BBCニュースはこの8カ月間、「優先順位の見直し」を大幅に行ってきた。その結果生まれたのは「スローニュース」ジャーナリズムと彼らが呼ぶものだ。これは深い報道の方が長い時間をかけて読まれるだろうという理論に基いていると、BBCグローバル・ニュースのエディトリアルディレクターであるジェイミー・アンガス氏は語る。
BBCニュースはこの8カ月間、「優先順位の見直し」を大幅に行ってきた。その結果生まれたのは「スローニュース」ジャーナリズムと彼らが呼ぶものだ。
連続して起きる速報をすべて追いかけてアップデートするのではなく、数を減らしてより全体像を捉えた深い報道をする、それと同時にデータをビジュアル化した短い記事も生み出していくという方向性がこれに当たる。スローニュースという名前は記事の長さとは関係が無い。BBCのジャーナリストたちがどれだけの時間を費やして記事を制作するかという点から来ている。これは深い報道の方がオーディエンスも長い時間をかけて読むだろうという理論に基いていると、BBCグローバル・ニュースのエディトリアルディレクターであるジェイミー・アンガス氏は語る。
アンガス氏によるとこのシフトを実現するために、彼らは数百万ドル(数億円)という予算をニュースルーム内へと動かしたという。予算はデータをビジュアル化するためのスペシャリストの雇用、そして12人編成のファクトチェック(事実確認)専任チームの設立へと費やされた。ファクトチェックチームはフェイクニュースの広がりを防ぐために「リアリティチェック(Reality Check)」というサブブランドのもと、記事を発行する。また動画数の増加やデータグラフィックツールの高品質化などにも予算は使われた。
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「24時間休みなくニュースが流れている状況を、人々は見る価値がない・満足できないと捉えている。砂糖の摂りすぎのような状況だ。次から次への事件が起きたことをただ知らせるニュースに、オーディエンスは反応しなくなっている。我々はアプローチを変えないといけなかった」と、アンガス氏は言う。
BBCならではの背景
長年続いたプロセスを変えることは大手メディアにとっては非常に難しいことだ。しかし、BBCの場合は公共サービスとしての任務があるため、問題はさらに複雑になる。「一度報道した事件をアップデートするタイプの記事のロングテール問題があった。社内では、BBCのWebサイトはどうあるべきかの議論が行われてきた。たとえば、発行したすべての記録を閲覧できるような包括的なアプローチがあるべきなのか? という議論だ」と、アンガス氏は語る。しかしBBCはよりオーディエンスに説明するタイプのジャーナリズムとスタイルに方向転換した。これは毎日のアウトプットにおいて、それまでは欠けていた形式であり、またオーディエンスが求めていたことであると、アンガス氏は言う。
スローニュース戦略の結果、トラフィックがどう増加したのか、アンガス氏は具体的な数字を教えてはくれなかった。BBCニュースのメインストリームにおけるリーチは正しい分野の報道に専念できていることを示唆している。スローニュース記事やリアリティチェックのトピックは、朝のニュースカンファレンスで決定されるという。BBCが公共サービスとして資金を得ていることは、ほかの民間パブリッシャーとは違ってクリックを追い求めることをしなくて良いということだ。
「たとえ2000ビューしか集めなくとも、我々が重要だと思うのであればアフリカの角(アフリカ大陸東端の半島地域)についての記事を出すことができる。我々は3つの新しい言語のWebサイトをローンチする予定だ。また朝鮮半島について深く追った5000単語の記事や、字幕付のバーティカルのビデオも出す。これは長いけれども内容は簡潔であることを追い求めているアプローチだ」と、彼は言う。
フェイクニュースの危機
今年はじめにフェイクニュースの危機が訪れた。BBCのリアリティチェックチームは今後も虚偽の情報を暴いていくうえで重要な役割を担っているとアンガス氏は考えている。特にアメリカや英国、ドイツといった安定した民主政治を持てていない国においては重要だ。アメリカ大統領選挙において、フェイクニュースが民主主義において甚大な影響を持ってしまうことが明らかになった。現在でも引き続き申告な問題となっている。これはヨーロッパ諸国でも同様だ。しかし、フェイクニュースの影響はほかの地域においてさらに深刻なものになっている。インドネシアでは首都ジャカルタの市長選挙に関するフェイクニュースが蔓延している。これはリアリティチェックのフォーカスのひとつともなっている。
アンガス氏は語る。「フェイクニュースが宗教間の衝突を扇動しているような国も存在している。多くの場合は選挙にまつわるものであり、人命が失われているケースも発生している。メディアのトーキングポイントではないが国によっては人命に関わる深刻な脅威なのだ」。
Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)