テレビ局はプログラマティック広告を取り入れることを長くためらってきた。ライバル放送局との違いがなくなるリスクを恐れたためだ。しかし最近では、ゆっくり、しかし確実に、放送局の在庫がプログラマティックを通して、どんどんデジタル利用が可能になってきていると、バイヤーたちは述べている。
テレビ局はプログラマティック広告を取り入れることを長くためらってきた。ライバル放送局との違いがなくなってしまうリスクを恐れたためだ。
しかし最近では、ゆっくり、しかし確実に、テレビ局の在庫がプログラマティックを通して、どんどんデジタル利用が可能になってきていると、バイヤーたちは述べる。これは、毎年5月に開催される広告枠販売イベント「アップフロント」だけでなく、その後、夏の終わりから秋にかけて、ひとつの話題となった。
テレビのオーディエンスのうち、特に若い世代は、従来型のテレビ番組ではなく、デジタル動画をますます視聴するようになってきている。そこで、デジタルビデオのオーディエンスを使って、視聴率を補填しようとしているのだ。
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オートメーテッドギャランティード
「オートメーテッドギャランティード(保証型の自動取引)」と業界で呼ばれるアプローチを使えば、パブリッシャーとエージェンシーの双方に取り引きの遂行責任をもたせることができる。パブリッシャーサイドの在庫量とエージェンシーサイドの広告費が契約によって、広告サーバーに確保されるのだ。
「すべての値段が事前に設定されるという点でオートメーテッドギャランティード取引は素晴らしい。しかも、広告主たちとより深い関係を保つことができる。ギャランティード取引はオープン取引やプライベートマーケットと比べても、高い収益をパブリッシャーにもたらす。そしてエージェンシーからの需要も増えている」と、大手放送会社の広告戦略エグゼクティブのひとりは語った。
たとえば、ブランドのデジタル予算が2000万ドル(約20億円)だったとして、エージェンシーは10−20%(約2−4億円)をプログラマティック経由で使うケースも増えてきた。ビデオ案件であった場合、放送局はブランドのエージェンシーに提案書を送る。そこにはデジタルとプログラマティック、ときにはテレビも入れたCPMレートが含まれることになる。CPMレートが決定し、エージェンシーがパブリッシャーへの最低支払額に関して合意した場合、ブランドは放送を担当する会社のデジタル領域において、ビデオ広告をあらゆるフォーマットで(プレロールやミッドロールなど)自動化することができるようになる。
このような取引は、通常短くとも半年間継続される。反応が良ければブランドはオートメーテッドギャランティードにもっと費用を割り当てることもできると、これまで同取引を扱ってきた広告販売エグゼクティブたちは語った。ディスプレイ取引も同じ方法で交渉されている。
小規模メディアこそ転換すべき
広告バイヤーは放送会社の在庫を通して、より広くかつ効率良く、オーディエンスにリーチしたいと思っている。そのためオートメーテッド・ギャランティードが注目を集めているのだ。
これをさらに普及させるためには、全国規模のメディア会社たちは在庫をプログラマティックに利用できるようにしなければならない。そうすれば広告主たちはキャンペーンのパフォーマンスをいつでも確認して、どのような広告が上手くいっており、どのような広告が上手くいっていないのか知ることができる。
リアルタイムのデータを使って今後のキャンペーンについて決定をすぐに下すことができる。どのようなチャンネルにどれだけの資金を投入すべきか、どのパブリッシャーを選ぶのかといった重要な決断にもこういったデータは有益だ。
この点に関して、電通イージス・ネットワークの最高デジタル責任者であるルイーザ・ワン氏と同社の投資部門であるアンプリファイ(Amplifi)のアドバンスTV戦略・投資のバイスプレジデントでありディレクターでもあるパトリック・ルービン氏は意見を同じくしている。
電通イージス・ネットワークはアメリカでのプログラマティック予算の平均40−50%をオートメーテッドギャランティード取引に費やしている。「全国メディアも同様の転換をするべきだと、デマンドサイドは求めている。これまでデータ分野に投資をしてこなかったような小規模のテレビ・メディアたちは、広告主からの資金投入は少なくなる可能性が高いだろう」と、ルービン氏は述べた。
ツールベンダーも次々と対応
オートメーテッドギャランティードに対応するプラットフォームの数も、これまで以上に増えている。以前はパブリッシャーたちがサプライサイドのプラットフォームを通してプログラマティックギャランティード取引を希望した場合、SSPに対してより高いサービス料を払わなければならなかった。そこで、パブリッシャーたちは追加コストをエージェンシーに負担してもらおうと試みたがそれは反発を受けた。このようなパブリッシャーは25ドル(約2500円)のCPMに対して、28ドル(約2800円)をエージェンシーに請求しようとしたりしたのだ。
しかしいま、エージェンシーはさまざまなツールを使ってオートメーテッドギャランティードのコストを下げることができる。たとえばGoogleのダブルクリック・ビッド・マネージャー(DoubleClick Bid Manager)がそのひとつだ。同サービスは、今年からダイレクトセールスへのサポートを開始した。あるいは、エージェンシーはアドスロット(AdSlot)やアイソケット(iSocket)といったプログラマティックダイレクトの企業とパートナーを組むこともできる。こうして、サーバーAPIを通じてパブリッシャーの広告サーバーに直接つながることが可能になる。そうすれば、入札のプロセスをすべてスキップすることができるのだ。
インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)のようなアドエクスチェンジも、パブリッシャーとのビジネス契約を探りはじめている。それはたとえば、CPM1ドル(約100円)のオープン形式の取引を処理するのと、CPM25ドル(約2500円)のオートメイテッドギャランティード取引を処理するのが、パブリッシャーにかかる純費用という点で同じになるようなものだ。そう説明するのは、インデックス・エクスチェンジの戦略パートナーシップ部門シニア・ディレクターのザック・ローゼン氏である。
効果計測に苦労するパブリッシャーも
しかし、オートメーテッドギャランティードはまだ新しい分野である。多くのパブリッシャーたち、特に歴史の長い、大手はイノベーションについていくのに苦労している。
またセールスのチームが、広告サーバーを運営しているオペレーションのチームと完全に切り離されていることが多い。そのため新しいプログラマティックの仕組みが出てきても、試すのに非常に時間がかかっている。もっと悪いのは、そのため売上の成績にも結びつかない結果になっていることだ。ホライゾン・メディア(Horizon Media)のプログラマティックプロダクト責任者であるトレバー・メンゲル氏は、そう語った。
エージェンシーで働く、とある人物(匿名希望)は、最近あった先払い契約で起こったある事実について語ってくれた。そのキャンペーンのはじめ、ウィンレート(入札インプレッション数に対する獲得インプレッション数の比率)は70−80%だったのだが、ある日突然ウィンレートが20%にまで落ちたことにバイヤーは気づいた。
「オークションで負けているということは、ちゃんとしたファーストルック取引になっていない」と確信したこのバイヤーは問い合わせたが、パブリッシャーは何も変更は起こっていないと否定。バイヤーが取引のプライオリティが分かるスクリーンショットを見せて欲しいと頼んだところ、不思議にもキャンペーンのウィンレートは魔法のように回復したという。
「取引の設定について、スクリーンショットを求めなければならないようにはなってほしくない。残念ながら次のふたつのことが起きるまで、この現状は続くだろう。ひとつはパブリッシャーのセールス部門とオペレーション部門が戦略という面でより調和が取れること、そして、パブリッシャーのウォーターフォールにおいて、取り引きの優先性を確認するための業界スタンダードな手法が確立されることだ」と、メンゲル氏は語った。
Yuyu Chen(原文 / 訳:塚本 紺)