広告クライアントへのコンサルティングもおこなうコンテンツスタジオ、ブルームバーグ・メディアスタジオはコロナ禍にあっても前年比で30%の収益増となった。躍進の原動力となっているのがキャンペーンの迅速化、多様なクライアント。そして消費者行動の変化や重要トレンドのデータ分析による長期的なキャンペーン展開だ。
ブルームバーグ・メディアスタジオ(Bloomberg Media Studios)は、広告クライアントへのコンサルティングも行うコンテンツスタジオの先駆けとして2017年に設立された。現在、グローバルで25人以上のスタッフが同スタジオに所属しており、収益は前年比で30%増となっている。同スタジオの躍進の原動力となっているのが、新しい広告フォーマットの導入によるキャンペーンの迅速化、さまざまな業界からのクライアントの取り込み、そして消費者行動の変化や重要トレンドのデータ分析による長期的なキャンペーン展開だ。
ブルームバーグ・メディアは4月に、「ラピッドレスポンス(Rapid Response)」というSNS上の動画広告のテンプレートの提供を開始した。このサービスを使うと、48時間から1週間、ブルームバーグ・メディアのエコシステムを利用して動画広告をライブ配信できようになっており、現在IBMやソフトウェア企業のアトラシアン(Atlassian)などが利用している。
同サービス以外にも、不況時こそコンテンツ制作と投資が重要であると考えるクライアントがマーケティング費用を増加させたことが同スタジオの成長につながっている。さらにブルームバーグは気候変動や農業・環境分野をテーマにしたバーティカルメディア「ブルームバーグ・グリーン(Bloomberg Green)」や、個人資産をテーマにした「ブルームバーグ・ウェルス(Bloomberg Wealth)」など、多様な分野にも挑戦している。特に前者は、同社の中核分野であるビジネスや金融以外のクライアントを集めることに成功している。
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データとクリエイティブの組み合わせ
ブルームバーグ・メディアは収益の具体額は明かしていないものの、ブルームバーグ・メディアスタジオのグローバル責任者アッシュ・バーマ氏は、「ほかのパブリッシャーのコンテンツスタジオが苦戦するなか、当スタジオは年末にかけてさらに(前年比30%増以上に)伸びる見込みだ」と語る。
「戦略的なデータ分析とクリエイティブの組み合わせは未開拓の分野であり、オーディエンスにとってもブランドにとって強力な訴求力を有する」と同氏は述べる。「さらに、注目を集めているリーダー向けのプラットフォーム開発のために当スタジオを利用したいと問い合わせるクライアントも出てきている」。
たとえば、ヒュンダイ(Hyundai)の水素燃料電池を搭載する燃料電池車NEXO(ネキソ)についても、ブルームバーグ・メディアスタジオは従来のキャンペーンとは異なるマーケティングを展開している。これまでもヒュンダイのキャンペーンを担当してきた同スタジオは、ブルームバーグ・メディアの300名のビジネスアナリストと金融市場データ分析ツールであるブルームバーグ・ターミナル(Bloomberg Terminal)のデータを活用。次世代クリーンエネルギーとして注目を集める水素燃料電池とともに、ヒュンダイが独自のポジションを確立するのにひとやく買っている。
またブルームバーグはヒュンダイブランドで水素関連のデータを紹介するウェブサイトを作成した。同サイトでは14カ国、5つの業界、複数のサブカテゴリーにおける水素利用のデータを紹介するほか、水素燃料をテーマや課題ごとに解説するインフォグラフィックや動画も盛り込まれている。
「製品だけでなくプラットフォームへと話が移り、ブルームバーグ・メディアとヒュンダイが長期展開するプラットフォーム構想へと至った」とバーマ氏は語る。「世界的な観点から、消費者行動のトレンドに乗ることの意義は大きい」。
パブリッシャーのデータが不可欠
新型コロナウイルスによる影響が拡大を続けるなかでも、ブルームバーグ・メディアは、IT企業や金融企業といったB2Bクライアントを多く抱えており、比較的影響が少ないなかでマーケティングを増やしてきた。一方、市場分析企業PQメディア(PQ Media)は、長年に渡り2桁成長を続けてきた米国のコンテンツマーケティング収益も、2020年には6.8%減少すると予測している。たとえばテレグラフ(The Telegraph)のブランドコンテンツスタジオのスパーク(Spark)は、この夏に100名以上の社員を解雇した。とはいえ、コンテンツマーケティングはほかのメディアフォーマットと比較べると新型コロナウイルスによる被害が比較的少なかった。
最近、ブルームバーグ・メディアをはじめアトランティック・メディア(Atlantic Media)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)などから、マーケターがファーストパーティデータと読者調査に基づき消費者動向を分析する無料のサービス展開が相次いでいる。
これはマーケターもパブリッシャーもこの半年間、パンデミックとそれに続く景気悪化と社会不安に苦しめられてきたことに端を発している。不況下でもマーケティングを続けるブランドほど市場シェアを拡大しているという調査結果があるにもかかわらず、多くのブランドが広告キャンペーンを打ち切っている。
グループエム(GroupM)傘下のメディアエージェンシー、エッセンス(Essence)で戦略担当ディレクターを務めるジョー・ペレイラ氏は「パブリッシャーからの分析やフィードバックは我々にとっての生命線だ」と語る。「そこから文化的トレンドが見えてくる。パブリッシャー以外にこういったデータを提供できるところは少ない」。
データに基づく新たな戦略を
だが、ブランドの苦戦は続く。電通が12の異なる市場でCMO1350名を対象にアンケートをおこなった結果、大半が「新型コロナウイルスが消費者動向に永続的な変化を起こし、それを理解することが重要である」と考えていることが明らかになった。また、マーケティング予算を維持または減らすという回答が3分の2を占めている。さらにCMOの半数が過去の不況時のアプローチを回復戦略のベースにしていると回答しており、電通は「新たな戦略的観点が不足している」と指摘している。
最近アトランティック・ブランド・パートナーズ(Atlantic Brand Partners)と提携してジャガーのキャンペーンをおこなったデンツウエックス(dentsu X)のグローバルマネージングディレクター兼チーフストラテジストのサンジェイ・ナゼラリ氏は、「データ革命によって、車で言えばレトロな外観やバックミラーは不要と考える人がますます増えていることが明らかになった」と語る。「新たな考え方があり、将来に向けて動き出すべきだと指摘する人たちが必要なのだ」。
高価値の長期契約にはいくつかのメリットがある。今、支出を一時停止する、約束通りの支払いをおこなわないといったブランドも増えているなか、今後何が起きるか分からず警戒感を強めるパブリッシャーにとって、ある程度の担保になるのだ。こうした状況下で、金融システムの提供などを通じてブルームバーグに蓄積されたデータが果たす役割も小さくない。
「当グループはかなり掘り下げたデータも有している」とバーマ氏は語る。「『データドリブン』がバズワードになり、データドリブンなクリエイティブなどほとんど意味がないという声もある。しかし、我々はデータドリブンなクリエイティブとは何か、その意義を考え続ける意味があると考えている」。
[原文:‘Bullish that it will be higher’ Bloomberg Media Studios has grown revenue 30% year-on-year]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)