動画コンテンツの需要が高まるなか、アメリカの人気メディア「Vox.com」「BuzzFeed」は、どのような動画を作っているのかを、ブログ「メディアの輪郭」の著者・佐藤慶一氏が分析。デバイスを問わず動画を閲覧できる時代に突入して、いままでのネットカルチャーの文脈とは異なる内容が注目されているという。
この記事は、メディア業界に一目置かれる、海外メディア情報専門ブログ「メディアの輪郭」の著者で、講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一さんによる寄稿です。
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動画を閲覧する場所として、いま急成長しているのはソーシャルメディアやメッセージアプリです。Facebookは2015年4月、動画閲覧数が40億回/日を超えたと発表。1月には30億回/日だったことを考えると、3カ月で10億回/日も増えたのは驚異的といえるでしょう。
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そのFacebookを追随するのがメッセージアプリ「Snapchat」です。同年9月には、動画閲覧数が40億回/日を突破したと報じられました。同年7月には30億回/日だったので、こちらはFacebook以上の伸びとなっています。
このようにプラットフォームにおける動画閲覧行動が活況であるなか、メディア側はどうなっているのでしょうか。Vox MediaとBuzzFeedについて見ていきます。
動画✕グラフィックを追求する「Vox.com」
Vox Mediaはニュース解説メディア「Vox.com」やテックメディア「The Verge」「Re/code」、スポーツメディア「SB Nation」など、分野に特化した8つのメディアを運営する新興企業。2014年12月に米ベンチャーキャピタル、ジェネラル・アトランティックから4650万ドルの大型調達を果たし、2015年8月には巨大メディア企業「NBCユニバーサル」から2億ドルの投資を受けたことも記憶に新しいです。
Vox Mediaは、2011年から動画クリエイターを起用した「Vox スタジオ」を開設しているほか、2015年3月にはセレブなど著名人を起用してブランド動画を製作する「Vox エンターテイメント」を立ち上げています。大手タレント事務所ウィリアムス・モリス・エンデバーや製作会社マジカル・エルビスとパートナーシップを結び、動画を製作していくというものです。
この動きについては、食や住まい、スポーツ、ニュースなどVox Mediaの各分野に集まる読者に動画を提供できることが強みとして考えられています。ライフスタイル寄りのメディアではストーリーもの、テックメディアではサービスレビューなど分野によって異なるアプローチが特徴です。
なかでも印象的なのは、ニュース解説メディア「Vox.com」の動画です。たとえば、「銃規制はいかにして自殺を防ぐことができるか」という動画や、オバマ大統領へのインタビュー動画を見てみると、効果的にグラフィックやアニメーションが用いられており、視覚的にニュースが理解できるようになっています。
Vox Mediaは各分野で多くの動画を製作するだけでなく、「動画✕グラフィック」をひとつの特徴として、「Vox.com」のアイデンティティを確立しようとしているのでしょう。「Vox.com」の特色のひとつ、ニュース解説をカード形式で紹介する機能に加わる、新しい強みとなりそうです。
ネコを卒業して「食」に走る「BuzzFeed」
次に取り上げるのはBuzzFeedです。2014年8月にアメリカのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツなどから5000万ドル調達し、動画部門「Buzzfeedモーションピクチャー」を開設。また、Vox Mediaと同じように、2015年8月には巨大メディア企業「NBCユニバーサル」から2億ドルの投資を受けています(BuzzFeed とNBCユニバーサルとは、オリンピックに関するプロジェクトを準備中)。
動画への投資もあり、いまでは動画閲覧数が約20億回/月を超え、7月のデータでは「BuzzFeed Video」と「BuzzFeed Food」がチャンネル規模として1位と2位に君臨しています。
ほかのメディアを含めて、同期間においてネットで閲覧された、もっとも閲覧数が多い動画のトップ20のうち5つは、「BuzzFeed」のコンテンツだそう。さらには、その5つすべてが「食」に関する動画となっています。「BuzzFeed」といえばネコのリスト記事や動画(広告)がよくシェアされていた時期もありますが、いまでは「食」をはじめとするライフスタイル系の動画がよく閲覧されているのです。
たとえば、チョコレートとマシュマロをオーブンなどで表面を焦がし、グラハムクラッカーをつけて食べる「スモアディップ」の動画。これはFacebookで1億回再生、260万シェアを超えています。
S’mores Dip
Posted by BuzzFeed Food on 2015年6月3日
「BuzzFeed」の記事の分類には、いくつものカテゴリーが存在します。なかでも主軸となっているのが、「バズ」、「ライフ」、「ニュース」の3つ。特に「BuzzFeed Food」が圧倒的でしょう。これまでWebカルチャーを発信するバズのイメージが強かった「BuzzFeed」が「DIY」や「食」、「健康」などにバイラルへの将来性を見出していること、それらのカテゴリーが読者や視聴者から人気であることはとても興味深いと思います。
動画部門がない時代には数名で動画を製作していた「BuzzFeed」もいまでは、 200名以上の体制でマイクロコンテンツチームや「BuzzFeed Video」チームが1週間に50〜100以上の動画をさまざまなプラットフォームにアップしています。一方で、「BuzzFeed」の本サイトにおける動画閲覧はたった5%というのですから、分散型の戦略をますます推し進めていくのは不思議ではありません。
特にFacebook経由のトラフィックが半数を占める「BuzzFeed」は、クオリティが高く、目を惹く長短の動画を発信する「BuzzFeed Food」を主力としていくでしょう。ネコではなく「食」に注目することで、「BuzzFeed」の新しい価値や楽しみが見えてくると思います。
整備が待たれる動画広告の評価方法
前回の記事では、それぞれのメディアが模索する指標について書きました。これは動画広告についても同様のことが起きています。米DIGIDAYの記事によると、スナップチャットの「Discover」と「Live Stories」に掲載される動画広告において、モニター画面に動画枠が表示されさえすれば、再生時間がゼロ秒でも再生数にカウントされるとしています。
ここからわかるのは、プラットフォームによってビューアビリティに関する定義が異なるということ。たとえば、Twitterはモニター画面に3秒以上、動画枠の面積が100%表示されていること。Facebookはモニター画面に3秒以上、動画枠の面積が50%以上表示されていることが基準となっています。
タテ型という新しいフォーマットで、若者にリーチできるとしても、再生時間ゼロ秒でもカウントされているなら、ブランド側にとっては悩ましいところでしょう。サイトにおけるページビューと同様に、動画においても再生回数が目に付きやすいですが、これからは視聴時間やブランドや広告の想起率などがより重要視されていくと思います。メディアとプラットフォームの力関係が急激に変わるなか、どちらの動向も追っていきたいですね。
(佐藤慶一)
Image via BuzzFeed Life