高い購読料に見合うほど専門的でありながら、一般のオーディエンスにも大いに興味深いサイトを運営するのは非常に難しい。米紙ボストン・グローブ(The Boston Globe)の子会社が1年半前に開設した医学・健康関係ニュースサイト「スタット(Stat)」は、こうしたモデルを成功させる方法を見出しはじめている。
高い購読料に十分見合うほど専門的でありながら、一般のオーディエンスにとっても大いに興味深いサイトを運営するのは非常に難しい。米紙ボストン・グローブ(The Boston Globe)の子会社が1年半前に開設した医学・健康関係ニュースサイト「スタット(Stat)」は、こうしたモデルを成功させる方法を見出しはじめている。
ボストン・グローブ・メディア・パートナーズ(Boston Globe Media Partners)が運営する「スタット」は、半年ほど前に年会費299ドル(約3万3000円)のプログラムを開始した。具体的な数字は公表していないが、3年間で購読者数1万人という目標を達成しつつあるという。一部のコンテンツを有料化した後も、オーディエンスは増えている。「スタット」の内部分析では、3月のユーザー数は200万人に上る。ちなみに、コムスコア(comScore)のデータによると、4月のユニークビジター数は、それよりもかなり少ない76万1000人で、いかにも小規模なサイトらしい。
ボストン・グローブ・メディア・パートナーズが以前に開設した2つのバーティカルメディアは、それほど成功していない。ローマカトリック教会に焦点を絞った「クラックス(Crux)」は閉鎖され、「ベータボストン(BetaBoston)」は最終的に独立したサイトになった。
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プロ・アマ両者向けの内容
購読料と特典は、3年前に開設されたテクノロジー系ニュースサイト「インフォメーション(The Information)」に似ているが、医療関係者と一般読者の両方にサービスを提供しようとしている点では、それよりも政治ニュースサイト「ポリティコ(Politico)」に似ている。「スタット」は、1日に平均約15本のニュース記事を公開している。コンテンツの約1割は、医療関係者を念頭に、会員にしか公開されていない(そうした記事には「Stat+」というラベルが付いている)。個人購読に加えて、大学や製薬会社、医療事業者などを対象に、最大45%の割引が可能なグループ購読の販売も開始した。つまり、ゆくゆくは、購読者数が売上を上回るペースで増加するかもしれない。
だが、「スタット」が潜在的な購読者を最大化して広告事業も構築するには、もっと幅広いオーディエンスを無料コンテンツで引き付ける必要がある。「まだオーディエンスを増やしているところで、一般読者を遠ざけたくはない」と、同誌リック・バーク編集長は語る。
そのために「スタット」は、アナフィラキシー補助治療剤「エピペン」やオピオイド鎮痛薬のような、一般読者の興味を引く、周知の健康問題も扱っている。イベントも同様、有料購読者を引き付けるために老舗週刊誌「アトランティック(The Atlantic)」と提携して、ボストンでイベントを開催したり、科学ジャーナリストのセス・ムヌケン氏が自身の中毒経験を語るといった、幅広いオーディエンスに向けたイベントも開催していく。
オーディエンス(および広告)を増やす目的で「スタット」は、ボストン・サンデー・グローブ紙(Boston Sunday Globe)とともに配布される印刷版も発行しはじめた(「スタット」はボストン・サンデー・グローブ紙と同じビルに入居しているが、まったく別々の企業)。第1号は12ページ構成で、4月23日に発行された。年4回発行される予定だ。

オンラインメディア「スタット」は、ボストン・グローブで年4回配布予定の印刷版を発刊した
重要なのは課金タイミング
「無料コンテンツには、人々を引き込んでブランドにエンゲージしてもらえるメリットがあると考えている。ペイウォールがあるのを知って1回目、2回目、3回目で購読してもらえなくても、そのうちに、また訪問してもらえる機会が何度でもある。開設から10年も15年も経ったサイトなら事情は違うかもしれない。だが、我々はまだ、新しい読者を増やしつつある」と、「スタット」の最高売上責任者(CRO)であるアンガス・マコーレー氏は語る。
サブスクリプションベースのパブリッシャーが答えを見出さなければならない問いは、どんなタイミングで、何に対して、どの程度の購読料を請求するか、ということだけだ。ペイウォール方式にした時点では、「スタット」は比較的新しいメディアだったので広く知られておらず、スタッフも少ない(編集者とライターが計30人)。購読料も、そうしたことを考慮して決められた。(「スタット」の購読料は、最初から強固なペイウォールだった「インフォメーション」と同程度だ)。
会員になると、記者との電話会議やSlack(スラック)の専用チャンネル、デイリーニュースレターの購読といった特典もある。だが、「スタット」としては、既存の医療関係の業界紙や医学雑誌(無料で提供されているものもある)と比べて、大幅に高い購読料にすることは望まなかった。
「購読料をどれくらいにするかという点に目を向けた。その料金で、できるかぎりの資源を投入することしかできない。『スタット』は新参者で、ブランドについて十分に知ってもらえていないかもしれない。出発点としては適切な購読料設定だと感じた」と、マコーレー氏。
トランプ効果も拡大に貢献
トランプ米大統領がオバマケアを廃止しようとし、気候変動科学を攻撃していることから、「トランプショック」も、ある程度は「スタット」の助けになった。
「良くも悪くも、トランプ大統領はトラフィックの面で望ましい。コンテンツをペイウォール方式にしたのにトラフィックが継続的に増加するのを見て、信じられないほど勇気づけられた」と、マコーレー氏は言う。
パブリッシャーは、トランプ大統領に関する報道への米国民の関心を利用して、広告売上を補ううちに、購読者数が急増してきた。そのため、「スタット」は、幸運なタイミングでペイウォール方式を導入できた。なお、「スタット」は、医療業界や医学研究にとってトランプ政権がどういう意味をもつかをテーマにしたデイリーニュースレター「トランプ・イン・30セカンズ(Trump in 30 Seconds)」も導入。「トランプ・イン・30セカンズ」の購読者数は、1万5000人に上る。
「このところ、質の高いジャーナリズムに対して、人々が進んで金を払う気風が高まっているように思える。我々は、その恩恵に預かっているのだと思う」と、バーク氏は言った。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)