英国の放送局は、DTC(direct-to-consumer:ネット直販)へ軸足を移す価値に気づき、サブスクライバーの管理といった新しい役割を担う人員を増やしつつある。情報筋によると、民間放送局のITVとチャンネル4(Channel 4)は現在、顧客の獲得とつなぎ止めを具体化する役職の人材募集をしているという。
英国の放送局は、DTC(direct-to-consumer:ネット直販)へ軸足を移す価値に気づき、サブスクライバーの激しい動きの管理といった新しい役割を担う人員を増やしつつある。
ヘッドハンティング企業数社の情報筋によると、民間放送局のITVとチャンネル4(Channel 4)は現在、顧客の獲得とつなぎ止めを具体化する役職の人材募集を行っている。情報筋となった、あるヘッドハンターの会社では今年、民間放送3局でこの分野の人材斡旋を5件行ったという。昨年の0件から増加しているが、これはSVOD(定額制動画配信)事業の人員拡大のためらしい。
「SVODを成功させる方法の理解が、会話の主要な話題だ」と、コンサルティング企業ウィックランド・ウェストコット(Wickland Westcott)のマーケティング&デジタル事業担当責任者を務めるアダム・ヒリヤー氏は語る。
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求めている人物像
SVOD製品マネージャー2人を求めるITVの求人広告によると、SVODを成功させるには、eコマースやマーケティング、行動経済学のスキルの組み合わせに加えて、サブスクリプション事業での過去の経験が必要だという。ITVは、チャーンマネージメントのスキル不足を補おうとしていると思われる。チャンネル4にもすでに接触済みで、回答があればこの記事を更新する。
ITVのSVODサービスの詳細は現在ほとんどわかっていないが、ストリーミングサービス、ブリットボックス(BritBox)の米国およびカナダ法人の広告制作および元編集担当シニアバイスプレジデントであるリーマー・サカーン氏を、SVODのグループ立ち上げを担当するディレクターに任命している。ITVの求人広告には、「知的財産が主導するTV業界と動向」を深く理解していることが応募の条件だと書かれている。
だが、TV事業でサブスクリプションの経験がある幹部の数は限られている。そのため、放送局は、メディア分野に限らず、サブスクリプションモデルが製品のカギである携帯電話会社のような企業や、忠実なファン層からサブスクリプションモデルを構築してきた、サッカークラブのスポンサー企業であるエネルギー会社にまで対象を広げつつある。
「放送局のために働く人々はブランドを代表している。知識やネットワークがメディア中心になっている。獲得やつなぎ止めに深く携わってきた者は、メディア企業の特徴や文化に適応する必要がある。身体が臓器に拒絶反応を示さないよう、我々は気を配らなければならない」と、幹部ヘッドハンティング企業ライトハウス・カンパニー(The Lighthouse Company)の創業者、キャスリーン・サクストン氏は話す。
視聴者ではなく消費者
ヒリヤー氏によると、放送局は個々の番組のブランドを売り込むよりもチャンネルを売り込む必要があるので、スキルが大いに不足しているのはマーケティングが中心だという。「SVODでは、企業はブランドを構築する必要がある。明確なメリットと購入理由があるブランドイメージを作る必要がある。こうした分野は放送局にはこれまで存在せず、どちらかというと消費者向けのパッケージ商品の分野に近い」。
「この分野で手法の変化があるのは確かで、放送局は、視聴者というより消費者と見なしはじめている」と、サクストン氏は語る。BBCは、ライセンス料の支払者によって創設されたが、2018年3月に初の最高顧客責任者の役職を発表した。米国でも、ディスカバリー(Discovery)やディズニー(Disney)、CBSのようなメディア企業は、ストリーミングサービスを構築するなかで、もっと顧客中心の考え方をしなければならない。効果的であるためには、巨大企業や複数分野にわたるチームのなかでの協力も必要だ。
ITVの財務報告によれば、2018年上半期のDTCの売上高は4100万ポンド(約57億円)で、2017年の2900万ポンド(約41億円)から増加している。これには、商品のほかに、人気番組のセットを見るツアーのようなものも含まれている。大部分は、恋愛リアリティ番組「ラブ・アイランド(Love Island)」の名前入り水差し7万5000個や、番組出場者が持っていたレプリカ(各15ポンド[約2100円])の販売によるものだった。ITVは、名前入りスマホカバーや化粧ポーチのような多くのラブ・アイランドグッズも発売した。
テック強化でリーチ拡大
ニュースパブリッシャーの場合、読者が顧客になり、顧客サービスと顧客のライフサイクルの重要性を高めるなかで、同様のシフトが起きている。その途上にある放送局は、新規顧客を見つけるために、テックツールを強化して、リーチを拡大する必要があり、失敗する恐れがある場合には引き金を引く必要がある。ITVなどの企業はこれまで、それほどすばやく技術を採用してこなかったが、それが変わりつつある。
放送局は、サブスクリプションサービスを拡大するためにゼロからスタートするわけではない。VODプラットフォームのITVハブ(ITV Hub)は、登録ユーザー数がすでに2700万人を超え、2021年までに3000万人に達すると見られる。それは、契約しそうなユーザーをターゲットにして有料会員にするのに、十分な規模だ。同様に、チャンネル4のVODサービスであるオール4(All 4)には、1800万人の登録ユーザーがいる。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)