持ち株グループのメディアエージェンシーに務めるキャンペーンマネジャーによると、ある大手自動車メーカーが7月、コンテンツがブランドの価値観と合わない場合、ニュースカテゴリに広告を掲載しないと決めたという。本件について、いくつかのメディアエージェンシー幹部に、政治的配慮から匿名を条件に話を聞いた。
政治的緊張がさらに高まり、メインストリームの報道機関を「賛否両論が多すぎる」と見なすブランドが増え、メディアのバイヤーがそれらサイトから広告を引き上げる動きを見せるところまで、事態は発展している。
「物議を醸す存在」
持ち株グループのメディアエージェンシーに務めるキャンペーンマネジャーによると、ある大手自動車メーカーが7月、コンテンツがブランドの価値観と合わない場合、ニュースカテゴリに広告を掲載しないと決めたという。そして、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義団体と反対派が衝突する事件が起きたあと、同メディアエージェンシーはそのブランドのプログラマティックキャンペーンで「ナチス」や「シャーロッツビル」などのキーワードをブロックした。前述の幹部は、本件について話を聞いた、ほかの3名のメディアエージェンシー幹部同様、政治的配慮から、匿名を条件に話をしてくれた。
同幹部は、ブロックされたニュースカテゴリにはFOXニュース・ドットコム(Foxnews.com)をはじめとする数百ものパブリッシャーが含まれていると語る。FOXニュース・ドットコムは、3月以降に同社がブラックリストに載せている、唯一のメインストリームのニュースサイトでもある。
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同幹部は「FOXニュースは我々にとって例外だ。というのもクライアントが同サイトを、物議を醸す存在だと考えているからだ」と語った。「我々はブランドセーフティ保護のため、ブライトバート(Breitbart)やインフォワーズ(Infowars)などのサイトとともにFOXニュースもブラックリストに載せた」。
躊躇するブランドたち
ブランドがメディア企業に対して、なりすましドメインやブライトバートのように明らかに問題の多いサイトをブラックリストに載せてほしい、と依頼するのは、なにもいまにはじまったことではない。ただ違うのは、現在、メディアバイヤーはCNNやニューヨーク・タイムズ(The New York Times)といったメインストリームを含むニュースサイトにも広告を表示しないようにしているということだ。今回の情報提供者らによると、FOXニュースは「特定のクライアントからプログラマティックバイイングをブロックされた唯一のメインストリームのニュースサイト」だった。
ニューヨークを拠点とするメディアエージェンシーのプレジデントは、「私は、メインストリームの定義が変化していると思う」と語った。「ニュースが増えたしたことで、我々はより多くのコンテンツを監視し、どれがクライアントとって適切か判断する必要が出てきた」。
パブリッシャーのなかには、同じサイトにあるニュース以外の領域に広告を移動することで、広告主のコンテンツを維持できるという意見もある。しかし、ニューヨークを拠点とする企業の幹部は、現在多くのブランドが、ニュース環境全般への広告表示を躊躇すると話した。彼のチームに対してFOXニュースを「ブラックリストに載せてほしい」と依頼したブランドもあるという。その姿勢が「極めて右傾化している」というのが、その理由だ。前述の幹部は、「同ブランドは別のどこかで、安全に視聴者を獲得することができる」と話した。さらに、同氏は、ブランドがFOXニュースでの広告掲載を停止した理由はほかにもある、と付け加えた。
FOXニュースにコメントを求めたものの、期限までに回答を得られなかった。
ブラックリストの基準
一方、シカゴに拠点を置くメディア企業のシニアバイスプレジデントによると、クライアントのなかには一切の政治ニュースから広告を引き上げることを決めたものもいるという。たとえば、金融サービス関連のクライアント2社は、あらゆるサイトの政治ニュースからプログラマティック広告を引き上げた。
「我々の経験では、いままでFOXニュース・ドットコムがプログラマティックバイイングにおいて、クライアントから名指しで締め出されたことは一度もない。同サイトは多くのアメリカ人にとって信頼できるソースであり、それはほかの中道左派寄りのサイトを信頼するものがいるのと変わりない」と、シカゴのエージェンシー幹部は話した。さらに「そうは言っても、いま起こっている議論の両極端で政治的な敵対姿勢を見せるものは、もちろんブラックリストに載せる」と述べた。
特定のメインストリームのニュースサイトを一時的に、あるいは永続的にブロックするかどうか、常にクライアントと話し合っていると語ったメディアエージェンシー幹部も複数いた。コンサルティング会社ボランド(Volando)のマネージングディレクター、エリック・ベイダー氏は、広告とコンテンツのペアリングがはるかに複雑になっている、と述べる。たとえば、ニューヨーク・タイムズに報酬を支払って広告掲載する上位200社が、同サイトをあからさまにブラックリストに載せることはまずないだろうが、それでも同サイトには一部のブランドが避けたいテロリズム、暴力、人種差別に関する報道や解説もまだ多くあると、同氏は話す。
政治的な動きという見方
ベイダー氏の見解によると、FOXニュースには多くの政治的なコンテンツがあり、さらに同サイトには依然として多くの忠実な読者がいるため、これを排除するブランドは、実質的というよりは政治的な決定を下しているのだという。
「広告主は、不快なコンテンツや考え方は拒否する、という姿勢の象徴としてFOXニュースを利用しているだけなのかもしれない」と、同氏は語った。ブランドが公然とパブリッシャーを拒否することは、かなり政治的な動きだ。しかし、その勘定は、得てして「あとで悔いるより、安全の方がいい」という形になりがちだ。
YuyuChen(原文 / 訳:Conyac)
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