Cookieを巡る激震が広告主をコンテクスチュアルターゲティングへと向かわせるなか、その潮流はCTV(コネクテッドTV)、OTT(オーバーザトップ)、クロスデバイス動画といった閉じた世界にも流れ込み始めている。
Cookieを巡る激震が広告主をコンテクスチュアルターゲティングへと向かわせるなか、その潮流はCTV(コネクテッドTV)、OTT(オーバーザトップ)、クロスデバイス動画といった閉じた世界にも流れ込み始めている。
実際、テイストメイド(Tastemade)からクラックル(Crackle)まで、さまざまなパブリッシャーがOTT、CTV在庫でコンテクスチュアルターゲティングを可能にしている。2021年第1四半期には、Xandr(ザンダー)がCTV在庫のコンテクスチュアルターゲティングを可能にするソリューションを発表。同社DSPに投下される広告費の35%を占める、動画事業の勢いを保つことが目的だ。また、コンテクスチュアルターゲティングのマーケットプレイスを運営するアイリスTV(Iris.tv)は、年初から毎月25%の伸びを見せており、2021年5月27日時点では、月間2.8億回の広告リクエストを扱っていると同社広報担当者は話す。
もちろん、クロスデバイス動画のコンテクスチュアルターゲティングは、コンテンツの分類基準が業界内で統一されていないなど、ほかのデジタル広告ソリューションと同様に数多くの問題を抱えている。しかしほかのソリューションと異なり、コンテクスチュアルターゲティングは広告識別子にサードパーティCookieではなく、IPアドレスを使用する。そのため現在、緩やかではあるが広告主の関心は確実にコンテクスチュアルターゲティングに向かっている。
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とはいえ、IPアドレス活用の長期的な有効性は確実というには程遠い。もちろん、より精密なターゲティングへの需要が高まるにつれ、IPアドレスが抱える問題が克服される可能性がないとは断言できないが。
「真の王者」はコンテクスチュアル広告?
テイストメイドの営業・広告戦略責任者のジェフ・インバーマン氏は、「テクノロジーの観点で考えた場合、真の王者はコンテクスチュアル広告だと考えている」と述べる。「Cookieがないとなると、より正確にターゲティングを行う術はコンテクスチュアル広告しかない。そうした強い思いで、我々はエコシステムの構築を急速に進めている」。
動画広告のコンテクスチュアルターゲティングは、何も新しいアプローチではない。たとえば、食のコンテンツとともに広告を表示できるフード・ネットワーク(Food Network)など、ジャンルごとに区分けされた広告在庫を購入する手法は存在している。
ロク(Roku)のマーケティング担当バイスプレジデントのダン・ロビンズ氏は「重要なのは、『どちらかひとつ』ではなく、『両方』の選択肢を提示することだ。マーケターたちは、オーディエンスとコンテクスチュアルターゲティングの両方を求めている」と語る。
広告主の見方
また、リニアTVから広告費が流れ出ていくなかで、オーディエンスの詳細な情報を求める広告主もいるという。「とても具体的な要望が持ち込まれている。今後はさらに高い精度が求められるだろう」。インバーマン氏は「たとえば、デモグラではなく、『X』という種類のコンテンツを視聴している18歳から34歳のオーディエンスがほしい、といわれることもある」と説明する。
クロスデバイス動画でそのレベルの粒度を実現するのは、プログラマティックバイイングでは最近まで不可能だった。一方、コンテクスチュアルターゲティングは、Webページをクロールしてコンテンツを比較的容易に行えるため、こうした詳細なアプローチが可能だとされている。コンテクスチュアルターゲティングを行う企業によって、用いる手法は微妙に異なるが、どのソリューションの構造も基本的には同じだ。当該ページが、特定のトピックに関するキーワードをどれだけ含んでいるか、さらにそのコンテンツが不適切であるかどうかといった判定が行われる。
ただ、この原理はWeb上のテキストベースのコンテンツに限った話だという見方もある。というのも、OTT、およびCTVの環境とWebでは状況が異なるからだ。解析の対象が動画かテキストか、という違いに加え、CTVやOTTのアプリで提供されるコンテンツのライブラリは、コンテクスチュアルターゲティングのサービスがアクセスできるような場所には保管されていない。保管先は、アプリやパブリッシャーのコンテンツ管理システム内にあることがほとんどだ。さらに、ときにはRokuやFireTVなどのクローズドなプラットフォーム内に格納され、コンテンツの中身を判別することが難しい場合もある。入手できる情報は、パブリッシャーが共有を許す情報だけであり、状況としてはディスプレイ広告なのだ。
そのため、現在バイヤーたちが動画のコンテクスチュアルターゲティングについて尋ねる質問は、コンテンツについてではなく、その仕組みや方策に関するものが多い。「パブリッシャーが提供するコンテンツではなく、ソリューションがしっかり機能するかどうかに、多くの関心が寄せられている」とメレディス(Meredith)のCOOニコール・レスコ氏は語る。「視聴できるのか、安全なコンテンツの前に表示されるのか、完了率は良いのかといった具合だ」。
アドテク企業の意気込み
一方、そのソリューションを提供するアドテク企業たちは、スケールと普及率の拡大が、この状況に変化をもたらすことを期待している。たとえば、コンテクスチュアルターゲティングを提供するDSP企業たちは、IABテックラボ(IAB Tech Lab)が開発したコンテンツ分類を共通の基準として、パブリッシャーのライブラリに格納されているコンテンツを自動的に取り込んで分類、紐付けようとしている(現在は、パブリッシャーやDSPによって、コンテンツを分類する基準はバラバラだ)。
Xandrのプロダクトマネジメントディレクター、リン・チーランダー氏は「年末までにはスケールがもはや問題ではなくなると思う」と話す。「我々はまだ走れるような状態にはないかもしれない。しかしそれでは、まずは歩き出さなければはじまらない」。
今後の可能性
うまくいけば、今後コンテクスチュアルターゲティングのテクノロジーが発展することで、IPアドレス最大の欠点が克服される可能性もある。ただ、バイヤーたちはアドテク企業の意気込みに惑わされず、効果を見極めるスタンスを持つ必要があるだろう。
ティヌイティ(Tinuiti)のアドバンストTV&動画ソリューション担当バイスプレジデントのジェシー・マス氏は次のように述べる。「オーディエンスターゲティングでは、うまくターゲットにリーチできていると思っていても、想定外のオーディエンスにリーチしてしまうことがある。コンテクスチュアルターゲティングは、対象とする個人、しかもその個人がちょうどよい意識状態にあるタイミングでリーチできる点で有用だ」。
[原文:‘Building that ecosystem’: Contextual advertising begins to sprout in CTV, OTT ad markets]
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)