米ニュースパブリッシャー、アクシオス(Axios)は来る2021年2月、同社初のSaaS製品、アクシオスHQ(AxiosHQ)をローンチする。ターゲットは、より効率的な社内コミュニケーションを求める企業全般。この戦略で、パブリッシャーやコンテンツ企業のみをターゲットとする競合との差別化を狙うという。
米ニュースパブリッシャー、Axios(アクシオス)は来る2021年2月、同社初のSaaS製品、AxiosHQ(アクシオスHQ)をローンチする。
AxiosHQのターゲットは、より効率的な社内コミュニケーションを求める企業全般。この戦略でAxiosは、パブリッシャーやコンテンツ企業のみをターゲットとする、競合他社との差別化を狙うという。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)のコンテンツ管理システム「Arc(アーク)」や、ボックス・メディア(Vox Media)の一連のSaaS製品、そしてミニット・メディア(Minute Media)が展開するCMS(現在、同社における総収益の半分を担う)をはじめ、他社製品がすべてパブリッシャーやコンテンツ企業を対象としているのに対し、AxiosHQは業種を問わず、あらゆる企業へのより簡便/簡潔な社内コミュニケーションの提供を目的とする。なお、同社プレジデントのロイ・シュワーツ氏によれば、AxiosHQを使用できる企業数に制限は設ける予定はないという。
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Axiosにとって同製品は、CMSに次いでふたつめの自社製ソフトウェアだ。ユーザーは社内用のドキュメントを効率的に作成でき、フィードバックのやり取りなどもスムーズに行うことができる。というのもAxiosHQでは、空欄を埋めるだけで完成するテンプレートのほか、文書の洗練度、簡潔度、明確度をスコア化する、スマート・ブレェヴァティ(smart brevity)という機能が提供されている。
近い将来、世の中に溢れる社内用のドキュメントは、どれもAxiosの媒体で配信される記事のように、「重要な話題(one big thing)」「今後の展開(what’s next)」「掘り下げるべき点(go deeper)」「それが重要である理由(why it matters)」といった小見出しが設定され、整理されるようになるかもしれない。
作成したドキュメントは、メーリングリストに載る従業員に一斉送信することも可能だ。さらに、開封率を示すエンゲージメントも分析できる。なお、AxiosHQの使用料は未定だという。
AxiosHQの開発背景
Axiosが、同製品の根幹にある「相互的なコミュニケーションシステムの構築と実現」というアイデアの着想を得たのは2017年。同社の創業から間もなくのことだった。ちなみに、ロイ・シュワーツ氏、ジム・ヴァンデヘイ氏、マイク・アレン氏が共同創業したAxiosは、重要情報を800字の記事ではなく、読みやすい形式で発信するというアイデアからはじまった。
この、相互的なコミュニケーションシステムの構築というアイデアがメディアで取り上げられるや、「Axios様式のニュースレター」のノウハウを求め、何十という企業から問合せがあったと、シュワーツ氏はいう。2019年には、米通信大手AT&Tやデルタ航空(Delta)、キャッシュバックアプリを提供するゲットアップサイド(GetUpside)をはじめ、約100社がAxiosHQのベータ版を試したことで、同社は約100万ドル(約1億円)の利益を手にしている。
はじめて同製品のテストマーケティングが実施されたのは、約2年前。従業員とのコミュニケーションを改善したい既存顧客に向け、Axiosは社内文書の編集サービスと、前出のスマート・ブレェヴァティに関する研修サービスの提供を開始した。
その際、Axiosは専用のトレーナー、およびエディターを雇い入れ、このプロジェクトにアサイン。取り組みは成功し、Axiosに7桁近い利益をもたらした。しかしそれから間もなく、同社が派遣するチームに代わり、仕事をしてくれるソフトウェアを開発すれば、事業を拡大できることに気付いたとシュワーツ氏は述べる。
「企業が抱える組織の問題は、人々が抱えるニュース消費に関する問題よりも大きい。それは、ビジネスに悪影響を及ぼすリスクがはるかに高いからだ。従業員間にミスコミュニケーションがあり、そのせいで戦略を然るべき形で展開できなければ、収益が損なわれる」と、シュワーツ氏は語る。
利益が出るまでは数年を要する
AxiosHQを、同社の主力収益源に成長させるべく、Axiosは大規模なプランを練っているが、同社は初期コストを加味すると、利益が出るまでには数年を要すると見越している。
同製品の運営チームは、総勢25名で構成される予定だ。同製品の販売部門VPに新任したリンゼイ・サリヴァン氏は、12月第1週に入社。同氏は、AxiosHQの可及的速やかな成長を目指し、今後数カ月間で最低6人を雇用し、セールスとマーケティングの各チームを拡大していくという。
「SaaSビジネスの収益性が非常に高いのは、1~2年もすれば、顧客のLTVが可視化されるからだ。サービス投資に対し、どれだけリターンが戻ってくるかがわかりやすい」とシュワーツ氏は語る。
独自の価値創造と提案が必要
リモートワークのコンサルティングを行う、ワークプレイスレス(Workplaceless)のCEOであるタミー・ビェラン氏は、ビジネスを効率化するためのツールに関するアドバイスを行っている。同氏は、コロナ禍中に利用すべきソフトウェア、およびコミュニケーションツールは何を選べば良いかという問合せは、明らかに増えていると述べる。しかしそれと同時に、新米リモートワーカーの問題を解決するべく市場に投入されるツールの数も目に見えて増加しているという。
そのため、社内コミュニケーションツールのローンチを狙う企業には、顕在顧客の奪い合いに参加することではなく、潜在顧客を確保するための新たな価値創造と提案が求められる。Axiosの場合は、「社内において、職位が低い従業員を助けるツール」というポジションが良いのではないかと、ビェラン氏は指摘する。
「社員間で、日々交わされる情報の量は圧倒的に多い。それを受け取る、職位の低い従業員からすれば、どれが重要でどれがそうでないのか、迅速な選別が困難な場合もあるだろう」。たとえば、重要な情報を箇条書きにして目立たたせる技術を提供できれば、従業員は労力や受信箱の許容量を使うことなく、簡単に情報を受け取ったり整理できる。
「企業が、1万人の従業員に情報を送信するのに2分かかるとする。それはつまり、その企業が持つ、貴重な時間を2万分も無駄にすることになる」とシュワーツ氏は語る。
[原文:Axios is entering into the software licensing business with a new tool to help companies communicate]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)