英BBCは米国内の読者と広告主にあらためて訴求すべく、今秋、Webサイトとモバイルアプリの刷新を計画している。新サイトは2024年中にグローバル展開の予定だという。今後は、グループ傘下で営利事業を営むBBCスタジオ(BBC Studios)を通じ、最大の海外市場である米国からの収益増を狙う。
英BBCは米国内の読者と広告主にあらためて訴求すべく、今秋、Webサイトとモバイルアプリの刷新を計画している。新サイトは2024年中にグローバル展開の予定だという。
グローバル規模でデジタルプラットフォーム刷新を図る大手ニュースサイトはBBCだけではない。CNNは2023年4月に導入した新コンテンツマネジメントシステムを利用してサイト改修を進めている。フォックスニュース(Fox News)は今年2023年3月、サイトのリニューアルを実施した。
米国市場への挑戦
BBCはテレビ受信機を保有する世帯が支払う受信料により運営され、公共放送という性質上、英国内では広告を販売できない。しかし今後は、グループ傘下で営利事業を営むBBCスタジオ(BBC Studios)を通じ、最大の海外市場である米国からの収益増を狙う。BBCスタジオは英国内外で事業を展開し、TVコンテンツ制作・販売のほか、BBC.com、BBCニュースアプリ、BBCワールドニュース、BBCワールドサービスで配信される広告の制作・販売、スポンサー契約の締結を手がけている。
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「当社はこれまで米国市場をとくに優先せず、米国内のオーディエンスを対象としたマーケティングに十分投資してこなかった」と、BBCスタジオの最高商業責任者であるタラ・マイトラ氏は語る。「しかし最近になって、米国市場は収益増のチャンスと捉え、米国への投資拡大を決定した」。
米国事業重視への転換が本国での人員解雇につながる可能性はあるのだろうか。この問いかけに対しBBCの広報担当者は、「デジタルニュース部門は拡充の方向だ」と答えた。BBCは2022年、動画コンテンツとデジタルニュースへの再投資の方針を明らかにし、同社の非営利事業部門において数年で1000人を解雇すると発表。しかし広報担当者によれば、BBCスタジオは人員整理の対象外のようだ。
広告増収ではなくとも強気な姿勢は崩さない
BBCは2022年、北米市場向けに購読者数と広告在庫の増大を狙い、デジタルニュース担当チームの人員を倍増した。マイトラ氏によれば、米国を拠点とするこのチームは、国内・国際ニュースのほか、歴史、旅行、ビジネス、気候、サステナビリティ、スポーツといったトピックを重点的に扱う。
広報担当者によると、BBC.comでは2022年度(2022年4月~2023年3月)下半期、北米サイトのユニーク訪問者数が上半期比で14%伸びたという(詳細な統計データは非開示)。
しかし、コムスコア(Comscore)の調査結果はBBC発表と多少異なり、2023年3月期におけるBBCの米国内ユニーク訪問者数は3800万人で、前年同期の4180万人よりわずかながら減少したというデータが出ている。ただし前年同月比では、2023年3月のトラフィックは8%改善。2022年度下半期、米国サイトのユニーク訪問者数は上半期の12%増を記録した。
こうした成果はあるものの、対前年比では広告増収をもたらしていない。BBCの広告収入は「まだ、米国チームの拡大を開始した時期と同水準だ」と、マイトラ氏は認めている(具体的な金額は非開示)。それでも北米市場とWebサイト刷新へのBBCの投資意欲は「旺盛」で、景気減速の向かい風にもかかわらず、営利事業の財務責任者の採用に向けて、4月末にはリンクトイン(LinkedIn)に求人広告を掲載している。
マイトラ氏は、「米国での購読者数拡大が難題だとは思っていない。景気後退局面だからといって攻勢をゆるめるつもりもない。米国市場には大きなチャンスがあると確信しているからだ」と意気込む。
Webサイトの刷新
BBCは、デジタルニュースサイト刷新の一環として、BBC Future、BBC Reelなどブランドを冠したセクションを廃止し、コンテンツをよりシンプルなメインカテゴリーに分類して配信する計画だ。
同社のデジタルニュース&ストリーミング部門でエグゼクティブバイスプレジデント兼マネージングディレクターを務めるジェニー・ベアード氏は、「従来のBBC Future、BBC Future Planet、BBC Scienceのように細分化したセクションの代わりに、科学関連のコンテンツを総括する『サイエンス』というメインカテゴリーを設定し、部門を横断した協業を可能にする。加えて、3種類あるモバイルアプリをBBC appという旗艦アプリに一本化する」と説明する。
「目標のひとつは、コンテンツに統一感をもたせることだ」と同氏はいう。「同じテーマのコンテンツを別のチームが作成したとしても、変わらず統一感のある閲覧体験を読者に提供したい」。
リニューアル後は、BBCサイトとアプリのメインページにニュース、スポーツ、特集記事が単一のニュースフィードとして表示され、「読者はよりシームレスな閲覧体験が享受できる」と、同氏は考えている。また、BBC側からみれば、5月6日に行われた英国王戴冠式のような重要イベントの場合、サイト内のほかセクションの記事やポッドキャストなど、ほかメディア由来のコンテンツを編集して掲載する柔軟な対応が可能になる。
BBC.com上のナビゲーションバーも、主要ニュース、オーディエンスの興味関心、広告主の要望を反映してセクションを変更できる。具体的には、ChatGPT特集セクションなどが考えられる。
広告主への訴求
BBCは、シンプルな設計のデジタルサイトが読者の閲覧体験を充実させ、ひいてはエンゲージメントとオーディエンス数の増加に繋がることを狙っている。また、「米国の広告主に自社コンテンツを売り込みやすくする効果も期待できる」と、マイトラ氏は話す。5月1日から4日までニューヨークで開催されたIAB(インタラクティブ広告協議会)主催のニューフロンツ(NewFronts)にBBCは3年ぶりに参加し、広告主マーケターの前でプレゼンをおこなった。
UM(Universal McCan)統合投資部門のシニアバイスプレジデントであるモリー・シュルツ氏によれば、BBCサイトの刷新によりユーザー体験が実際に向上し、結果としてサイト滞在時間が増加するなら、「我々がBBCを評価するうえで興味深い判断材料になる」という。
その一方でシュルツ氏は、「広告主はすでにターゲティングのツールを持っており、オーディエンスがサイトのどのページを閲覧していても捕捉できる。我々は、サイト内の特定セクションを狙って広告枠を買うつもりはない。目当てはBBCという媒体が提供するテクノロジーであり、ターゲティングの機会であり、オーディエンスによるサイト上のコンテンツ利用状況を、我々が自由に把握できるサービスだ」と指摘する。
本格ニュース以外にも手を伸ばす
BBCの広報担当者によると、現在、BBCスタジオの広告事業は、北米のクライアントからの売上が全体のおよそ3分の1を占めるという。具体的な社名は非開示ながら、「顧客基盤の中核となる広告主は金融、旅行、製薬、ハイテク業界の企業」のようだ。なお、5月第一週のBBC Sportsセクションには、Googleとキャンバ(Canva)が広告を掲載していた。
ニュースは刻一刻とコンテンツが変わっていくため、セクション内に出稿した広告の効果予測が難しいカテゴリーといえる。それを考慮して、BBCは本格ニュース以外の、旅行、歴史、文化といったカテゴリーも拡大する意向だ。
広告エージェンシーのダガー(Dagger)でメディア担当バイスプレジデントを務めるアシュリー・カリム・キンシー氏は、「ニュース報道はコンテンツの変化が激しい(中略)BBCがほかのカテゴリー枠を拡大するにあたり、広告主のブランドセーフティをどうやって担保していくか、注目したい」。
[原文:BBC simplifies website, apps to attract U.S. readers and advertisers]
Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)