朝日新聞社 が「ポトフ」で切り拓く、新聞メディアの未来:「伝える」から「つなげる」へ

「コミュニティ」は、デジタルメディアに欠かせない要素となりつつある。

朝日新聞社は2018年春より、兼ねてから準備を進めていたバーティカルメディア事業、「ポトフ」を本格化。3月から6月にかけて、ライフスタイルやペット、読書など、さまざまな分野に特化した合計5つのバーティカルメディアを立ち上げた。英語で「洋風おでん」を意味する「ポトフ」という名前には、ひとつひとつの美味しい素材が、お鍋の中で一緒になって、より豊かな味わいが生まれように、気分や興味に合わせて、好きなコンテンツを楽しんでもらいたい、という思いが込められているという。この事業で同社は、「コンテンツ&コミュニティ」を軸に、多様なコンテンツを通じた、コミュニティの創造に取り組んでいく。

「デジタルや、SNSを通じた情報取得が多様化するなか、我々新聞社もその流れに最適化する必要がある」と、同事業の最高責任者であり、6月26日の同社株主総会でCTOに就任した、高田覚氏は語る。「このバーティカルメディア事業は、そうした背景のもと生まれた」。

「伝える」から「つなげる」へ

新聞社はこれまで、すべての人に平たく情報を『伝える』ことを旨としてきた。しかし、「ポトフ」では、特定のテーマに特化したWebメディアを通じて、それぞれに関心のあるユーザー同士を『つなげる』ことで、コミュニティの形成に貢献すると、高田氏は語る。

現在公開されているメディアは、ミレニアル世代女性向けの「telling,(テリング)」、犬や猫との生活に寄り添う「sippo(シッポ)」、「ひとりを楽しむ」がテーマの「DANRO(ダンロ)」、国際ニュースを現地取材で伝える「GLOBE+(グローブプラス)」、本との出会いを手助けする「好書好日(こうしょこうじつ)」の5つ。そのうち新規で立ち上げたのはtelling,とDANROで、そのほかは既存のメディアをリブランディングしたものを展開している。さらに、2020年までに、総計20を超えるメディアを揃えていくという。

「この第1弾となる5メディアの方向性は、約300以上あったテーマ候補のなかから、朝日新聞本紙との役割分担ができるか、事業としての可能性があるかどうかを軸に決めた」と、高田氏は語る。「現状は広告モデルを採用しているが、今後はイベント、eコマースなど、各メディアに最適なマネタイズ方法を模索していく」。

朝日新聞社だからこその強み

とはいえ、バーティカルメディア自体は、決して目新しい試みではない。そんななか、朝日新聞社だからこそ発揮できる強みは、どこにあるのか? この問いに対し、「ポトフ」事業を担う、部門横断の組織「総合プロデュース室」の室長・宮崎伸夫氏は、「我々の強みは、社会課題に向き合う視点を持っていることだ」と答えた。

たとえばsippoのコンテンツのなかには、動物愛護など、ペットに関わる社会問題に関して取り上げたものもある。かわいい保護犬や保護猫の写真を鑑賞できるイベント、「みんなイヌ、みんなネコ」の開催も、関連する取り組みのひとつだ。また、女性をターゲットにしたtelling,でも、婚活や妊活といった、報道でも取り上げるような社会課題に関するトピックを、等身大かつジャーナリスティックな視点で伝えるコンテンツを企画している。

「あえて社会的な視点を全面に押し出してくつもりはないが、こうした根本的な考え方は、競合メディアとの差別化に繋がると考えている」。

   

とある

かわいい保護犬や保護猫を展示するイベント『みんなイヌ、みんなネコ』の様子。
直近では8月16日に新宿、京王百貨店で開催された。

   

アジャイルな戦略

これらバーティカルメディア群は、共通のCMS「ポトフ」で運営される。事業名と同様の名を冠するこのシステムを活用することで、各媒体で蓄積されたノウハウをスムーズに共有し、バーティカルメディア全体の成長を加速させる狙いがある。

また、宮崎氏は「編集者目線の柔軟な操作性と、新規メディアの迅速な立ち上げを想定した、アジャイル開発に適した設計」を、ポトフの機能的な特徴として挙げる。「朝日新聞デジタル」のCMSとは別に、編集者も巻き込んで、フルスクラッチで開発されたという。

とはいえ、「まだ完成ではなく、これから走りながらさまざまな機能をブラッシュアップしている段階だ」と、高田氏は語る。「今後は、海外メディアが取り入れているような、データ分析の結果を見ながら、スピーディーにタイトルやコンテンツのPDCAを回していけるような機能を追加していきたい」。

140年来のチャレンジ精神

朝日新聞社がデジタル事業に参入したのは、Yahoo!(ヤフー)が設立された1995年。インターネットの「黎明期」に、現在の朝日新聞デジタルの前身にあたる「asahi.com(アサヒ・コム)」をローンチしたのがはじまりだ。

2009年にはシーネットネットワークスジャパンから、テクノロジーメディア「CNET Japan」や「ZDNet Japan」などのメディア運営事業を買収し、これを子会社化。3年後の2012年には、asahi.comを朝日新聞デジタルに改名するなど、デジタル化をさらに加速させていく。その後も「ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン(現在はハフポスト日本版に改名)」や、難解な情報を分かりやすく届けるニュースサイト、「withnews(ウィズニュース)」など、多くのデジタルメディアを展開してきた。

バーティカルメディア事業をはじめ、こうしたチャレンジの背景には、創業時からの「新しいことに挑戦する文化や風土がある」と、高田氏は語る。「我々は、社会の多様なニーズに答えようと、常に進化を続けている。創業時から根付くこのチャレンジ精神は、創業から約140年経ったいまでも変わらない」。

Written by Kan Murakami