英国の全国紙「タイムズ(The Times)」は、2010年から記事を有料化している。つまり、同社が得意とする分析記事や論説や解説記事は、本紙と日曜版の「サンデー・タイムズ(The Sunday Times)」の印刷版やデジタル版を、料金を支払って購読する40万2000人の読者に提供されているのだ。
また、速報ニュースも呼び物のひとつだ。デジタルにおいて新興ライバルメディアが次々と登場するなか、その過当競争に巻き込まれていた。だが、それももう終わりだ。タイムズはニュース速報合戦から完全に撤退しようとしている。その代わりに、記事配信をスケジュールに沿って行う体制を確立したいと考えているという。
英国の全国紙「タイムズ(The Times)」は、2010年から記事を有料化している。つまり、同社が得意とする分析記事や論説や解説記事は、本紙と日曜版の「サンデー・タイムズ(The Sunday Times)」の印刷版やデジタル版を、料金を支払って購読する40万2000人の読者に提供されているのだ。
また、速報ニュースも呼び物のひとつだ。デジタルにおいて新興ライバルメディアが次々と登場するなか、その過当競争に巻き込まれていた。だが、それももう終わりだ。タイムズはニュース速報合戦から完全に撤退しようとしている。その代わりに、記事配信をスケジュールに沿って行う体制を確立したいと考えているという。
さらに、サイトデザインの大規模なリニューアルにも着手。タイムズとサンデー・タイムズのサイトを統合して、ひとつのサイトにする予定だ。記事の更新は、英国時間で午前9時、正午、午後5時の1日3回となるという。
Advertisement
速報はコモディティ化している
タイムズでデジタル部門の責任者を務めるアラン・ハンター氏は、次のように語る。「読者が速報ニュースのために我々のサイトを訪れることはない。そのような記事はBBCやTwitterで読める。しかも無料だ。読者が我々のサイトに訪れるのは、信頼性の高い報道、論説、分析を求めてのことだ。速報ニュースはコモディティ化しており、そこに料金を課すのは難しい。我々はデジタル版にその力があると信じている」。
ハンター氏は、「タイムズはライブブログやその他の形で速報ニュースを報じてきたが、こうした記事は理解を深めるものではない」という。同氏はさらに、「人々は、『コンテンツショック』と呼ばれる(コンテンツの供給が需要を上回る)現象や、毎日次々と報じられるニュースに翻弄されている感覚を話題にしている。もう付いていけないと感じ始めている人たちが出てきた。我々は、読者がニュースを理解するのを手助けし、何が重要なのかを知ってもらいたいと考えている」とも述べた。
UXを意識したリニューアル
デジタルニュースの速報を廃止し、もっと時間をかけてWeb向けの特集記事を作成する戦略は、タイムズとサンデー・タイムズの全面的なデザインリニューアルと同時に実施される。両紙のサイトは2010年以来別々に存在していた(レスポンシブデザインでもなかった)。ふたつのサイトでデザインとブランディングが異なっていたため、読者のユーザーエクスペリエンスは、タブレットやスマートフォン用のアプリと比べて、バラバラだった。「我々のサイトは複雑だった」とハンター氏は言う。


新しいWebサイトは、わかりやすいユーザーエクスペリエンスを提供できるように設計されているほか、発行人欄には月曜日から土曜日まではタイムズの名称が、日曜日にはサンデー・タイムズの名称が表示される。両紙の編集者とチームは、それぞれ現行のまま維持される。タイムズによれば、余剰人員は発生せず、4人編成のチームを加えて、モバイルとWebのユーザーエクスペリエンスの調整にあたってもらうという。また、スマートフォンとWebを担当する新しい副編集長がアシスタントとともに任命される。オンラインでは、印刷版のすべての記事が公開されるだけでなく、Web限定の記事も追加されるという。

レスポンシブなサイトではデザインが犠牲になることも多いが、新しいタイムズのサイトは、それを避けるために、特にモバイルデバイスを念頭に置いて設計された、とハンター氏は説明する。購読料は据え置き。現在の購読料は、Webサイト版、スマートフォン版、印刷版を読める「クラシック6デイパック(Classic 6 day Pack)」が週5ポンド(約808円)、タブレットアプリも利用できる「アルティメートパック(Ultimate pack)」が週8ポンド(約1292円)だ。このほかにもさまざまなパッケージプランがある。
両紙はすでに、iOS向けアプリと、Android OS向けアプリを提供しているが、デザイン変更と機能強化を行ったうえで、Webサイトとともに再リリースする。タブレットアプリの利用者は2015年に1万人増えて計7万8000人となり、サンデー・タイムズのアプリは9万1000人が利用しているとタイムズは言う。平均滞留時間は、タイムズの記事が44分、サンデー・タイムズが65分だ。なお、国際版となるアプリ「タイムズ・オブ・ロンドン(Times of London)」は更新されない。


ひとつの縦に長いトップページ
また、セクション見出しがトップ見出しとともに廃止されたが、その理由は、読者に利用されることがほとんどなかったからだとハンター氏。その代わりに、「パスト6ディ(Past 6 Days:過去6日間)」タブを設置し、両紙の過去6日間分の記事にアクセスできるようにする。
ただし、「ビジネス(Business)」、「国際(World)」、「テクノロジー(Technology)」、「マネー(Money)」、「社説(Opinion)」、「スポーツ(Sport)」といったセクション見出しがメインページの一部として表示され、ユーザーがスクロールダウンできるようになる。「つまり、我々はサイトをひとつの縦に長いトップページにしようとしているのだ」と、ハンター氏は付け加えた。
タイムズは先週、2015年6月末締めの税引前利益が1000万ポンド(約16億1400万円)であったことを明らかにした。同社が税引前利益を計上できたのは2002年以来のことだ。新しい製品は、データ解析やアンケート調査を組み合わせた購読者分析を18カ月にわたって実施した成果といえる。購読者の4分の1は、最後の3カ月間に開設したベータサイトを訪れた人たちで、これはベータテスト期間としては最長だった。
今後はすべてのセクションで広告枠を提供する予定で、各記事の第5段落の下に広告を配置する。また、親会社のニュースUK(News UK)が2015年に買収した動画広告会社アンルーリー(Unruly)の広告をまもなく取り入れる予定だ。
収益方法をスマートに進化させた
グループM(Group M)傘下のメディアエージェンシー、マクサス(Maxus)で英国のCEOを務めるニック・ボーン氏は、一般紙では編集面以外の違いがほとんどなくなってしまったことを考えると、今回の変更はタイムズにとって理にかなった動きだという。「これは、タイムズの有料化戦略、そしてコンテンツを効果的に収益化する方法をスマートに進化させたものだ」と、バフェイン氏は語る。
同氏はさらに、「いまは、すべての新聞社が同じ広告資金を追いかけている。タイムズなどの新聞社が『ガーディアン(The Guardian)』のような無料ニュースサイトと一層の差別化を図っていることは、彼らが同じことをしている場合と比べて、私のようなメディアの買い手にとっては、これらのプラットフォームをより効果的に活用する方法を示してくれる動きだ」。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
Images: courtesy of The Times.