AT&Tと大手eスポーツ団体であり、アパレル企業としての顔も持つ100 Thievesが手を組み、同社のVRプラットフォーム内に「AT&T Station」を立ち上げる。これはAT&T初のメタバース進出である。
AT&Tと大手eスポーツ団体であり、アパレル企業としての顔も持つ100 Thieves(ワンハンドレッド・スウィーブス)が手を組み、VRプラットフォームのVRChat内に仮想空間、「AT&T Station(AT&Tステーション)」を立ち上げる。これはAT&T初のメタバース進出であり、100 Thievesにとっても、収益性の高い同社のアパレルラインにおける、はじめての取り組みでもある。
AT&Tは、この取り組みに100 Thievesを招待する前から、VRChatと仮想空間の開発をスタートしていた。両者の提携が2021年1月に発表されてから、AT&Tは100 Thievesのチームジャージやソーシャルメディアに大きく取り上げられ、100 Thievesのロサンゼルス本部にFPSゲーム、Valorant(ヴァロラント)用のトレーニングルームを提供している。100 Thievesでパートナーシップ担当を務めるアソシエイトディレクター、ケルシー・シュルツ氏は、「AT&Tは、ゲーミング界を先導する存在である100 Thievesを迎え入れるのは、自然な流れと感じていたようだ」と話す。
AT&Tはアクティベーションを仕掛けていくことに加えて資金を提供し、100 Thievesがクリエイティブ面をサポートする。両社とも財務的な関係について詳細は明かさなかったが、AT&T Stationの資金はAT&Tのゲーミング予算から直接提供されている。AT&Tのスポンサーシップおよびエクスぺリエンシャル担当のアシスタントバイスプレジデント、サビーナ・アーメド氏は「新規事業のために、最適なリソースを投じている」と話す。
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AT&T Stationの中身
AT&T Stationは、水と宇宙空間を思わせる星空に囲まれた一連のバーチャルな部屋で構成され、高い没入感が得られる。バーチャルな部屋には1階と2階があり、ユーザーはバーチャルなバスタブやキャンプファイヤーを囲んで集い、ポップコーンを片手に映画館に行って『スーサイド・スクワッド(The Suicide Squad)』といった、ワーナーメディア(WarnerMedia)のコンテンツを視聴することができる。
100 Thievesのエリアは、インターネットミームとストリートウェアにインスパイアされており、センスに溢れている。また、100 Thievesが展開するアパレルラインもバーチャルに再現されており、同社に関するトリビアゲームなどが楽しめる。シュルツ氏は「我々のコラボレーション担当チームは、100 Thievesのブランド、マーケティング、コンテンツ、アパレルの各チームと密に協力し、同社のブランド基準に沿い、100 Thievesのアパレルラインである『Foundations(ファウンデーションズ)』を可能な限りリアルに展示できるよう努めた」と話す。
なお、100 Thievesのチームメンバー兼共同オーナーのレイチェル・ホフステッター氏(オンラインネーム:Valkyrae[バルキリー])によると、近年100 Thievesファンのあいだでは、VRやメタバースのコンテンツに対する需要が高まっているという。100 Thievesはそれに応えるべく、2020年11月にはフォートナイト(Fortnite)のクリエイティブモードに設けた本社の仮想版をファンに公開し、2021年9月にはアパレルラインのプロモーションのためにマインクラフト(Minecraft)のカスタムサーバーを立ち上げている。なお100 Thievesとしては、VR内でのアクティベーションは今回が初となるが、ホフステッター氏は、VRヘッドセットなしでアクセスできることが、ユーザーにとっては重要だと強調する。「個人的に、VRヘッドセットを使うとめまいを感じることが多いので、装着しなくてもAT&T Station内を見て回って楽しめるのはすごくクールだと思った」。
100 Thievesが享受できるメリット
100 Thievesから見ると、今回のアクティベーションでもっとも有益なのは、アパレルを仮想空間で展示、販売できる点だろう。100 Thievesの事業戦略においては、以前からストリートウェアの「ドロップ(drops:限定販売)」が大きな位置付けを占めている。ザ・バージ(The Verge)は2019年に100 Thievesを、「eスポーツのSupreme(シュプリーム)」とも呼んでいる。流行の先端を行くデザインは、メインストリームのストリートウェアブランドとヒップホップシーンにヒントを得たもので、カルチャー通のファン層を引き付けている。100 Thievesのアパレル限定品のドロップは、多くの場合わずか数時間で売り切れる。
AT&T Stationのデザインには、エピック・ゲームズ(Epic Games)より開発されたゲームエンジン、アンリアルエンジン(Unreal Engine)が使用され、100 ThievesのFoundationsの服をリアルに再現して、バーチャルマネキンに着せている。いまのところ、再現された服をユーザーが実際に着ることはできないが、今回のアクティベーションでは100 Thievesをテーマにした限定版VRChatアバター2体を手に入れることができる。シュルツ氏によれば「AT&T Stationに展示されている、Foundationsの商品にはクリックできるリンクが用意され、そのリンクで直接100 Thievesのサイトに行き、その服を購入することができる」そうだ。
アーメド氏は、AT&T Stationのような仮想空間に関わるのは、通信会社として自然な展開だと話す。「当社は本質的にゲームの世界とのつながりがある」といい、「AT&Tの技術、特に5Gと光通信に関する技術は、とてもゲーミングと相性が良い」と語る。
AT&Tの狙い
そもそも、AT&Tが100 Thievesにコラボを呼びかけたのは、特定の年齢層にリーチすることが主な目的だった。メタバースコンサルタントのワグナー・ジェームズ・アウ氏の2019年のレポートによると、VRChatユーザーの約75%は18歳から34歳、これは100 Thievesのターゲット層と重なる。AT&Tには仮想空間を構築するための技術はそろっているが、宣伝チャネルはない。100 Thievesのストリーミングやソーシャルメディアを通じて、メタバースに人を呼び込みたいというわけだ。
AT&T Stationはユニークなアクティベーションであり、高い没入体験を創り出すことができるが、何よりもエキサイティングなのは、それが示す未来かもしれない。少なくとも2021年末までは、VRChatを通してAT&T Stationにアクセスできるが、AT&Tが目指すのは真のメタバース、つまりフルアクセス可能かつ無期限に存在する、永続的なデジタル仮想空間だ。
今回のアクティベーションにおけるデジタル衣類とeコマースビジネスの展開は、ドロップにとって仮想空間に進出する第一歩となる可能性がある。現実世界とデジタル世界の境目が薄れていくなか、AT&T Stationのブループリントに基づいたブランドのコラボは今後も増えていくだろう。
「この試みがどのような結果につながるか、楽しみにしている」とアーメド氏は話す。「我々のチャレンジはここからスタートする。今後もこのパートナーシップを育てていこうと思う」。
[原文:AT&T and 100 Thieves are bringing their partnership into the metaverse with the AT&T Station]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)