eスポーツ界でもっとも長い歴史を誇るライブイベントのひとつ、ドリームハック(DreamHack)。そのドリームハックがいま、リブランディングに本腰を入れている。 同社は昨年9月、スウェーデンの持ち株会社、モダン・タイムズ […]
eスポーツ界でもっとも長い歴史を誇るライブイベントのひとつ、ドリームハック(DreamHack)。そのドリームハックがいま、リブランディングに本腰を入れている。
同社は昨年9月、スウェーデンの持ち株会社、モダン・タイムズ・グループ(Modern Times Group)が所有する有名eスポーツブランド、ESLと合併。両社は現在、「ESLゲーミング(ESL Gaming)」というブランドを掲げて活動している。そんななかドリームハックは、現在ESLを介してeスポーツシーンとのつながりを維持しつつ、より広い意味での、ゲームとライフスタイルの祭典という自身のルーツへの回帰をめざしている。
世界最大級のゲームフェスティバルによる、大胆ながらも慎重な路線変更。それは、eスポーツ界において力を持つ企業たちが、非ハードコア系ゲーマーたちの注目(とお金)をより一層切望しているというサインでもある。eスポーツのさまざまな大会が『オーバーウォッチ(Overwatch)』や『コール・オブ・デューティ(Call of Duty)』といった人気作の売上を押し上げていることは確かだ。しかし、ゲームのライブイベントのチケット代を進んで払いたがるファンのうち、ハードコアなeスポーツファンはごく一部だ。
Advertisement
ドリームハックのこれまで
第1回のドリームハックは、1994年にスウェーデンのマルングで開かれた。当時のドリームハックはゲームイベントであると同時に、北欧の「デモシーン(demoscene)」と呼ばれる、プログラマーが高度に様式化されたコンピュータープログラムを作成してコーディングを披露する、サブカルチャーに結びついたパーティイベントでもあった。ESLゲーミングで、ブランドおよびコーポレートマーケティング部門のバイスプレジデントを務めるシャヒン・ザラビ氏は、次のように語る。「2~4日間の開催期間中に、そこに集まったグループや個人が互いに腕を競い合って、コンピューターによる最高にクリエイティブな作品を生み出していた」。
以来、ドリームハックの対象は大きく広がってきた。ドリームハックは過去20数年のあいだ、「デモシーナー(demosceners)」たちからなる草の根集団から、成熟した企業へと変貌を遂げることになる。彼らが手がける有料イベントの年間スケジュールも、eスポーツの大会とゲームカルチャーの祭典で埋められるようになった。ドリームハックの広報担当者によれば、コロナ禍前の最後のイベント、ドリームハック・アナハイム2020(DreamHack Anaheim 2020)は1万5518人を動員し、その賞金総額は51万2500ドル(約5800万円)を超えたという。ドリームハックが2019年に開いたさまざまなイベントには、トータルで34万5000人が詰めかけている。
だが、この成長には痛みがともなった。ドリームハックの各種イベントは人気を集めたが、そこには統一感のあるブランドアイデンティティが欠けていた。eスポーツ界のドル箱イベントと、彼らのルーツであるもっと広い意味でのゲームシーンに二股をかけている状態だったのだ。「ESLとドリームハックが合併する前は、こんなことはいいたくないが、我々は自分自身を窮地に追い込んでいる状態だった。eスポーツに頼りすぎていたのだ」と、ザラビ氏は語る。同社は、広告主やブランドパートナーからのプレッシャーを感じ、金になるeスポーツサイドのビジネスを重視するようになっていたという。
ゲーム業界のSXSWを目指して
今後のドリームハックのイベントは、さまざまな点で大きく変化することが見込まれている。『カウンターストライク(Counter-Strike)』や『ドータ2(Dota 2)』といった、eスポーツタイトルのトーナメントも依然として行われるが、これらのトーナメントはESLのイベントとして、明確にブランディングされることになる。「ドリームハック・オープン(DreamHack Open)は、ESLチャレンジャー(ESL Challenger)へと名称変更されるが、ドリームハック・オープン・アトランタ(DreamHack Open Atlanta)に関しては、今後もそのままの名称で展開される」と、ザラビ氏は話す。
しかし、ドリームハックのeスポーツ事業の名称変更は、より大きな計画のほんのはじまりにすぎない。ドリームハックのクリエイティブ担当バイスプレジデント、ジャスティン・バーナム氏は、ドリームハックの未来を「ゲーム業界のSXSW」として思い描いている。ドリームハックは文化の祭典として、アーティストアレイとコスプレコンテストの伝統を維持しながら、ゆくゆくはハッカソンの特設会場なども追加し、デモシーンという自身のルーツを称える計画も温めている。「彼らには、そのクオリティとともに戻ってきてくれることを期待している」と、バーナム氏は語る。
同氏によれば、ESLとドリームハックの両ブランドは、現在合併を経てお互いを共生的にサポートする関係にあるという。整備の行き届いたeスポーツサイドの役割をESLが担い、ESLのeスポーツプロパティへ誘導できそうなカジュアルゲーマーのコミュニティを、ドリームハックが切り開いている。
「ドリームハックは、ある種のインキュベーターのような存在だ」と、バーナム氏は語る。「『ロケットリーグ (Rocket League)』の新作や『フォールガイズ(Fall Guys)』の新作といった、期待作のコミュニティトーナメントを開催する計画もある。ドリームハックのインフラで十分に収まるので、始動のきざしも見えてきた。もっとも、eスポーツのトーナメントになると思われるので、ESLのプロダクトにはなるが」。
また、より広くゲームにフォーカスするブランドとして再出発したドリームハックは、昨年合併に先立ち、新たなビジュアルブランドアイデンティティの採用にも踏み切っている。
ドリームハックとESLのビジュアルブランディングの開発に協力したエージェンシー、スーパーユニオン(Superunion)で、シニアクリエイティブディレクターを務めるマータ・スワニー氏は、次のように語る。「ドリームハックは、eスポーツを最重要視していない。彼らにとってeスポーツは、ゲーム全体を構成する一部分にすぎない。我々の目には、それがESLとは大きく違っているように映った。ESLの中心はeスポーツだ。トーナメントをいくつも開催しているし層も厚い。ドリームハックのカウンターパートとしてはうってつけだろう」。
ルーツは見失っていない
結局のところ、過去に参加経験のあるゲーマーのほとんどにとっては、ドリームハックのさまざまなイベントが提供してくれる対面型の体験が、大きく変わることはないだろう。しかしその一方でドリームハックは、今後eスポーツトーナメントというお決まりの枠に自らを押し込むのではなく、ESLとの関係を活用してeスポーツとの関係を維持しながら、ゲームコミュニティの大部分を占める、カジュアルゲーマーの呼び込みに力を注いでいくことになるだろう。
ドリームハックは長い道のりを経て、「スウェーデンで毎年開催されるフェスティバル」というルーツから、世界にその名を轟かせるゲームとeスポーツの国際的なイベントのひとつというポジションへとたどり着いた。しかし、それでもいまなお、ライフスタイルとしての「オタク」文化を称賛するイベントという自身のルーツを見失ってはいない。「ドリームハックの基礎は、こうしたゲームコミュニティやプラットフォームだ」と、ザラビ氏は語る。「デジタルプラットフォームではない。情熱を同じくする人々が多数集まり、未来を自由に思い描ける場所なのだ」。
[原文:As in-person events gradually return, DreamHack looks to become ‘a SXSW of games’]
ALEXANDER LEE(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)