AXIOS はなぜ、「動画」でなく「テレビ番組」を好むのか?

2017年1月にローンチされたAXIOS(アクシオス)は、デジタルパブリッシャー各社が採用する既存の動画ビジネスモデルとは別の道を進もうとしている。同社はエディトリアルの動画制作と、自社サイトやYouTube、Facebookといったプラットフォームでの配信は、すでに行っていない。

設立から20カ月経たない2018年8月に同社は、HBO向けのドキュメンタリーニュース番組の制作を発表している。同社は3カ月後に同番組を上映、2019年2月にセカンドシーズンを制作したあと、10月8日にはさらに2シーズンの制作を発表している。
AXIOSの共同創業者でありCEOのジム・バンデヘイ氏は「当社のエディトリアル動画戦略はテレビにある」と語る。

バンデヘイ氏はHBOとの契約条件を明かしていない。HBOの番組が同社にどれくらいの収益をもたらしたかについても不明だ。今年2月に同氏はロサンゼルス・タイムス(Los Angeles Times)に対し、2018年度の収益が2500万ドル(約27億円)であり、損益はほぼとんとんだったと語っている。バンデヘイ氏はAXIOSの本年度の収益や、黒字になるかの見込みについては明かしていないものの、2019年は「素晴らしい年」だとしている。

HBOの番組を選んだ理由

AXIOSはHBOの番組以前から、自社サイトや各プラットフォーム向けに動画を制作してきた。現在同社は事業として定期的に番組を制作するようになっており、さらにHBOの番組を一部カットしてオンラインで配信している。チューブラー・ラボ(Tubular Labs)のデータによれば、AXIOSのTwitterでの動画再生数は1140万回、Facebookで16万8000回、YouTubeでは1万1900回となっており、さまざまなプラットフォームで数十億の再生数を叩き出しているようなパブリッシャーのデジタル動画戦略ほどの成功は収めていないように思える。だがAXIOSのような「マスを狙わない」パブリッシャーにとっては合理的な戦略なのだとバンデヘイ氏は語る。「マスを狙うのであれば、Facebook Watchでやるべきだろう」。

AXIOSが代わりに選んだのがHBOの番組だ。同社のテレビ事業への参入は簡単だったように聞こえるかもしれないが、HBO番組の制作総責任者も務めたバンデヘイ氏によれば道のりは容易ではなかったという。「テレビは考えていたよりはるかに難しかった。素晴らしい番組を作るために求められるリソースがはるかに多い。予期していたよりずっと多くのマンパワーが必要だった」と同氏は振り返る。

「Axios on HBO(アクシオス・オン・エイチビーオー)」のファーストシーズンでは、番組制作に大量の人員を投入した。番組制作にはAXIOSとHBO以外にもDCTVのスタッフを雇っており、さらにドキュメンタリー映画監督のペリ・ペルツ氏とマシュー・オニール氏も番組の監督と制作に直接参加している。AXIOSの番組を担当している社員はバンデヘイ氏以外にも、国内政治担当レポーターのジョナサン・スワン氏や技術責任者のイナ・フライド氏などがおり、トランプ米大統領やApple CEOのティム・クック氏、テスラ(Tesla)CEOのイーロン・マスク氏らへの撮影インタビューなども行っている。

制作に携わるスタッフの構成

だが、ファーストシーズンの時点ではAXIOSに番組専門のスタッフはいなかった。それが変わっていったのは、セカンドシーズンの4話が6月に毎週放送され、10月20日からさらに4話が放送されることが決まってからだ。

AXIOSは現在HBO番組専門のフルタイムの社員を3人雇っている。アルジャジーラ英語版に勤め、全米製作者組合賞にもノミネートされたプロデューサーのライザ・ザイディ氏が同番組のエディトリアルディレクターを務めているほか、現在AXIOSのニュースルームには56名のエディトリアル担当社員が番組のアイデアを練っている。アメリア・ナイト氏は同番組のプロジェクトマネージャーとして撮影場所や各番組に携わる30から40名のスタッフの組織など、番組の事業計画を担当している。またジュリエット・バーツ氏はアソシエイトプロデューサーとして調査やレポートの準備等を担当する。

バンデヘイ氏は、以上の3人がHBOの番組に専念することで、AXIOSのレポーターが提案する番組構想と、それ以外の要素をあわせてテレビ番組として機能するように落とし込めていると語る。「これは即興でできるものではない。ファーストシーズンでは即興でやろうとしたが上手くいかなかった。現在はたくさんのエピソードからなる純粋な番組として、より成熟した構造が求められる」と同氏は述べている。

HBOの番組でエディトリアル動画戦略に力を入れるなかで、AXIOSは自社ブランドスタジオに6名の動画チームを編成している。同チームはボックス・メディア(Vox Media)および、AXIOSが2019年4月に動画ディレクターとして雇ったミック・アルム・ジミー・シェルトン氏が監修しており、JPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)がスポンサーの「スマーター・ファースター(Smarter Faster)」といったマーケターのための動画制作に専念している。この戦略の狙いは、マーケターに対して同チームによるマーケター向けの動画だけでなくAXIOSがHBOで制作している動画も提示することで、AXIOSがどういった動画を制作できるかを示すことにある。

トラフィック流入の捉え方

HBOで番組を持つことにより、ブランドコンテンツを展開したいパブリッシャーからの査定もある程度高まる。一方、「制作とストーリーテリングの能力にもよるが、ブランドコンテンツとエンターテイメントは独自コンテンツの作成とはまた話が違うため、ブランドとの提携がどれくらい上手くいくかは未知数だ」とあるエージェンシー役員は指摘している。

HBOの番組はAXIOSにとって中核をなすパブリッシャー事業においてもオーディエンスの増加につながる可能性がある。同番組では2019年6月にジャレド・クシュナー氏へのインタビューが放送された際は「大きな話題となり、あらゆるところにニュースで伝わったため、AXIOSにもオーディエンスが流入した。(HBOの番組は)ブランドとしても大きなチャンスとして捉えている」と語るのがAXIOSのエグゼクティブバイスプレジデントであり、HBOの番組の制作総責任者も務めるエバン・ライアン氏だ。

だが、HBOの番組によってAXIOSのトラフィックが大きく増えてはいないようだ。コムスコア(Comscore)のデータでもっとも新しい2019年8月において、米国からAXIOSにアクセスしたオーディエンスは700万人となっており、2018年8月の同840万人より減少している。これについてバンデヘイ氏はサイトの月間トラフィックは同社にとって重要な指標ではないとしている。「その月にサイトを訪れた無作為な人数というのは、私からすればくだらない統計だ」と、同氏は語る。

その代わりにニュースレターへの登録者数などを含め、1日ごとのオーディエンスの指標を重視しているという。AXIOSの広報担当によれば、1日で平均75万人のアクティブユーザーが同社のニュースレターの開封やサイトの訪問、Apple News記事の閲覧を行っているという。この数字は2018年12月には1日平均で50万人だった。バンデヘイ氏によると、ニュースレターの登録者数自体も2018年12月の37万5000人から2018年12月の72万5000人にまで増えており、AXIOSのニュースレターの開封率は平均で約43%となっている。eメールマーケティングプロバイダーのセイルスルー(Sailthru)によれば、メディアやエンタメ、パブリッシャー企業のメール開封率は平均で17.6%にすぎない。

ハイエンドな内容と読者

AXIOSはHBOの番組がなければトラフィックを稼げないというわけでも、ニュースレターの登録が増えないというわけでもない。それなしでも十分に成立する企業なのだ。バンデヘイ氏は次のように述べている。AmazonやApple、NBCユニバーサル(NBCUniversal)、Netflix、Quibi(クイビィ)、ワーナーメディア(WarnerMedia)といった企業がストリーミング戦争のなかで番組数を増やしているいま、「ハイエンドなコンテンツとハイエンドなオーディエンスを持つ企業には新たな挑戦の門戸が開かれている。これを新たな収益源にできる企業もあるだろう。我々にとってそうであるように」。

Tim Peterson(原文 / 訳:SI Japan)