アメリカでは、ブランデッドコンテンツの主流が動画に移りつつある。そんななかで、これまで広告費を激しく奪い合いながら低価格競争を続けてきた従来型のパブリッシャーは、プレッシャーに悩まされている。オリジナル動画市場に乗り込んできたエンターテインメントスタジオや制作会社との戦いに直面しているのだ。
アメリカでは、ブランデッドコンテンツの主流が動画に移りつつある。そんななかで、これまで広告費を激しく奪い合いながら低価格競争を続けてきた従来型のパブリッシャーは、プレッシャーに悩まされている。オリジナル動画市場に乗り込んできたエンターテインメントスタジオや動画制作会社といった新しいライバルとの戦いに直面しているのだ。
ブランドやエージェンシー各社の幹部らによると、いま、米ケーブル局HBOや英蘭の食品・日用品企業ユニリーバ(Unilever)のような大手クライアントのプロモーションに携わるブラボーメディア(Bravo Media)などの動画制作スタジオや、あるいは米ファストフード大手チポトレ(Chipotle)の仕事を手がけてきたクリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)などのタレントエージェンシーが、より存在感を増してきているという。どの企業も、ブランデッド動画コンテンツ市場におけるシェアを狙っている。
競合が続々登場
米決済大手VISAの企業広報部門でコンテンツ担当責任者を務めるステファニー・ロゼー氏は、企業からの売り込みのなかでも、とくにふたつのタイプが際立っていると話した。ひとつは、ブランデッドコンテンツの制作で成功した業績を持つ動画制作スタジオが、パブリッシャー、メディア、エージェンシーなどを介するのではなく、ブランドに直接の連携を提案してくる場合。もうひとつはインフルエンサーが、たとえば世界を旅する冒険家として、スポンサーを求めてくる場合などだ。「いまのところリソースの関係でこうした売り込みに応じるのは難しいが、この流れは強まっているようだ」と同氏は語った。
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従来型のパブリッシャーはまだ「動画への転向」の途上にいるが、動画制作スタジオやインフルエンサー関連企業は長いあいだ動画に取り組んできていたので、少なくともひとつかふたつのジャンルの動画制作に精通している。パブリッシャーは「自社にはスタジオがある」というが、動画会社は「自分たちこそがスタジオである」といえるのだ。
あるテックブランド幹部は次のように語る。「初顔合わせの場面を考えてみて欲しい。『我々はエミー賞を8度受賞しており、このリストに挙げたトップスターたちと一緒に仕事をしてきた』という人と、『我々はこれまで多数の報道動画を制作しており、そのノウハウの一部を貴社のために生かしたい』という人がいる。どちらに惹かれるかといえば、前者だろう」。
既存の動画制作スタジオも、うかうかしてはいられない。「すべての人が競合だ」と語ったのは、アメリカで人気のシリアルバー「カインド(KIND)」や、世界中で愛されているスウェーデンのウォッカ「アブソルート(Absolut)」のキャンペーンを手がけてきたニューヨーク拠点のデジタル動画制作会社クリック3X(Click 3X)の代表兼オーナー、ピーター・コーベット氏だ。「需要はある。だが同時に、動画制作はより簡単になっている。iPhone 8では、4K動画を撮影できるのだから」。
OTTの影響も背景に
ブランデッド動画流行の背景に、Netflix(ネットフリックス)の影響を指摘する人もいる。同社はオリジナルコンテンツ制作に多額の資金を投じてきた(最近ではAmazonも同様だ)。これにより、クオリティに対するオーディエンスの期待が高まっているばかりでなく、アドフリーのOTT(オーバーザトップ)サービスの視聴者が増えているなかで広告に注目を集めることがより難しくなっている。だからこそ、ブランデッドコンテンツ動画は、はるかに優れたものでなければならない。
「最高のタレントとプロダクションを奪い合う競争が起きている。映画やドラマと同じくらいに」と語ったのは、パブリッシャーに動画関連のコンサルティングを行っているバーナード・ガーション氏。「数年前のやり方のままでは、資金力とハイクオリティのタレントを誇る企業には勝てない。数年前なら、ソーシャルメディアで少しフォロワーが多い人を探せばよかった。だがいまでは、本物のタレントが必要だ」。
Netflixに加えて、Facebookもまたこの流れに関わっている。ネイティブ広告プラットフォームのポーラー(Polar)によると、同社のクライアントであるオーストラリアのパブリッシャーが最近、ブランデッドコンテンツを、Facebookと提携した制作会社に奪われたという。クリエイティブエージェンシーのメディアキッチン(The Media Kitchen)でプレジデントを務めるバリー・ローエンタール氏は、若者世代にリーチしたいブランドのためのコンテンツ制作のノウハウを持つソーシャルメディア向け動画メーカーが、台頭してきていると指摘した。たとえば米テレビ大手ターナー(Turner)傘下のスーパー・デラックス(Super Deluxe)などだという。
「コンテンツの制作および配信から効果測定報告までを、一手に引き受けるソーシャルスタジオが登場している。Z世代(アメリカの1995年~2010年生まれの世代)をターゲットとして、Facebookのビデオ配信プラットフォーム『Watch(ウォッチ)』向けのコンテンツを制作している。こうした企業は、若者世代に訴求するコンテンツの制作方法を知り尽くしている」とローエンタール氏は語った。
売り込み方に違いも
動画スタジオは、営業でも異なるアプローチを取っていることがしばしばだ。パブリッシャーは広告主への貢献方法、オーディエンスの好み、パブリッシャーの編集方針を説明するが、タレントエージェンシーはまずそのブランドのために用意したビッグスターやビッグアイデアをマーケターに提案する。
パブリッシャーは、自社のオーディエンスをどれほどよく知っているかを語る。しかしそのせいで、売り込みの対象は、編集方針が確立されたパブリッシャーサイトでの広告キャンペーンを希望する広告主だけに限られてしまう。
「BuzzFeedやViceには、決して無視できない前提がある。しかしFacebook Watchにはそれがない。クリエイティブな人のなかには、クリエイティブの自由を求める人が増えている」と、ローエンタール氏は語った。