ソーシャルで人々が会話しコミュニケーションのきっかけになる「シェア」を重視してきたBuzzfeed。同社CEOのジョナ・ペレッティ氏はDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、デジタルパブリッシャーが収益化を依然として課題とするのは、メディア業界のデジタル化が遅いことが一要因だと指摘。
Snapchatの流行、Facebookのアルゴリズムの変更、ライブ動画などデジタルパブリッシャー(媒体社)をめぐる環境の変化は著しい。ソーシャルで人々が会話しコミュニケーションのきっかけになる「シェア」を重視してきたBuzzfeed。
同社CEOのジョナ・ペレッティ氏は来日に際しDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、Snapchatのような閉鎖的なプラットフォーム内にも「人と人がつながる」傾向が存在しており、ユーザーがつながるためにコンテンツをシェアすることには変わりがないと語った。
ペレッティ氏はデジタルパブリッシャーが依然として収益化を最大の課題とするのは、メディア業界のデジタル化が遅いことが一要因だと指摘。デジタル広告がアッパーファネルで果たす役割が拡大すると語り、テレビ広告が担うブランディングの役割を、BuzzFeedのネイティブ広告がモバイルの中で担えると語った。米国で報道があるNBCUからの追加出資に関しては明言を避けた。
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――ミレニアル世代はソーシャルではなくSnapchatのような比較的閉鎖的なプラットフォームを好んでいる。以前のような大きなバイラルは期待できないかもしれない。「シェア」を重視する戦略に変更はあるか?
Snapchatはソーシャルによるコンテンツディストリビューションではないかもしれないし、人々が情報をシェアしたり、コンテンツを観る主要な方法ではない。ただし、コンテンツを好んだ人がスクリーンショットを撮っているという事実がある。それをたった2、3人にシェアしているが、これはコンテンツが人をつなげていることのシグナルだ。
バイラルではないが、人々がつながり、画像、動画などを生成しているというデータがあるのは、シェアに相当する価値があると考えている。
――独自の解析ツール「Pound」は、どうやってクロスプラットフォームの測定を行っているか?
「Pound」はさまざまなプラットフォームをまたいでどうBuzzFeedのコンテンツがシェアされているかを測ることができるツールだ。グローバルにPound採用を支援するチームをもっており、各国ごとに異なる支援をしている。
BuzzFeedのコンテンツの各プラットフォームでのシェアをPoundで測定。データビジュアライゼーションしたもの(Via Buzzfeed Tech blog)。
――プラットフォームは異なるルール、レギュレーションをもっているが、どうデータを取得しているか?
Snapchatではスクリーンショットやロイヤリティ、Facebookではシェア、視聴時間、YouTubeでは視聴回数と得られる指標は異なる。シグナルが何を意味しているのか知ることが重要だ。BuzzFeedのように大きなデジタルメディア企業はプラットフォームと関係を築き、そこでより多くのことができ、より多くを学ぶことができる。小さなメディア企業がそれをすることは難しい。
――BuzzFeedはNBCUから出資を受けており、広告主はNBCUとBuzzFeedによるクロススクリーンのキャンペーンを望むはずだ。
インターネットにはブランディング広告のチャンスがあると思う。測定が容易なため、ネット広告の初期では大半がダイレクトレスポンス型の広告だった。人々が何を買うべきを決める意思決定の仕方をみると、以前は雑誌や新聞、ブログを読み、考え、そしてリサーチをするために「ググる」。すると、Googleがブランドの販売全体への影響を測る上で「信頼」を獲得することになる。やはり簡単に測定できることを重視していた。
しかし、いまはより洗練されてきている。業界はファネルの全体に興味をもつようになった。さらにテレビにも課題が浮上が出てきている。テレビの前に座ってはいるが、手元のモバイルで何かを調べていて、テレビのブランディング広告に注意を払っていない。今後はネット広告がミッドファネル、トップファネルで果たす役割が増えるはずだ。
――昨年NBCUから2億ドルの出資を受けたが、さらに2億ドルの出資を受けるという報道がある。
我々は常にNBCUと一緒に何かできる機会を探しているが、いま明らかにできることはない。
――デジタル広告のなかで好ましい指標とは何か?
広告の種類による。我々はさまざまな広告商品をもっており、それはときにブランドリフトだったり、ときには購買意向だったりする。人々がエンゲージやシェアをすると、ブランド認知、ブランドリフト、購買意欲が上昇する。人々がファネルを降下したときは、マーケターは販売かダイレクトマーケティングの指標に注目するかもしれない。Tastyの場合は動画内にプロダクトプレイスメント(広告手法のひとつで商品名、企業名を作中に登場させる手法)を行うことがあるが、これは販売に焦点を合わせている。大抵の場合、ブランドリフトは販売を後押しする。だから重要な指標は広告の種類によるのだ。
Facebookへの「投資」やSnapchatの性質について語るジョナ・ペレッティ氏(撮影:中島未知代 )
――Facebookは常にアルゴリズムを変えている。彼らはいま、パブリッシャーやブランドの投稿よりも、友人の投稿に重点を置いている。
必ずしも彼らがパブリッシャーに重点を置いていないとは言えない。彼らは「シェア」を重視している。TastyやBuzzFeedのリスティクル(リスト記事)をシェアした場合、Facebookが価値があるとみなすものに当たる。Facebookページの投稿に対し、拡散力を与えていないことをあなたは指摘していると思う。Facebookページをライクしているが、投稿を誰もシェアしていなければ、パブリッシャーからの投稿を受け取ることは少ないと思う。しかし、友人がパブリッシャーの投稿をシェアするなら、それはFacebookの人と人をつなげるというミッションにフィットする。BuzzFeedのコンテンツはこの「つながり」に関係しており、Facebookによく適合し、補完している。
――一部の専門家はBuzzFeedがFacebookに過剰投資していると批判している。
Facebookは強力で重要なプラットフォームのひとつだ。Facebookに投資できて嬉しい。YouTubeやSnapchat、Twitterとも強固な関係をもっている。LINEや他のアメリカの外のプラットフォームとも深い関係を築きたいと望んでいる。メディア消費はそのようなプラットフォームに移行している。彼らとのパートナーシップは、以前結んでいた衛星やケーブルテレビ事業者などとの協力関係と同じように重要だと認識している。
――Facebookライブ動画はBuzzFeedにとって、どのようなプラットフォームか?
Facebookライブ動画はとても楽しく、新しいものだ。大ヒットしたライブ動画「輪ゴムを何本巻けば、スイカは破裂するのか」の興味深い点は、「同時」視聴でテレビと同レベルの視聴者数を集めたようだったことだ。通常インターネットは「非同時」のメディア消費に適している。しかし、スイカ動画は同時に消費された。デジタルテクノロジーは過去には存在しなかった新しい領域に移行し続けるということを目にしたのだ。同時に消費されるライブメディアが、メディアの新しい領域になったことを意味する。ただし、この領域が発達する準備が整うにはあと2〜3年かかることになるだろう。
累計の視聴数は1000万を超える「輪ゴムを何本巻けば、スイカは破裂するのか」動画。
――次の2〜3年でFacebookライブ動画はどうなると予測するか?
この新しい方法により、よりニッチなオーディエンスやグループ、サブカルチャーに焦点を合わせることになる。自分が好きで学校で取り組んでいるスポーツが、その国では余り人気がないせいでテレビ番組を見れなくとも、モバイルでライブで観ることができるようになる。アルゴリズムはあなたが興味があることを知るようになり、それをあなたに奨めるだろう。これは新しく、楽しいことになるだろう。
――誰もがライブ動画を作れるようになったので、ユーザー生成コンテンツ(UGC)がパブリッシャーのライバルになるのではないか?
UGCはしばしば、新しいディストリビューションテクノロジーが生まれた、初期段階でもっとも重要になる。しかし、BuzzFeedのような会社が、フルタイムでそれに取り組み、その媒介(Medium)について考え、それについて学び、どうすればUGCをより良いものにできるか試行錯誤するスタッフを雇う段階が来る。「スイカ動画」が大きな成功を収めたのは偶然ではない。誰もがスイカに輪ゴムを引っ掛けられる気になっただろう。どうやれば多くの人が反応する何かを生み出せるか、一日中考えているスマートな人たちがBuzzFeedにはいるのだ。
時が経てば、プロフェッショナルたちが、ほかの仕事をしているならばできないような方法で、素晴らしいものを生み出す方法を理解し始めるだろう。UGCは重要だが、必ずしも大きなことは普通の人から生み出されるわけではなく、セレブリティやメディア企業、オーディエンスを繋げる方法を理解した人がそれを成し遂げるだろう。
――なぜTastyは開始15カ月でここまで成功したのか?
日本企業の「カイゼン」のような手法で、生み出したものから学び、改善することを繰り返した。最初に製作したフード動画はちょっとした実験だったが、動画が人々を結びつけているのがわかった。やがて、我々はFacebookというプラットフォームとそのニュースフィードで、本当にうまくいくものを作ることができるようになった。
――なぜパブリッシャーはデジタルコンテンツを収益化することに苦しんでいるのか?
課題はメディア業界の変化が極めて遅いことだ。12年前、NYT(ニューヨーク・タイムズ)の時価総額はピークに達したが、デジタルの時代が来ることは明白だった。12年経ったいま、彼らの収益の大半は依然として紙から来るものだ。
テレビでも同様のことが言えるはずだ。少なくとも米国では、ディズニーとESPNがはじめて視聴者数を減らしたし、いくつかのテレビネットワークの視聴率もはじめての下落を経験している。しかし、いまだに向こう10年間テレビで収益を上げられる状態が続くだろう。エージェンシーは極めて保守的であり、予算の移転も極めて遅い。
メディア業界全体がシフトするには数年かかる。忍耐強く、取り組みと改善を続けていかなければならない。やがてデジタルが間違いなく広告の形態として効果的だと理解されるだろう。実際、FacebookとGoogleはそれが真実だと証明した。
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Written by 吉田拓史
Eyecatch photo by WIKIMEDIA COMMONS, Thumbnail photo by 中島未知代