[ DIGIDAY+ 限定記事 ]サードパーティCookieの命運が尽きようとしているいま、Business Insider(ビジネスインサイダー)の親会社であるインサイダー(Insider Inc.)は、ユーザーの関心と行動に基づく広告ターゲティングを広告主に提供する、新たな方法を開発した。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]サードパーティCookieの命運が尽きようとしているいま、インサイダー(Insider Inc.)は、ユーザーの関心と行動に基づく広告ターゲティングを広告主に提供する、新たな方法を開発した。
Business Insider(ビジネスインサイダー)の親会社インサイダーは、ファーストパーティデータを紐付けした数億の読者IDを作成した。これにより、個人の特定はできないものの、読者の行動、関心、意図に関する踏み込んだインサイトが得られ、効果的なターゲティングセグメントを作り出し、マーケターに提供できるようになった。この方法で、同社はEUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)や、来るべきカリフォルニア消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:以下、CCPA)など、データプライバシー規則を確実に遵守する。一方で、AppleがサードパーティCookieのブロックを導入したことで失われた、Safariブラウザのオーディエンスを収益化する手段を、同社が取り戻すことにもつながる。サードパーティCookieがブロックされたブラウザでは、パブリッシャーは概して大幅な売上減少を経験している。しかし、この改革のおかげで、インサイダーのSafariからの収益は平均して上昇していると、インサイダーの最高売上責任者(CRO)、ピート・スパンド氏はいう。なお、彼は具体的な数値への言及を避けた。
コムスコア(Comscore)によれば、インサイダーの今年8月の月間ユニークユーザー数は8500万人。グローバルトラフィックの約85%がモバイルトラフィックであるため、Apple iOSを搭載したデバイスからのSafariブラウザを使ったアクセスがかなりの割合を占めるはずだが、正確なシェアは公表されていない。サードパーティCookieは、これまでずっとモバイルではうまく機能しなかったため、モバイルトラフィックからいかにして効果的に意味とインサイトを引き出すかは、長年に渡って重要課題だった。
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パーミューティブとの提携
1年前、同社はファーストパーティデータを利用したデータ管理プラットフォーム、パーミューティブ(Permutive)との提携を開始。同サービスが発行する永続的IDは、唯一無二で複製されない識別子であり、ここからデスクトップ、モバイル、アプリ内といった異なるデバイス間の個人の行動を統合した情報が得られる。そして、個々のユーザーがBusiness Insiderのサイト上で示した行動をもとに、ファーストパーティデータがIDに紐付けされる。
その後、インサイダーはファーストパーティデータを利用して、クライアントに向けた新たなターゲティングオプション(強化型コンテクスチュアルターゲティングなど)を提供する。個人データの不正利用のリスクを冒したくない企業は、これらを安全策と見ている。たとえば、あるユーザーが定期的にサイトを訪れて株式市況を読み、活発な個人投資家であることを示唆する行動を取っているなら、インサイダーはそのIDをあるセグメントに分類し、マーケターはこの人物が読んでいるサイト上の記事をもとにターゲティングを実行できる。また、インサイダーは読者のサイト上の行動もモニターしており、どの記事を読んだか、どのくらいの間隔で再訪するかなどを記録して、ユーザーの習慣の把握につとめている。
この取り組みが、プライベートマーケットプレイスやプログラマティックギャランティードなどのプログラマティックダイレクトを通じた、プライベートプログラマティック広告取引を望む広告主を大きく引き寄せる結果をもたらしたと、スパンデ氏は語る。
「我々は、これまで盲目だったメディアバイにインサイトを付加して提供している」と、同氏はいう。「大量のモバイルインプレッションが新たにターゲティングの対象になったことで、データを提供できるオーディエンスは大幅に増加した」。
「ユニークな関係を結びたい」
スパンデ氏によれば、取引数と取引あたりに購入される広告の量は、いずれも数十から、場合によっては100%以上の増加を見せているというが、彼は具体的な数値は明かさなかった。
プログラマティックや広告掲載申込を通じて、すでに定期的に大金を投じている大手広告主に対して、インサイダーはクリエイティブがターゲット層にどう響いたかや、動画広告をスキップしたかどうか、誰が広告に反応しているか、サイト上の行動に基づく読者の関心は何か(たとえば、新しいサムスン[Samsung]のスマートフォンのレビューをiPhoneで読んだかどうか)といった、インサイトのフィードバックを行う。こうした情報は、新たな顧客の獲得につながる、ブランドにとって貴重なものだ。
「我々は広告主と、オープンマーケットプレイスで発生するような関係ではなく、ユニークな関係を結びたいと考えている」と、スパンデ氏はいう。「我々は、単なるCookie付きオーディエンスの提供者としてではなく、実際に上げた成果に基づいて評価してもらいたいと考えている。ファーストパーティデータは、こうした直接的関係の構築の起爆剤だ。我々はクライアントに、『干し草のなかの針』をたくさん見つけてもらおうとしている」。
スケールがものをいう世界
ここではスケールがものをいう。インサイダーはフリーミアムモデルを採用しており、一部の記事はBusiness Insiderプライムのメンバーだけが閲覧できる。通常、ファーストパーティデータは消費者が提供を許可した情報だけであり、フリーログインデータのサブスクリプションや、ニュースレター購読者リストを通じて得られる。そのため、ID発行に関しては否応なくスケールの問題がつきまとう。しかし、Business Insiderは読者IDを作成し、それをファーストパーティデータと対応させる方法をとっていて、これは同社のファーストパーティベースのDMPの様式のためだ。
「我々はブラウザがパブリッシャーに提供する、ファーストパーティデータ用の保存容量を利用した永続的IDを発行している。通常はファーストパーティCookieやローカルストレージに利用される部分だ」と、パーミューティブのCEO、ジョー・ルート氏は説明する。「パーミューティブのアイデンティティグラフを介して、これらをサブスクリプション、ログイン、ニュースレターリンクと結びつける」。
今後は、サブスクリプションデータから得られたファーストパーティデータも加えて、新たなターゲティングオプションを提供する予定だと、スパンデ氏はいう。
Cookieの死、あるいは大幅な弱体化
サードパーティCookieがモバイル広告のターゲティングや効果測定に失敗してきたことは、長年に渡って懸案事項だった。しかし、ここ数年でパブリッシャーのトラフィックが劇的にモバイルへと移行しているにもかかわらず、彼らが緊急対策へと動いた理由は、もっと最近になって出現した脅威にある。つまり、GDPRやCCPAといったデータ保護規則と規制当局からのプレッシャー、そして各ブラウザが打ち出したアンチトラッキングの姿勢により、AppleのSafariやMozilla(モジラ)のFirefox(ファイヤーフォックス)におけるオーディエンスインベントリー(在庫)の大部分が不可視化されたことだ。
こうした理由で、パブリッシャーはファーストパーティデータ戦略を急ピッチで推進している。Cookieの死、あるいは大幅な弱体化に備えているのだ。しかし、エージェンシーはまた別の話で、彼らの広告取引の大部分は依然としてサードパーティCookieに依存している。9月末、Business Insiderは英国で、エージェンシー向けに今回のオプションを大々的に発表し、それがもたらす新たなチャンスについて説明を行った。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)