ブルームバーグ・メディアの短編動画プラットフォーム、クイックテイクが「次なるテレビ」であるストリーミング分野への進出を目指している。長編コンテンツを制作し、各ストリーミングサービスの空白地帯となっているビジネス分野での拡大を意図しているのだ。熾烈なストリーミング戦争を生き残るブルームバーグの戦略に迫る。
ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Meida)のクイックテイク(QuickTake)は立ち上げから3年の短編動画プラットフォームだ。かつてはティックトック(TicToc)という名前だったが、明白な理由によりクイックテイクに変更された。当初はTwitterのモバイルオーディエンスをターゲットにしていた。
クイックテイクのゼネラルマネージャーを務めるジーン・エレン・カウギル氏によれば、これまでは第1段階だったという。クイックテイクは現在、ストリーミングへの進出を目指している。ブルームバーグ・メディアのOTTアプリが11月9日のリニューアルを予定しており、新アプリにクイックテイクも含まれることになっている。
自社のテレビ局であるブルームバーグテレビジョン(Bloomberg Television:BTV)が提供する金融ニュースコンテンツからの脱却をさらに進め、あらゆるビジネスセクターの若いオーディエンスにリーチすることが目的だとカウギル氏は説明する。
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米DIGIDAYのプレジデント兼編集長、ブライアン・モリッシーが毎週お届けしてきた番組「ザ・ニュー・ノーマル(The New Normal)」の最終回では、カウギル氏とブルームバーグ・メディアのCGO(Chief Growth Officer)スコット・ヘイブンズ氏がどのように新事業を構築し、Twitterからストリーミング市場へと拡大してきたかを語っている(※会話の詳細は、原文記事の動画にて確認できる)。
なぜクイックテイクはBTVブランドではないのか?
クイックテイクにはプロデューサーや編集者、そのほかのスタッフを含め100人以上のスタッフが関わっているが、彼らはBTVのスタッフとは異なる。ブルームバーグが有する膨大なプロダクトのなかにクイックテイクが埋没しないようにするためには、彼らのような専任のスタッフがいることが重要だとヘイブンズ氏は述べている。
クイックテイクのチームは2700人いるブルームバーグ・メディアのジャーナリスト、アナリストからアイデアやコンテンツを調達している。仮にひとつしかない動画制作チームが2つのチャンネルのコンテンツを24時間分(BTVは24時間放送し続けている)制作していたら、たとえ毎日働き続けても、片方または両方で不足が生じるとヘイブンズ氏は説明する。
しかし、クイックテイクとBTVのもっとも大きな違いはオーディエンスだ。BTVは金融業界に特化しており、クイックテイクはビジネスニュース全般を扱っている。「フランチャイズ」活性化のため、週刊経済誌ブルームバーグ・ビジネスウィーク(Bloomberg Businessweek)などのサブブランド、各バーティカルメディアも活用する予定だとカウギル氏は話す。
BTVもクイックテイクもブルームバーグ・メディアのOTTアプリ経由で、ストリーミングサービスを提供する。BTVがすでにストリーミングプロバイダーとの契約の道を切り開いているため、クイックテイクのOTT参入が容易になるとヘイブンズ氏は補足する。「すでに書類はそろっており、長年の関係をいくつも構築しているため、ゼロから始めるというより、クイックテイクを追加する感覚に近いだろう」。
OTTアプリとソーシャルメディアだけではない。カウギル氏によれば、クイックテイクは無料の広告付きストリーミングサービスやコネクテッドTVとも提携関係にあるという。これらはブルームバーグ・メディアのOTTアプリをダウンロードしなくても視聴できるため、視聴者がチャンネルをスクロールする際に発見しやすい。
それでも、ソーシャルにこだわる
クイックテイクはもともと、Twitter向けの年中無休のニュースソースとして立ち上げられたため、カウギル氏のチームはソーシャルのモバイルオーディエンスに何が効果的で、何が効果的でないかをよく知っているという。
しかし、クイックテイクがOTTで視聴可能になればソーシャル向けの短編コンテンツだけではうまくいかないだろう。ストリーミングのオーディエンスは長いドキュメンタリーシリーズなど、夢中になることのできるコンテンツを求めているためだ。
ただし、ソーシャル配信戦略を打ち切るわけではない。OTTアプリ向けのコンテンツ制作が増えれば、それらを短く編集したものをTwitterなどのモバイルプラットフォームで再配信したくなるだろうが、カウギル氏のチームが最初の2年間に得た教訓はそうしたやり方はソーシャルメディアのオーディエンスに通用しないということだ。最初からソーシャルメディアを念頭にコンテンツをつくる必要がある。
そのため、カウギル氏は今後のクイックテイクについて、「自宅のテレビの大きな画面で見る長時間の体験と、スマートフォンを少しのぞくときにちょうどいい短時間のインサイト」というコンテンツの組み合わせになるだろうと述べている。
ストリーミング戦争への参入
メディア企業、TVネットワークがこぞって独自のストリーミングプラットフォームを立ち上げ過密状態に陥っているが、ニュースやリサーチなどのカテゴリーにはまだ余白があるとヘイブンズ氏は楽観視している。
「エンターテインメントの世界では、激しい競争が繰り広げられているが、我々はその危険地帯に足を踏み入れるわけではない。あの世界は大手数社で飽和しかけている」。
これはテレビの次なる段階の始まりにすぎないとカウギル氏は述べている。過去数カ月の消費者の習慣、ケーブルテレビ解約者の増加を振り返っただけで、ストリーミングに関心を持つ消費はますます増えると予想される。
広告モデルは理にかなっている
クイックテイクは広告付きの動画プラットフォームとして運営されてきたが、競争力は十分あるとカウギル氏は考えている。
同氏は「現在、我々が『ビジネス番組』と考えているものの多くは、実のところマーケットの動向、あるいは『スポーツ(のような感覚でおこなわれる)としての株式投資』をテーマにしている」と指摘する。しかし、クイックテイクは違う。単にウォール街の最新情報を伝えるのではなく、ビジネスというレンズを通してストーリーを伝えることを目指している。
クイックテイクはすべてのソーシャルチャンネルを合わせて5000万人以上にリーチしている。カウギル氏のチームはそれらにOTTチャンネルを売り込み、ソーシャルオーディエンスとOTTオーディエンスを結び付けたいと考えている。CPMに関しては、OTTはもっとも魅力的なチャンネルのひとつだがオーディエンス構築は容易ではない。
そのため、クロスプラットフォーム契約の販売を強化し、オーディエンスの規模を拡大したいとカウギル氏は述べている。
[原文:Bloomberg Media is going deeper into OTT by expanding its social-first video brand QuickTake]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島 翔平)