バイラルメディア「BuzzFeed」のデータドリブンな運用方法を象徴する、独自開発の解析ツール「Pound」は、シェアのプロセスに光を当て、ユーザー行動に深く入り込む。その解析結果から、「拡散の構造」「各プラットフォームの拡散における役割の違い」「ネイティブアドの拡散のされ方」について、3つの結論が導き出されたという。
ソーシャルメディア内のユーザー行動や細分化されたグループを解析し、世界的に拡散する記事を量産してきたアメリカのバイラルメディア「BuzzFeed」。そのノウハウに磨きをかける新技術として、独自に開発した解析ツール「Pound(ネットワーク拡散の理解と最適化の手段)」を自社の「Tech Blog」で2015年4月に紹介している。
2015年秋にYahoo! JAPANとの合弁事業で、満を持して日本展開する「BuzzFeed」。あらためて、その屋台骨を支えるデータドリブンな運用方法を象徴する、この新技術「Pound」について、DIGIDAY[日本版]では着目したい。
ユーザー行動に深く入り込む解析ツール「Pound」
開発を行ったのは「BuzzFeed」の発行人ダオ・グエン氏と、エンジニアのアンドリュー&アダム・ケラハー兄弟。グエン氏は、「BuzzFeed」のトラフィックを2年で2倍に引き上げた功績のため、2015年1月に同社のパブリッシャー(発行人)に昇格した、いわゆるグロースハッカーだ。
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高度アクセス解析技術であるUTMコードを利用したデータ解析が可能になった「Pound」。ソーシャル拡散の結果としてのシェア数やビュー数を解析するのではなく、その前後のプロセスに光を当て、ユーザー行動に深く入り込む解析ツールだ。
「Pound」を導入した「BuzzFeed」は、創業以来、絶えず収集してきたコンテンツ最適化のためのデータ量よりも多量の「Pound」データを、たった1カ月で蓄積。それから3つの結論に辿り着いたという。
1. 拡散の構造は、森のような形をしている
■ ひとつ目の結論は、シェアの構造について。拡散の状況を把握するために、グエン氏たちはシェアに至るまでの経路と、シェアに影響されている人々の「つながり」に着目した。それまでシェアの「つながり」は、個々のサービスごとにシェアされる、一本の樹木のような構造をしていると想定されていたが(左)、実際にはそれぞれのサービスが有機的に絡み合った、森林のような形をしている(右)、と主張する。つまり極めて複雑なのだ。
森のなかで木々は、それぞれが異なるものようにみえる。太いもの(多くの下流への節を持つ)、細いもの、深いもの (連続的な情報伝達を繰り返す)、浅いものいろいろあるのだ。なかには他のネットワークに伝播をもたらすものもあれば、そうでないものもある。森と木々の構造は、それぞれの投稿がどう拡散するかを教えてくれた。
(BuzzFeed「Introducing Pound: Process for Optimizing and Understanding Network Diffusion」・翻訳:DIGIDAY[日本版]編集部)
2. FacebookとTwitter、それぞれ拡散の役割は違う
ふたつ目の結論としては、ソーシャルネットワークは情報伝達のあり方で評価されるべきだと主張している。グエン氏が例に上げたのは、FacebookとTwitterの拡散における役割の違いだ。
http://www.buzzfeed.com/daozers/introducing-pound-process-for-optimizing-and-understanding-n
Facebook投稿起点の拡散ネットワーク図:濃い青=Facebook、薄い青=Twitter、白=ブログ、ニュースサイトなどソーシャル外
「シェア」という結果のみに注目したら、Facebookが他のソーシャルに数で勝る。世界的ヒットとなり日本でも話題になった「BuzzFeed」の記事「What Colors Are This Dress?(この生地は何色に見える?)」を利用したリサーチでは、「BuzzFeed」公式Facebookアカウントの投稿からは、直接的に約860万ビューがもたらされた。しかし、上図はその拡散状況を示したネットワーク図で、Facebook投稿からの拡散は、Facebook内で完結されることが多く、他のサービスに飛び火することは少ないことがわかるという。
http://www.buzzfeed.com/daozers/introducing-pound-process-for-optimizing-and-understanding-n
Twitter投稿起点の拡散ネットワーク図:濃い青=Facebook、薄い青=Twitter、白=ブログ、ニュースサイトなどソーシャル外
これに対し、Twitterは異なる。公式Twitterアカウントの投稿から直接的にもたらされたのは、約97万5,000ビュー。しかし、上図のTwitter投稿を起点にした拡散ネットワーク図からは、Twitterには他のプラットフォームへ情報を伝播させる作用があることがわかるという。公式Twitterアカウント以外のツイートや、Twitter以外のSNSやニュースサイトなどを経由して、さらに98万7,000ビューがもたらされているのだ。
Twitter投稿起点の拡散ネットワーク図を立体的に示したGIF動画
このGIF画像は、Twitterクラスターをさらに立体的に分析したもの。シェアの波及を見ると、Twitterから他のサイトへ向かい、またTwitterに戻り、さらに別のサイトへ向かう、という飛び石的な拡散傾向が見られる。つまり、Facebookの拡散は排他的傾向があるのに対し、Twitterの拡散は各プラットフォーム間を飛び交う、まるでそのトレードマークの鳥のような動きが見られるのだ。
3. ネイティブアドも編集記事同様に拡散される
さらに3つ目の結論として、「スポンサードコンテンツ(ネイティブアド)は、一般的な編集記事と同様の拡散の仕方をすることを示した」と、グエンは記す。これは「BuzzFeed」の収益源であるネイティブアドの効果を立証する形になっている。
グエンは今後の「Pound」の活用方法も付記する。
- 直接の閲覧者だけでなく、その友人、フォロワーにも記事を提案する
- 記事のリーチを出稿前に予測する
- インフルエンサーの影響をフィルターにかけ、「平均的な人々」がいかに行動するかを知り、コンテンツ製作に活かす。
これらが可能ならば、パブリッシャーは極めて正確なターゲティングができ、広告収入なども洗練化できることになる。グエン氏は年内にさらなる調査と情報公開を目指すという。加えて、データ取得と調査をともに進める広告主も探している。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、有料会員制コミュニティ「LIFE MAKERS」(参考:ログミー)での講演で、「SNSに全部流しっ放しだけど、お金もデータもコンテンツもとりますよっていう、新しい手法をつくり出した。これこそが、実はバズフィードの新しいところなんですね」「これが、今のところ僕が捕捉している範囲で言うと、今のメディアのイノベーションの最先端であり、多分ここが本質なんじゃないかなっていうことだと思います」と評価した。
(吉田拓史)
(参考文献・サイト)
BuzzFeed「Introducing Pound: Process for Optimizing and Understanding Network Diffusion」
ログミ―「バズフィードの新技術『POUND』はメディアをどう変えるか―佐々木俊尚氏がテクノロジーの進化を解説」