アスレチック(The Athletic)のようなスポーツ関連のニュースを専門にしたサブスクリプションサイトが急成長している。そんななかで、既存の新聞社たちもスポーツに特化したデジタルサブスクリプションを構築しようとしているようだ。
アスレチック(The Athletic)のようなスポーツ関連のニュースを専門にしたサブスクリプションサイトが急成長している。そんななかで、既存の新聞社たちもスポーツに特化したデジタルサブスクリプションを構築しようとしているようだ。
新聞チェーンであるマクラッチー(McClatchy)は、そのひとつである。マクラッチーはスポーツ関連のサブスクリプションサービスを、彼らが抱える12のマーケットのうち3つに提供開始した。カンザスシティ、マイアミ、そしてノースキャロライナ州のローリーだ。ニュースすべてにアクセスできるセットはマイアミとローリーでは130ドル(約1万4500円)、カンザスシティでは96ドル(約1万700円)だが、スポーツ関連に限定されたデジタルアクセスは最初の1年が30ドル(約3300円)、その後50ドル(約5600円)になる。
A.H.ベロ(A.H. Belo)が所有するダラス・モーニング・ニュース(The Dallas Morning News)もスポーツ関連のニュースを扱うスポーツデイ(SportsDay)すべてにアクセスできるサービスを1.49ドル(約160円)/週から提供。これは年間78ドル(約8700円)に相当する(もっとも人気がある、デジタル版完全アクセスは117ドル[約1万3100円]だ)。
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秋のアメフトシーズンに先駆けて、これらのサービスをマーケティング展開している。もちろんマーケティングのフォーカスはアメフトだが、他のスポーツの宣伝も忘れてはいない。ダラスの場合はカウボーイズ、マベリックスといった地元チームのファンたちにもリーチしようとしている。
「我々のマーケットに非常に熱狂的なスポーツファンの基盤があると理解している。スポーツは文化の大部分を占めているからだ。この分野でバーティカルを開発することは理にかなっている」と、モーニング・ニュースのデジタルオーディエンス部門責任者であるダン・シャーロック氏は言う。
手っ取り早い手法
これらのマーケットはフランチャイズチームも存在している。そのことがスタートアップのアスレチックを引き寄せたのだ。彼らは3000万ドル(約33億円)の資金調達を行っており、年間48ドルで各地のスポーツニュースを提供するというサービスを開始した。いまではアスレチックは300人規模のエディトリアルを持ち、48のマーケットに展開している(モーニング・ニュースの主張によると、彼らのスポーツ限定のサービスは、アスレチックがやってくる前に開始されたという)。
「アスレチックがマーケットに食い込むことに全力を尽くしているのを見て見ないふりすることはできない。広告ではなく、クールなユーザー体験がキーとなっているのだ」と語ったのは、アメリカン・プレス・インスティテュート(the American Press Institute)のリーダー収益部門ディレクター、グウェン・ヴァーゴー氏だ。
ニュース業界はどうやって今後オンラインで、持続可能な運営をしていくのか見極めるために苦しんでいる。そんななか、読者たちが有料サービスに支払ってくれる関係をなるべく多く持とうとしている。スポーツ分野は熱狂的なファンを集める傾向にあるので、読者から収益を生み出すのに手っ取り早い手法となっている。アメリカン・プレス・インスティテュートが最近行った調査では、全国の各地ローカル新聞社90社にサブスクリプション契約をしている4100人の登録者たちを対象に、なぜサブスクリプションに登録したのか理由を尋ねている。そのなかで特定のトピックに強い興味があるからと回答した人々は23%であった。そして、スポーツはフォローしているトピックとしては三番手に位置していた(26%)。一番は政治一般(53%)、そして国内政治(33%)が二番となっている。同じく26%で三番手に位置していたのは、大学・高校のスポーツだった。
スポーツだけを選ぶ層
マクラッチーのデジタル・オーディエンス部門責任者であるグラント・ベレーラ氏は、サブスクリプションへと人々を導く方法は限られていること、そして読者層はすでに存在していたことから、スポーツ専門のサブスクリプションというアイデアが生まれたと説明する。
「スポーツ関連だけを選ぶ層は非常に大きく、高い割合でエンゲージメントを見せている。しかし、ニュース全体のサブスクリプションにはためらうという層だった。我々にはすでに築き上げてきた関係性がある。多くのマーケットにおいて、これはカット、ペースト、といった繰り返しで行うことができる」と、ベレーラ氏は言う。
アスレチックは、この他社によるニュース専門のサブスクリプションについて直接言及はしなかったが、彼らのプロダクトの方が優れているという点は譲らなかった。
「アスレチックが行っていることはすべて、最善のバリューをサブスクライブ登録者に提供することにフォーカスしている」と、共同ファウンダーのアレックス・マザー氏は言う。「アスレチックは包括的なニュース構成を持っている。ローカルな深い報道、スポーツにおける有名選手に関する全国的なニュース、世界中のサッカー関連の報道、ファンタシー・スポーツ、WNBAといった特定のトピック、などだ。これは他のどんなパブリッシャーとも異なっている。さらに我々は読者の体験を第一に考えており、広告を排除し、サブスライバー同士、ライターたち、選手やコーチとも交流できるコミュニティを提供している。我々のユーザーは、このようなサービスは、他では手に入らないことに気付いている」。
どの程度スケールするか
読者がこういった新しいサービスにどれくらいのスケールで集まるか、判断するにはまだ時期尚早だ。デジタルニュースに関してパブリッシャーたちに助言を行っているザ・レンフェスト・インスティテュート(The Lenfest Institute)のエグゼクティブ・ディレクターであるジム・フリードリッヒ氏は、ほとんどのデジタルニュースのサブスクライバーたちは一定料金で「読み放題」なデジタルニュースに喜んで加入していると語る。「とは言っても、スポーツ、フード、政治、論説といったひとつのトピックに大きな興味を持ち、そこで大部分の時間を費やすのも珍しくはない。この文脈では、彼らがその特定のトピックだけにサブスクライブできるか頼んできた形だ」と、彼は言う。
モーニング・ニュースのスポーツ関連サブスクリプションのユーザー数が何人か、シャーロック氏は明かさなかったが、アスレチックがマーケットに参入してきたあとも拡大を続けているという。「マーケットは大きく、アスレチックにも居場所があることは確かだ。新しい参入があることは、全員にとって良いことだ」と、彼は言う。
マクラッチーもスポーツ関連のみのサービス提供に関して、具体的な結果は明かさなかった。まだローンチから数週間しか経っていない。しかし、徐々に増加を見せているという。サービスを継続するのに十分なモチベーションになっているようだ。今後は、このサービスをケンタッキー州レキシントン、テキサス州のダラス/フォートワース圏といった大手スポーツチームが存在しているマーケットに拡大する予定だという。
地理的要因に制限されない
全体のサブスクリプション数という点で、スポーツ関連のみのサブスクリプションサービスが既存のニュースサブスクリプションと競合してしまう形になるのか、それとも数をただ上乗せする形になるのかは、今後注目するべきだろう。またスポーツにのみ興味を持っているサブスクライバーたちがどれくらい長続きするのかも重要だ。その点に関して、新聞社たちは彼らが提供しているあらゆるスポーツ関連の報道をしっかりとアピールしている。長年の深く掘り下げたレポートや、ダラスの例だと限定ニュースレターといった他の特典といった具合だ。
スポーツ関連のサブスクライバー数はそれほど大きくは無いかもしれないが、読者たちの興味は自分の地元だけに限らない、というのはひとつの利点だ。ベレーラ氏がいま求めているマーケットはスポーツ関連の読者のうち65%が地域の外に存在しているようなマーケットだ。このようなマーケットではチャンスは地理的な要因に制限されないからだ。
「何千人単位で探し求めている。これを非常に強く求めている層が存在していると我々は信じている。ファンというのは国のさまざまな場所に存在している。ハンガリー在住の男が、自分の地元のニュースを知っておきたいから遠く離れていても地元の新聞をサブスクライブする、というケースもある」と、ベレーラ氏は語った。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)