BuzzFeed Japanは9月7日、医療・健康情報に特化した「BuzzFeed Japan Medical」をローンチ。「信頼でき、わかりやすく、患者の心に寄り添う記事」を配信していくという。そこで、デジタル空間における医療情報のあり方を模索しているのが、朽木誠一郎氏だ。同氏のよくある1日の様子を追った。
メディアの「信頼性」は、フェイクニュース/コピペメディア問題などを経て、多くのパブリッシャーや広告主にとって、いまもっとも関心の高いキーワードのひとつとなった。BuzzFeedは米版・日本版だけでなく、グローバルにこうした問題へ積極的に取り組み、事実の解明に大きく貢献している。
そんななか、BuzzFeed Japanは9月7日、医療・健康情報に特化した「BuzzFeed Japan Medical」をローンチした。読売新聞医療部や「yomiDr.(ヨミドクター)」編集長などを経験したベテラン医療記者・岩永直子氏を中心とする専任チームを設置し、「『信頼でき、わかりやすく、患者の心に寄り添う記事』を配信」していくと、同サイトの古田大輔編集長は声明で述べている。そして、岩永氏とともに、デジタル空間における医療情報のあり方を模索しているのが、朽木誠一郎氏だ。
実は「医学部出身」という経歴をもつ朽木氏は、BuzzFeed Japanにジョインする前からデジタルメディア業界で良く知られる著名ライターだった。そのキャリアのスタートは、Web制作会社が手がけるオウンドメディア。医学部卒業後、ほどなくして編集長に就任した。かつて100キロ以上もあった巨体をフルに活かして、ネット文脈にあった話題の記事を次々に制作していた。そのころ撮影された、フリー写真素材サービス「ぱくたそ」における同氏モデルぶりを見れば、当時の空気感がわかるだろう。
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しかし、次第に当時の活動に限界を感じるようになり、編集プロダクション・有限会社ノオトに入社。一からライター・編集者としての修行をはじめて、ライターとしては雑誌・ウェブの両方で、執筆を続けていた。
そんな朽木氏が、デジタル空間における医療情報の闇に深く切り込むキッカケになったが、2016年に発覚したDeNAのキュレーションメディア「Welq(ウェルク)」問題だ。この騒動の口火を切ったのが、朽木氏による「Yahoo!ニュース 個人」の記事「医療情報に関わるメディアは『覚悟』を – 問われる検索結果の信頼性」だったのである。
その後、デジタルメディアのみならず、レガシーメディアも巻き込んで、WelqをはじめとするDeNAパレット一連の問題が、次々と浮き彫りにされた。BuzzFeed Japanも、「DeNAの『WELQ』はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言」などのスクープ記事を連発し、さらなる事実の解明に貢献。そんななか、2017年4月の朽木氏のBuzzFeed Japan移籍、そして、この9月の「BuzzFeed Japan Medical」の立ち上げである。
「正直、想像もつかなかった」と、この経緯について朽木氏は、自身の心境を述べる。「いまこの立場にいられるのも、Webメディアの運営経験や、コンテンツ設計・ライティングの経験があったからこそだと思う。医学関係者、そしてデジタルメディア運営者の立場から問題を結びつけ、警鐘をならすことができた」。
「すべては、ひとつの線で繋がっている」。
本記事では、そんな朽木氏の最近の「平均的な」1日を紹介。読みやすさを重視して、一部編集を加えている。
08:15 am 朝起きたら、ニュースアプリで話題の記事をチェック。朝食には、毎朝プロテインを飲んでいる。ちなみに、最近ハマっているのは、プロテインを豆乳で割る飲み方。何で割るかは気分によって決める。
これは、BuzzFeed Japanに入社後、「ぽっちゃり」キャラを捨て、食事制限と運動に取り組んでいるため。健康(医療)記事を書く人間が、100キロ以上体重があって、「もっと健康になろう」という記事を書いても、説得力も信頼性もないと考え、ダイエットをはじめた。
09:30 am 出社。出社までは時間的余裕を持って、自宅から最寄駅の先、2駅分を歩いている。片道で3キロほど、20分から30分歩くことを、なるべく毎日の習慣に取り入れたいと考えている。
編集部の朝は、記者はそれぞれの取材に向かう場合も多く、いたりいなかったり、ゆるくはじまっていく印象。
10:00 am メールやメッセンジャー、Slackなどを、チェック・返信しているうちに、30分から1時間は経過している。
11:00 am 岩永さんと2人でミーティング。記事の進捗状況のすり合わせなどを行う。明確にミーティングの時間と決まっているわけではないけど、ディスカッションがあるときは、このタイミングで行う。

岩永氏と打ち合わせを行う朽木氏
最近取り上げた記事のテーマは、「ネット上の医療情報」や「健康本」など。健康本はいわゆる『長生きしたければ○○をしなさい』というような書籍は、どのように作られているかを、情報提供を呼びかけながら追いかけている。
または、「ダイエットでなんで便秘になるのか?」というような身近なテーマ・疑問をお医者さんに取材して、調べて記事にすることも。このときは、子ども向けの絵本から、出版社に許可をもらって画像を掲載して説明した。「ネットの医療情報」のような堅い話ばかりではなく、誰でも関心がある健康のテーマについても、調べて書いていきたい。
00:00 pm 昼食はチームで食べにいくこともあるけど、仕事の合間にサッとひとりで食べることが多い。同じビルにあるヤフーの社食はビュッフェスタイルの量り売りで、野菜をたくさん食べたいときに重宝している。肉と野菜を満載にしたランチをインスタグラムにアップすることもある。
1:00〜3:00 pm 午後は、どこかしらに取材に動いていることが多い。医療機関に行くこともあるし、患者さんに会いにいくこともある。
取材で心がけているのは、事前準備は当たり前として、「自分がわかった気になっている」思い込みを排除すること。取材では、相手が誰であれ、伝えたいことは何か、困っていることは何かを聞いたうえで、フラットに記事にすることを心がけている。
04:00〜07:00 pm オフィスに戻って記事執筆。表現については、広く一般の人に知ってもらいたいことは、わかりやすさや面白さを重視する。たとえば、以前公開したダイエット記事であれば、TOPのスライド式のビジュアルで一目瞭然で伝わる。もちろん、堅い話題については、それに相応しい文調も、当然ながら必要。
「どう書くのか」というのは、実は難しい。僕自身、医学教育を受けてここにいる。だからつい「わかっているつもりで」伝わらない言葉、難解な言葉で伝えようとしてしまう。知らず知らずのうちに、自分の見方が偏ってしまうことが何よりも怖い。
その意味で、自分にとって一番ありがたいのは、この分野で経験豊富な岩永さんの存在。彼女が一貫して言うのは「患者目線であること」。医療報道に関わってきた人のもとで働けるというのは、ほかでは得難い経験だと思っている。
07:00 pm 原稿を書き終わったらすぐに帰る。とくに予定がなければ終業後、1〜2時間は運動に当てたい。
08:00〜10:00 pm 実は、ダイエットの次は社会人アスリートをめざしている。大学卒業まで12年間、陸上をやっていて、種目は砲丸投げと円盤投げ。最近、社会人になってはじめての陸上大会に出場した。都内の陸上競技場には、夜9時頃までは一般開放されているところがあるし、職場の近くの東京体育館の陸上競技場は、サイズは小さいけれど夜11時まで利用できる。自分自身、ダイエットには何度も挫折してきた。なので、目標があって日常に運動が習慣として組み込まれると、健康によい生活習慣を続けていきやすいと感じる。
11:00 pm 夕食は帰宅後、この時間から。健康的にはこの時間の食事は望ましくないけど、現実的にこの時間にしか食べられない。夕食は、飲み会などの約束がなければ自宅で食べることが多い。最近、自炊をするようになった。
〜02:00 am 夕食後は医学の勉強をしてから就寝。1本の記事執筆は当然ながら、取材だけで終わることはない。著者インタビューの際に著書を読むように、医療関係者を取材するときは論文を読んだり、反対の議論があれば、その論文も読んだりして、全体像をある程度理解しないといけない。そうしないと、偏った情報を発信してしまうおそれがある。そのためには、いつでも勉強をし続けないといけない。
2時頃まで勉強できたときは、充実感を持って眠りにつける。実際は疲れているときは途中で寝てしまうこともあるけど、運動と同様に、勉強し続けることを習慣化していきたい。目標を立てて、そこに向かって、一つひとつ、積み重ねて達成していくのが好きだから。
Written by 阿部欽一
Image courtesy of BuzzFeed Japan