パブリッシャーがスケールし、収益を上げるうえでオーディエンス開発は中心的な役割を担っている。しかし、彼らのビジネスには複数の異なるゴールが存在しており、場合によってはそれらが互いに衝突してしまうことがある。この文脈において、オーディエンス開発がすべてのビジネスゴールの役に立つためにはどうしたら良いのか?
パブリッシャーがスケールし、収益を上げるうえでオーディエンス開発は中心的な役割を担っている。しかし、彼らのビジネスには複数の異なるゴールが存在しており、場合によってはそれらが互いに衝突してしまうことがある。この文脈において、オーディエンス開発がすべてのビジネスゴールの役に立つためにはどうしたら良いのか。これがパブリッシャーたちの直面している議題である。
オーディエンス開発はかつて、SEOにフォーカスしたものであった。しかし、ニュースレターやアプリといった自社のプラットフォームから、SNSやボットといった外部のものまで、コンテンツを発見し、配信する方法が爆発的に増えたことで、オーディエンス開発はそう単純な役割ではなくなってしまった。
根本的なレベルではビジネス側もエディトリアル側も、新規と既存のオーディエンスにリーチしたいと考えているのは同じである。しかし、すぐにそれぞれにとっての利益が異なってくる。エディトリアルとしてはリーチを最大化し、自身のジャーナリズムが与える影響力を大きくしたい。しかし、セールス側は広告収益を増加させることが求められている。そのためビジネスの観点からすると、特定のオーディエンス属性を優先することが正当化されることもあり得るのだ。それ以外にも購読者数を増やし、イベントやコマースといったプロダクトをマーケティングするビジネス的なゴールも存在する。
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たとえば、CNNの金融系バーティカルメディアのCNNマネー(CNNMoney)は、その高所得層のオーディエンスが理由で、親サイトよりも広告料が高くなっている。そのため全体ではCNNマネーにオーディエンスを送ることに予算を組むのを正当化しやすい状況が生まれていると、CNNのデジタルオペレーション・戦術部門のシニア・バイスプレジデントであるクリス・ハーバート氏は言う。
「(ジャーナリストたちは)重要なメッセージをなるべく多くの人たちに届けたいと考えている。セールスの面から言ってもスケールは重要だ。しかし、正しいオーディエンスを追いかける必要性も認識しないといけない」と、彼は語る。
また逆の場合もある。ビジネスの成長を追求するビジネス側のゴールが、エディトリアル側のゴールと衝突してしまうのだ。バイラルサイトのアップワージー(Upworthy)のチーフ・ストーリーテラーであるエイミー・オレアリ氏は、シリアにおける状況が悪化した秋のことについて語ってくれた。
「もしも厳密な成長戦略をもっていたとしたら、おそらくカウンタープログラミングを行っていただろう。アーカイブから何かポジティブなコンテンツを取り出すという具合に。しかし、エディターとしては、そのストーリーが膨大なアテンションを得ることを知っていたし、人々は支援をするために何ができるかを知りたいと思っていた。そのため、私たちは支援の仕方についての記事を作った。それはバイラルになった。これは、使命・ミッション中心のものが、一番人々の心に響くと知っていたからできた」。
エディトリアル側オーディエンス開発の場合
オーディエンス開発にまつわる、こういったさまざまなニーズに対するパブリッシャーの対応策もさまざまだ。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった古いメディアでも、アップワージーといった新しいメディアでも、オーディエンス開発はエディトリアル側に据えられている。
いまではストーリーが発見されるのはSNS上であることが多い。そのことからも、エディトリアルの制作とオーディエンス開発は、とにかく近い場所に存在している方が良いというのが、オレアリ氏の意見だ。彼女のグロースチームは、あらゆるストーリーに関するデータを毎週エディトリアルに提供している。人々が何を読み、何をシェアしてくれているのかをエディトリアルが知ることができる。それが何度も何度も人々の共感を得られるコンテンツを作るための感覚を鍛えるトレーニングとなる。
だからといってエディトリアルは、ビジネス上の懸念事項や目標をまったく気にせずに運営されているわけではないと、オレアリ氏は説明する。たとえば記事が長ければ長いほどそこに入れられる広告の量を増やすことができる、これは記事単位の収益の増加を意味する。そのためグロースチームは、長い記事はFacebookのインスタント記事として投稿する方が理にかなっているときがあると理解している。
「業界の今後を担う、よく分かっているデジタルエディターたちは業界を牽引している要素を理解している。私のゴールには、エディトリアルを率いることだけでなく、自分たちのビジネスゴールを理解することも含まれている。(オーディエンス開発がエディトリアルの外に存在すると)学ぶ機会も失うことになる。それは失いたくない」と、彼女は言った。
ほかの企業にはマーケティング部門であったり収益部門の一部としてオーディエンス開発を扱っているものもある。
「これが今後の主流の方法となっていくだろうと私は考えている。グループ内の異なる部門の架け橋となり、コラボレーションを促すからだ。収益部門はエディトリアルの視点で業務を理解する必要があるし、エディトリアルもどのようなコンテンツがどのような収益につながるか、フィードバックが必要なのだ」と語ったのは、ブランデッドコンテンツのプラットフォームであるポーラー(Polar)のCEO兼ファウンダー、クナル・グプタ氏だ。
すべてのメディア企業に適用できるひとつの正解というのは存在しないと、グプタ氏は言う。しかし、オーディエンス開発がエディトリアルに存在していると、コンテンツのプロモーションを素早く行う手助けにはなるかもしれないが、コンテンツをマネタイズするスキルをエディトリアルは持っていないと、指摘する。
部門を横断する解決策
あらゆるビジネス部門のニーズを満たすために、グループの全体を代表するような形でオーディエンス開発を据えているパブリッシャーたちもいる。
創立4年になる保守系ニュースサイト、インデペンデント・ジャーナル・レビュー(Independent Journal Review)ではオーディエンス開発の直属のボスはCEO兼ファウンダーのアレックス・スケイテル氏だ。まだ成長途中で若い企業のインデペンデント・ジャーナル・レビューにとってオーディエンス開発は、マーケティングの側面が大きい。ユーザーたちがどのような人々なのかを見極めることに集中している。だからといって、エディトリアルは何のデータもなく運営されているわけではない。「我々のエディターたちはプラットフォームを理解している。それは彼らのDNAに既に組み込まれている」と、スケイテル氏は言った。
ほかには、ビジネスとエディトリアルのハイブリット形式でオーディエンス開発を行っているところもある。2008年に創立されたブリーチャー・レポート(Bleacher Report)がそのひとつだ。
創立時はオーディエンス開発のゴールは比較的シンプルなものであった。サイトになるべく多くのリーダーを来させること。いまではオーディエンスの拡大はあらゆるスタッフの業務の一部だ。人々がシェアをしてくれて、新しいオーディエンスにリーチできるタイプのコンテンツを強調することが重要になった。それぞれの部門のアプローチがお互いに整合性が取れていることを確認するため、各部門のトップは定期的に話し合い、コラボレーションを行っている。そのコラボレーションをさらに深めるため、ブリーチャーレポートはスレート(Slate)の元プレジデントであるキース・ヘルナンデス氏を戦略シニアバイスプレジデントとして雇った。彼は収益とコンテンツのあいだを結びつける役割を担うことになる。ただスケールだけを単純に追いかけてしまっており、オーディエンスとのコネクションを深くして、新しいオーディエンスを獲得することができていない状況を避けることが狙いだ。
「私たちは非常に面白い時代に突入した。リーチできる人々の数はとても多い、しかし、オーディエンスの定義は、これまで以上に曖昧になっている」と、ブリーチャー・レポートのプレジデントであるロリー・ブラウン氏は語る。
ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)では、オーディエンス開発は昨年はじまったデジタルトランスフォーメーションプロジェクトの一部として、デジタルチームの担当となっていると説明してくれたのは、オーディエンス開発とデジタル戦略を担当する新しいシニアバイスプレジデントであるジョナサン・ハント氏だ。ソーシャルやオーディエンス開発は以前であればサポート部門寄りであったという。しかし、いまではコンテンツ制作の最初からオーディエンス開発は関わってくるし、デジタル戦略やセールスのプロセスでもそうだ。それによって、ナショナル・ジオグラフィックの巨大なソーシャル上のパワーを活用することができるという。
2時間マラソン関連のコンテンツ「ブレーキング2(Breaking2)」をプロモーションするための、ナイキ(Nike)とのコラボレーションで、このアプローチが取られた。ハント氏のチームは制作の初期の段階から関わり、ソーシャルメディア上で人気の写真家を送り込み、イベントを捉え、ソーシャル上のコンテンツを制作した。それによって生まれたインプレッションは3700万にもなるという。
CNNは去年新しくオーディエンス開発チームを設立した。セールスともエディトリアルとも独立した形で成立されたこのチームは、両方の分野の経験をもつ専門家が、スタッフとして投入された。「(オーディエンス開発は)セールスの業務とするべきではない。ほかのことを一切考えずに収益についてだけ考える、という状況に陥ってしまうかもしれないからだ。しかし、エディトリアルだけの業務となってもどうやってお金を生むかを考えなくなってしまう」と、ハーバート氏は説明した。
CNNのエグゼクティブたちは、この独立したオーディエンス開発のアプローチは成果を上げているという。彼らが成果として指し示すのはニュースレターの拡大だ。ニュースレターの購読者たちは、ほかのチャンネル経由で来るリーダーよりもエンゲージメント度が高いため、CNNを含む多くのパブリッシャーたちが指標として強調するようになってきた。CNNのデータサイエンティストたちは購読者データを分析し、エンゲージメント度の高さに応じてユーザーのセグメントを特定する。それをニュースレターのライターやプロデューサーたちとシェアすることで、彼らがオーディエンスを理解し、コンテンツがどのように読まれているかを理解する助けとなる。
またデータはセールス部門にも渡る。特定のオーディエンスにリーチすることに興味があるマーケターにターゲットを絞ることができるからだ。過去6カ月間、CNNはニュースレター購読者数は3倍以上に増加したという。ニュースレターのなかには、ほぼ7倍の増加を見せるものもあった。
「私たちが生きているこの時代では、チーム間でそれぞれの言葉が上手く通じないような障壁を持ち続けることは持続可能なジャーナリズムモデルではない。究極的にはグループとして、可能な限り統一され、整合性のある組織にするのが理想だ」と、ハーバート氏は語る。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)
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