にソーシャルメディアに投稿し始めたとき、ボディ・ポジティビティは念頭にはなかった。
「私は減量コーチであり、フィットネスのインフルエンサーであり、ボディパワービルダーであり、パワーリフターだった」と彼女は言った。「私は間違ったことばかりにエネルギーを注いでいた」。
自ら「どん底」と表現する人生体験を経験したあと、ザゾン氏は摂食障害回復治療プログラムに入り、そのプロセスのすべてをフォロワーと共有した。彼女はまた、今では誤った情報だったと認識している過去のダイエットや減量の秘訣を訂正した。
「#普通の体型を普通にしよう が始まった頃は、セラピーや栄養士との面会を終えたばかりだった。そこでは組み合わせて単語を作るアルファベットのボードをくれて、単語を作り写真を撮るというアクティビティをした。ボードを見ながら、医者からの情報を頭のなかですべて整理していたら、『普通の体を普通にする』という言葉が思い浮かんだ。私は(ハッシュタグを付けて)ビキニで写真を撮ったが、それはVSCO、Twitter、インスタグラムでバイラルになった」。
インスタグラムでは、20万件近くの投稿でこのハッシュタグが使われている。「(摂食障害の)回復に取り組む女性たちが、いろんな服を着ている姿がたくさんある」と彼女は言った。
ブランドは徐々に、より広い範囲の体型向けにサイズや製品イメージを広げることで、この分野で改善しようとしている。アメリカン・イーグル(American Eagle)のようなファストファッション・ブランドや、ダイアン・フォン・ファーステンバーグ(Diane Von Furstenberg)のようなブティック系ブランドも、より幅広いサイズへの投資を開始し、より多くのサイズのモデルをキャンペーンで売り出している。
「2016年にスタートしたときは、買えるブランドはいくつかしかなかった」とメルセデス氏は言う。「2021年になった今では、ほとんどどこでも買い物ができるように感じる」と彼女は述べた。
変化を見せ始めたブランドたち
メルセデス氏とザゾン氏は、自らが(ボディ・ポジティビティの観点から)正しいことを行っていると考えるファッションブランドとの数多くのパートナーシップに参加している。これにはサマーソルト(Summersalt)、エアリー(Aerie)、アドアミー(AdoreMe)が含まれる。ザゾン氏によると、「太った人々を嫌悪している」ブランドとして非難を浴びた、2000年代前半のショッピングモールの主要ブランド、アバクロンビー(Abercrombie)でさえ、ザゾン氏がさまざまな体型を含めるよう慎重にガイダンスをし、変化を見せ始めているという。
「(アバクロンビーと)ここ1年半で何度も提携したのは、彼らが率先して過ちから学んできたからだ」とザゾン氏は語った。「かつて「(アバクロンビー)の服に合うのは、この体型の、特定のサイズのかっこいい子だけで、他の人間は(アバクロンビーを着なくて)いい」 と彼らは言っていた。(それと比べると)私が提携をしている今は、経営もモラルもまったく違う会社となっており、彼らは私から学んでいる。彼らは失敗から学んでいる」。
しかし、これらのブランドも完璧ではない。アバクロンビーの服のなかにはXLサイズまでしかないものもあり、ザゾン氏はこれを「容認できない」としているが、その成長は有望だ。ザゾン氏もメルセデス氏も、こうした変化はソーシャルメディア、インフルエンサーと一般消費者からの、よりインクルーシブであること(包括性)への要望によるものだとしている。
「(ブランド)の誤った行為は指摘・批判しないといけない。ブランドはそうやって学ぶからだ」とザゾン氏は言う。「私はそうして学んだ。私は(摂食障害から)回復途中にあったとき、多くの人からの指摘を受け、そこから学び、誤りを認めた。キャンセルする方向ではなく、(指摘・批判することで)学ぶ機会を与えているのだ」。
メルセデス氏もこれに同意し、「動画や写真を投稿するとき、我々は(ブランドに対してこれらの基準を)満たすことを要求しているようなものだ。ブランドはようやく我々の声に耳を傾けている。彼らが今やっていることを始めた理由は(指摘や批判に耳を傾けた)からだ」と述べた。
[原文:‘Calling brands out’: How TikTok’s fashion ‘fit-fluencers’ are forwarding size inclusivity]
MAILE MCCANN(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)