ドイツの新聞最大手アクセル・シュプリンガーが2015年9月末、新興経済サイト「ビジネスインサイダー」を3億4300万ドル(約410億円)で買収した。アクセル・シュプリンガーは英経済誌「フィナンシャル・タイムス(FT)」の買収で日本経済新聞と競合し、敗れたことが、今回の買収を後押ししたとの見方もある。「ビジネスインサイダー」は若年層の人気を集める、米国で台頭するベンチャーキャピタル支援型の新興有力メディアのひとつだ。
「ビジネスインサイダー」は2007年に、シリコンバレーのテックメディア「Silicon Alley Insider」として運用開始。2009年にアドサーバーサービス提供企業ダブルクリック(DoubleClick)の元CEO、ケビン・ライアン氏による出資で、「ビジネスインサイダー」として再ローンチした。それが6年後の現在、大手経済情報サイトの一角を担う存在に上り詰めたのだ。
今回の買収で、メディア業界が学ぶべきポイントは、以下のようなものだろう。
ドイツの新聞最大手アクセル・シュプリンガーが2015年9月末、新興経済サイト「ビジネスインサイダー」を3億4300万ドル(約410億円)で買収した。アクセル・シュプリンガーは英経済誌「フィナンシャル・タイムス(FT)」の買収で日本経済新聞と競合し、敗れたことが、今回の買収を後押ししたとの見方もある。「ビジネスインサイダー」は若年層の人気を集める、米国で台頭するベンチャーキャピタル支援型の新興有力メディアのひとつだ。
「ビジネスインサイダー」は2007年に、シリコンバレーのテックメディア「Silicon Alley Insider」として運用開始。2009年にアドサーバーサービス提供企業ダブルクリック(DoubleClick)の元CEO、ケビン・ライアン氏による出資で、「ビジネスインサイダー」として再ローンチした。それが6年後の現在、大手経済情報サイトの一角を担う存在に上り詰めたのだ。
「ビジネスインサイダー」は、しばしば批判を浴びた時期もある。過激なソーシャルブックマークサイト「Reddit」に誤解を受けそうなタイトルで記事を投稿したり、「現存する最もセクシーなCEOたち(the sexiest CEOs alive)」というビジネス誌としては少々下世話な内容の記事を掲載したり、格好の非難の的だったのだ。
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そんな8年前に誕生したばかりの若いメディアに3億4300万ドルもの値がついたことで、業界に衝撃が走った。なにしろ、その金額は、同サイトにおける2015年の売上予想の9倍と目される金額。最高経営責任者(CEO)兼編集長であるヘンリー・ブロジェット氏は、これまで批判を繰り返していた人々の鼻を明かしたのである。
今回の買収で、メディア業界が学ぶべきポイントは、以下のようなものだろう。
スケール(規模)
デジタル広告の世界では、大多数の読者を狙う戦略とニッチな読者層を狙う戦略の2つが好ましいとされる。「ビジネスインサイダー」はシリコンバレー時代にニッチを狙いすぎた経験を生かし、大多数の読者向けに戦略を変え、成功した。「彼らは小さなサイトをたくさん運用する方法が間違っていると気付いた」と、テック系メディア「ReadWrite」の編集者で、元「ビジネスインサイダー」のオーウェン・トーマス氏は、話した。
「ビジネスインサイダー」は柔軟だった。編集権を開放し、読者によるニュース取材も認めたのだ。2015年にはサイトへ訪問する月間ユニークユーザー(MUU)は4000万人を超えた。海外展開も進め、テクノロジー版の「テックインサイダー(Tech Insider)」と呼ばれる新たなサイトも現在準備段階に入っているという。また、総合ニュースは、今後ローンチ予定の「インサイダー(Insider)」と呼ばれるサイトで取り上げる予定だ。
ウェブ起業家であり、オンライン旅行サイト「Skift」の創設者でもあるラファット・アリ氏は話す。「早く大きく成長するか、専門性を保ったままひとつの分野に集中するかだ。この中間は死だ。『ビジネスインサイダー』の記事の品質についてはどれだけ文句を言っても構わないが、ビジネススケールの観点から言えば、彼らはかなり良くやった」
しっかり実行する
思い描いたことをしっかり実行できなければ、良いビジネスモデルは機能しない。「ビジネスインサイダー」は、プレジデントであり最高執行責任者であるジュリー・ハンセン氏とブロジェット氏による安定したマネージメントに恵まれた。2012年にはピート・スパンデ氏を最高収益責任者として雇い入れ、広告戦略にプログラマティック広告をいち早く導入している。
ミレニアル世代に仕える
広告主たちはジェネレーションY(1975年~1989年生まれ)に夢中だ。このデモグラフィック(人口動態)を掴めれば、パブリッシャーとして一歩抜きん出る。「ビジネスインサイダー」は、父親世代が読む経済誌「フォーチュン」ではない。読みやすい記事にライフスタイルニュースを組み合わせ、画像や映像をふんだんに使用することで、若い読者を惹きつけている。調査企業comScoreによると、 「ビジネスインサイダー」の読者の48.3%は、18歳から34歳の読者。ライバルとなる「フォーブス」「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ブルームバーグ・ビジネス」「Yahoo!ファイナンス」より、ミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれた若年層)の読者を多く有している。
ソーシャル最適化のコンテンツ
「ビジネスインサイダー」の編集はミレニアル世代だけではなく、ソーシャルメディアに対してもアピールしている。ソーシャルメディアを通して、確実にターゲットへコンテンツを届けているのだ。2015年初頭において、「ビジネスインサイダー」のデスクトップトラフィックの36%は、ソーシャルメディアからもたらされた。これはダイレクトメール、Eメール、ディスプレイ広告、さらにリファラーからのトラフィックを足した数よりも多いと、ウェブ解析企業SimilarWebのデジタル・アナリストであるジョエル・ザンド氏は、話している。
多様化させるべき
「ビジネスインサイダー」は収益源をデジタル広告に依存してきた。事業環境の厳しさが指摘される分野だ。一方で課金モデルはかなり扱いづらい。しかし、アクセル・シュプリンガーの有料モデルへの熱心さが、B to Bのサブスクリプションリサーチやニュースレターサービスを担当する「ビジネスインサイダー」の頭脳たちを後押しするのを見てみよう。エグゼクティブ・バイスプレジデントのアンドリュー・ソリンガー氏によると、有料の「BIインテリジェンス」の編集者は少人数だが、5年後には同社従業員の1/5を占める大部署を目指す計画だという。また、ミレニアル世代が無料でニュースを読むことに慣れていることを考慮しながらも、有料サービスの拡大を狙っている。
Lucia Moses(原文 / 訳:小嶋太一郎)*[日本版]編集部で加筆・改訂した。
Image by Matt Fraher